『りゆうがあります』ヨシタケシンスケ (作・絵)/PHP研究所

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子どもの頃のクセを覚えているだろうか。私は寝る時に親指をくわえるのがクセだった。
その時はそのクセに対して大した理由も持ち合わせておらず、ただ欲求に従っていただけだったが、親から「指がなくなるぞ」と言われ、保育園のお昼寝の際に自分のクセについての気恥ずかしさを覚えた頃、私のクセはひとつ減った。
しかし、今見ても私の指はあるし(なんだか短いが)指をくわえていれば安心して眠れたので、クセを続行することに別段問題はなかったのではないだろうか。

そんなことを考えていたら、書店である絵本を見つけた。PHP研究所から発行されている『りゆうがあります』だ。
本書に出てくる主人公の男の子は、ハナをほじったり、ツメをかんだり、ついやってしまうクセがいくつもあるのだが、その「りゆう」がとにかく可愛い!
たとえば、貧乏ゆすりの場合は「コレはびんぼうゆすりじゃなくて、モグラ語なんだよ。きょうのできごとをモグラにおしえてあげてるの」とのこと。

他にも、高いところに登ってしまうのは「木から下りられなくなったネコを見つけた時に、助けてあげるための訓練をしているから」であり、ストローをぶくぶくしちゃうのは「『色々あるけど、なんとか元気にやっています』と神様に報告するため」なのだ。

どれもこれも可愛い「りゆう」ばかりなのだが、本書の編集を担当された阿部さんへお気に入りの「りゆう」について伺ってみた。
「一番は、やはり『ハナをほじるりゆう』です。この中に出てくる『クセ』は、自分のためでなく、誰かのためにやっていることが多いのです。その中でも、『ハナの奥のスイッチを押してウキウキビームを出し、みんなを楽しい気持ちにさせるためなんだ!』という子どもなりのもっともらしいりゆうが、一番好きです」とのこと。

本書は、『りんごかもしれない』などのユーモア絵本の著者として知られるヨシタケシンスケさんが描かれており、主人公の男の子やそのお母さんの表情がとても生き生きとしている。

個人的には、クセの「りゆう」を聞いているお母さんの訝しげな表情がたまらなく好きだ。
前述の阿部さんは「お母さんは、子どもが話す突拍子もないりゆうに、『なにをいってるの!』と怒らず、最後までしっかり聞いてくれます。子どもの無限の発想力と、それを受け止めるお母さんの心の余裕が、この絵本の魅力であり、見どころです」と語ってくださった。

このお母さんのモデルとなる方が実際にいたのだろうか? 著者のヨシタケさんに伺ってみた。
「モデルはいませんが、こんなお母さんでいて欲しいという理想像です。自分もこのくらいの余裕をもって、子育てできたらいいなと思います」

ちなみにヨシタケさんの小さい頃のクセについても伺ってみたところ、「ツメをかんで怒られていました。『キレイな形にかめると嬉しいから』というのがりゆうです。キレイな形にかめるので、爪切りいらずでした(笑)」だそうだ。

本書では、男の子のなクセについて描かれているが、「無くて七癖」ということわざがあるように、大人もついやってしまうクセがある。
男の子のクセとその「りゆう」を見ながら、自分のクセについて「りゆう」を考えてみると面白いだろう。また、親子で読んでお互いのクセについて話し合えば、新たな発見に繋がるかもしれない。
(薄井恭子/boox)