楽天・立花陽三球団社長インタビュー(2)

 連覇を目指す東北楽天ゴールデンイーグルスは2014年、至上命題を抱えて新シーズンに臨む。昨季、開幕から無傷の24連勝でチームを牽引した田中将大が抜けた投手陣をどうやって再構築するのか、だ。ドラフトで怪物左腕の松井裕樹、さらにソフトバンクの守護神として実績十分のブライアン・ファルケンボーグを獲得したが、果たして十分な陣容と言えるのだろうか。立花陽三社長に話を訊くと、連覇に向けた確かな手応えを明かしてくれた。

―― 昨季、大車輪の活躍を見せた田中投手がヤンキースに移籍しました。24勝を挙げた投手がいなくなり、どうやって連覇を目指すのですか?

「昨年、田中が残した数字で最も大きいのは、24勝ではなく、212イニングを1点台の防御率で抑えたことです。なかでも、212イニングをどうやって埋めるのかが重要になってきます。幸い、ウチの投手陣の平均年齢は若く、まだ伸びる可能性を秘めている。その伸び率で212イニングを埋め合わせできるかどうかでしょうね」

―― 確かに、塩見貴洋選手や釜田佳直選手、森雄大選手など、成長を期待される投手がたくさんいます。

「そうなんです。それと、レンジャーズからトラビス・ブラックリーという投手を獲得しました。僕らの計算では、212イニングのうち120〜130イニングを彼が埋めてくれると思っています。そうすると、残り70〜80イニングを誰かが埋めてくれればいい。そこは塩見なのか、新人なのかはわかりませんけど、若い投手の伸び率に期待しています」

―― テレビ番組でダルビッシュ有投手が、「マー君のすごさは24勝ではなく、防御率1点台の数字を残したこと」という内容の話をしていました。立花社長はどのような観点で野球を見られていますか。

「例えばピッチャーを見る場合、勝った、負けたではなく、何失点で抑えたのか、どういう点の取られ方をしているのか、ゴロ率はどれくらい高いのかと見るようになります。フライばかり打たれているピッチャーはいつかホームランを打たれるので、ゴロピッチャーにならないといけない。そういうことをずっと勉強してきたので、完全に頭がそっちに行っちゃったんです」

―― 確かに勝ち星は打線の援護が関係してきますが、防御率やゴロ率はピッチャーがコントロールできる要素が強いですね。

「皆さん、『田中が抜けた24勝分は大きい』って言います。でも今シーズン、田中がいたとして計算した時に、「昨年は24勝だったから、今年は26勝する」って見る人はいないですよね? 確かに、15勝か16勝分はなくなると思います。そういう基準で議論をすると、そんなに戦えないことはないかな、と」

―― 報道陣に「田中の穴をどうやって埋めるのか」と訊かれた際、「得点を上げればいい」という話もしていましたね。

「失点が増えることを想定すると、得点を上げるしかありません。それに関しては、ケビン・ユーキリスの加入が一番重要です。もうひとつ言えるのは、AJ(アンドリュー・ジョーンズの愛称)が日本の野球に慣れて、昨年よりもいい結果を残すだろうということです」

―― 「田中が抜ける」とネガティブな見方をされることが多いですが、確かにポジティブな要素もありますよね。ドラフトでは松井投手、内田靖人捕手と大器と言われる高校生を1、2位で指名しました。高校生の上位指名はチーム方針ですか?

「僕らの仮説では、野手は25〜26歳、投手は23〜25歳がピーク。極端に言うと、大学生のピッチャーはほぼ完成されていて、伸びしろがあまりないんです。ましてや大卒の社会人だとすでにピークにあり、そこからプロで育てるとなると、失敗した時のリスクがものすごく大きい。なので、年に1回しかないドラフトでは、基本的には高校生に投資すべきだというのが僕の考えです」

―― 逆に言うと、2012年ドラフト2位で三重中京大学から入団した則本昂大投手は、ピーク時の能力値が高かったから獲得したんですか?

「まだ23歳なので、あと1、2年はパフォーマンスが伸びます。まだまだ進化すると思います。過去の数字から判断していることなので、当然個人差はあります。でも則本くらいの年齢のピッチャーは、完成していないとダメですよね。実際、スピードはもう伸びないかもしれませんね。逆に高校生の松井は、あと2、3キロ伸びる可能性があります。森は去年、身長が3センチ伸びたんですよ。そういう話を聞いても、ワクワクするじゃないですか。そういう選手を獲り続けて、ウチがちゃんとした育成システムを持ってさえいれば、彼らが花開く。それを繰り返していけば、チームは強くなる」

―― 長期的な視点でチームを作っているんですね。

「慌てて、即戦力の社会人を獲り続けると、1、2年は持つかもしれないけど、その見返りはそれほど大きくありません。過去を振り返ると、エースや4番は高校生から生まれるケースが多いです。大学出身のエースや4番は、なかなかいません。もちろん、いないとは言わないですけど、確率的に少ない。エースや4番になれる人材をちゃんと獲っていくという方針のほうが、正しいと思っています」

―― 現場やスカウトの意見は?

「現場もスカウトも、自分たちの意見を強くもっていていいんです。やっぱり現場の人は、絶対に『即戦力がいい』と言います。彼らは今年優勝することをミッションにしていますから、その考え方でいいんです。でも、僕らは常勝軍団を作らないといけない。常勝軍団になるチームの基盤が何かというと、コアになる選手を獲り続けないといけないんです。特に、ドラフト1、2位で獲る選手は絶対にそう。そこを譲ってしまうと、5年後、10年後、とんでもない痛みが返ってくるんです。僕も1年契約ですけど、社長がそれを言ったら終わりなので。そういう意味では、そこは絶対に譲らないし、みんなの前でオープンに話すので、うちのスカウトは全員わかっていると思います」

―― 長期的な視点で見た時に、内田選手を捕手として育てるのか、あるいはファーストやサードとして育てるのか楽しみです。

「彼はこれからの選手。現場に任せています」

―― 常総学院の佐々木力監督に、本格的に捕手を始めたのは高校2年の冬だと聞きました。

「そうです。だからサードがいいのか、キャッチャーがいいのかは、これからの判断じゃないですか。彼のバッティングは本当にすごいみたいで、『もう使えるんじゃないか』という話も聞いています。そうなると、サードかファーストで出るかもしれない。でも、嶋(基宏)の次の捕手を育てなければいけないことも事実です」

―― 松井投手にはどんなピッチャーになってほしいですか?

「どこの球団のスカウトも『欲しい』と言ってくれる選手を獲れたのは、大きいと思います。社会人に即戦力と言われるピッチャーがたくさんいる状況で、多くの球団が手を挙げたということは、彼がすごい投手である証拠。球界を代表する投手にならなければいけないし、そう育てるのがウチの使命だと思います。彼を見ていると、負けん気が強いので。『1年目からやってやろう』という気でいると思います。ただ、野球人生は長いので、焦らずにやってほしいですね。そのあたりは星野監督がうまくやってくれると思っています」

―― 星野監督は「開幕投手もなくはない」と言っていましたね。マスコミ向けのコメントなのでしょうが。

「いや、あの人はやりかねないですよ、ホントに(笑)。開幕戦の西武ドームでいきなり、というのはなくはないですね。星野監督は腹をくくって、若い選手をガンガン使います。ドラフト3、4位あたりも、かなりレベルが高いと思いますよ。いいピッチャーを獲ることができました」

―― 3位はHonda鈴鹿の濱矢廣大、4位は有田工業の古川侑利で、ともに投手。一方、野手の補強でいうと、鉄平選手とのトレードでオリックスから後藤光尊選手を獲得しました。これはFAで獲得を狙っていた片岡治大選手(西武→巨人)を獲得できなかったからでしょうか?

「片岡選手と交渉する過程で、『厳しいな』と判断した時点で動き始めました。鉄平はウチではチャンスが少なかったですが、欲しいという球団があった。彼も素晴らしい選手で、ウチにいるより、オリックスに行ったほうが成功すると思います。そういう選手って、結構いるんですね。個人的な意見ですけど、トレードはどんどんやったほうがいいと思います」

―― 一方、後藤選手もチャンスですね。

「35歳といい年齢なので、いい気合いで入ってきてくれると思います。東北出身ですしね。僕らにとって彼が活躍してくれるのは大きなことなので、頑張ってほしい」

―― 今オフは内野が補強ポイントだったのですか?

「ショートの松井稼頭央は38歳、セカンドの藤田一也は31歳。特に松井は、1年間、万全の状態で戦うのは厳しいかもしれない。そういうことも含め、二遊間の強化は必要だろうと思っていました。ただ、他の野手陣は、岡島豪郎が24歳、島内宏明は22歳、銀次は24歳、枡田慎太郎も26歳と若いので、まだ成長すると思っています。そこがウチにとって、一番の勝てる要因というか。計算上では、1位か2位にいける戦力かなと思っています」

―― 他球団で戦力的に強いと思うチームは?

「ウチの分析だと、ソフトバンクは強いです。それに西武も。これは紛れもない事実だと思います。ソフトバンクは戦力的に抜けていますよね。二軍でもいい勝負をするんじゃないでしょうか。それくらい素晴らしい戦力がそろっています。ウチなんか外国人を除いたら、圧倒的に弱いですから(笑)。長打率が弱く、まだまだ発展途上のチーム。だからこそ、経験のある外国人選手がチームをうまく活性化させてくれると思うんですね。もし将来、銀次や枡田が球界を代表するバッターになってくれたとしたら、ああいう外国人を獲らなくてもいいと思います。違うタイプの外国人を連れてきた方が、チームは強くなるでしょう」

―― 戦力的にソフトバンクが抜けていると言っていましたが、勝算は?

「昨年1年間見て、野球はメンタルが50%近くを占めることがわかりました。ある程度の戦力を揃えたら、現場に任せるしかありません。僕らが新規契約期限の7月31日までにできることがあるとしたら、補強できる部分は補強したい。まだまだそう思っています」

中島大輔●構成 text by Nakajima Daisuke