西武・森友哉の激白「キャッチャーよりもDHがいい」
5月26日にセ・パ交流戦がスタートし、西武・森友哉が巨人戦に「6番・ライト」で出場。今季初めて守備についた影響があったのだろうか、森は巨人のエース・菅野智之の前に3三振を喫してしまった。
交流戦前から森の起用法について、「捕手として出場させるべき」や「打者として育てたほうがいい」といった議論が沸き起こっていた。ただ、あのバッティングを最大限に生かすためには、今季はもちろん、来季以降も、たとえ炭谷銀仁朗がいなくなることがあったとしても、キャッチャー以外のポジションで出場を続けたほうがいいのではないかと思う。
一昨年のドラフト直前、森にプロ入り後の自分について話を聞いた時だ。キャッチャーとして勝負するのか、それとも打力を最優先しキャッチャー以外のポジションで勝負するのかを尋ねると、次のような答えが返ってきた。
「もうキャッチャー辞めようかな。無理っす。僕には向いてないですわ(笑)」
それまでは「キャッチャーとして、バッティングもしっかりやっていきたい」と答えていた森だったが、プロでキャッチャーをやることの大変さや、負担の大きさを想像したのだろうか。あっさり、それまでの発言を撤回したのだ。
高校時代から森のバッティングを見てきたが、大きくタイミングを外されたり、体勢を崩されたりするのを見たことがない。そればかりか、ほとんどの球をバットの芯でとらえていた。とにかくバッティングに関しては"超高校級"であり、大阪桐蔭高の西谷浩一監督も「教え子の中で、森はナンバーワンの打者」と言うほどだった。つまり、西岡剛(阪神)や中村剛也、浅村栄斗(ともに西武)、中田翔(日本ハム)より上という評価だ。
その一方で、キャッチャーとして森を見た時、プロの世界でもレギュラーとしてやっていける力は感じながらも、バッティングほどのインパクトはなく、過去のトップクラスの高校生捕手と比べ、抜けていると思うことはなかった。
今年のキャンプ出発直前の1月29日。ファンを前にした出陣式の壇上で、森はこう言い放った。
「まずはシーズンを通して一軍に居続けることを目標に、炭谷さんに追いつき、追い越したいと思います」
炭谷の前で堂々の正捕手奪取宣言だった。昨年、夏場から一軍出場を果たし、バッティングでは3試合連続本塁打を放つなど、高卒1年目の選手とは思えない活躍を見せた。それに伴い、「今年は森が正捕手か!?」という報道もあったが、現時点でスローイング、キャッチング、配球、投手との信頼関係など、捕手として炭谷との力の差は歴然。「追いつき、追い越したい」という言葉からは、捕手へのこだわりというより、一軍で4打席立てる場所がほしいという思いを強く感じた。
なにより、捕手以外のポジションを求める理由は、高校時代から幾度となく話を聞いてきた中で感じた、森の思考の部分だ。よく捕手は、周囲を広く見て、相手を気遣い、理詰めで物事を考えると言われている。ただ、森とは「捕手論」や「配球」といったキーワードで話が広がった記憶がない。
そして田辺徳雄監督はキャンプ中、「(炭谷)銀仁朗と競わせますが、森がとんでもなく打つようならDHでの起用も考えます」と語ったが、その言葉通り、開幕からDHで起用され、交流戦が始まるまで打率.300、本塁打9、打点27と、文句のない成績を残している。
それでも、「捕手は実戦で経験を積まないと育たない。球団はどう考えているのか」というように、19歳のDH起用に疑問を投げかけるメディアもあった。もちろん「打てる捕手」として育ってほしいという思いもあるのだろうが、森の本当のすごさは「捕手」ではなく「打者」なのだ。事実、森は次のように語る。
「よく『守りからリズムを作る』とか『守った方がバッティングにいい影響を与える』と言う人がいるじゃないですか。その感覚、僕にはないんです。打つことだけで言えば、キャッチャーをやっている時より、DHの方が絶対にいい」
昨シーズン、森は41試合に出場して打率.275、6本塁打、15打点の成績を残したが、先発マスクを被った14試合は打率.227、2本塁打、6打点。はっきりと数字に表れた。
「キャッチャーとして試合に出ると、考えることがいっぱいで試合中は常に守りのことが頭にあります。それに、試合が終わったあとの疲れ方が全然違います。だから、バッティングに集中できるということでいえば、DH、外野、キャッチャーの順ですね」
以前、「バッティングでいちばん大事にしていることは?」と聞いた時、森は「打席の中で無になることです」と言い、こう続けた。
「無になれた時は、ほとんど打っているイメージがあるんです。高校2年の夏に健大高崎戦でホームランを打ったのですが、あの時がいちばん無になった感じがありました。1球目を見送った時に、パッと頭の中に次の球のイメージが沸いて、それをこういう感じでスイングすれば打てると。そしたら、その通りのボールが来て、イメージ通りにスイングしたらホームラン。あの時は最高に集中できていたんだと思います」
打席の中で"無"になることを何より大事にし、最優先させるのであれば......やはり捕手以外のポジションで試合に出るべきではなかろうか。
先日、イチロー選手がベーブルースの通算安打記録を抜いたことが話題になったが、たとえば20年後、森がこの種の記録で騒がれても驚かない。とにかく、バッティングに関しては球史に名を刻む選手になる可能性は十分にある。
ベンチに引き上げる森に「三冠王を期待しているよ」と声を掛けると、森は「頑張ります」とまんざらでもない表情で答えた。近い将来、プロ野球史上8人目の男になっても不思議ではない。将来を占う上でも、交流戦での森のバッティングに注目したい。
谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro