審判員とゴールキーパーは似ている気がする。

ひとつのミスが試合に与える影響は計り知れず、かくも多くのことを依存される。そして、そこに立てるのはかくも少ない人でもある。

川口能活や楢崎正剛と同世代だったゴールキーパーが、国民の注目を浴びることはなかった。なぜならば、ゴールキーパーとしてピッチに立てるのは一人。日本代表選手として選出されるのは三人で、実際は二人の競争となることが多い。

現に、昨年のアジアカップは日本中を興奮のるつぼに巻き込んだが、川島永嗣以外のゴールキーパーの名前を知っている人となると、確率はかなり低くなる。フィールドプレーヤーならば、10人という枠が存在するが、ゴールキーパーに用意されるスポットライトはひとつしかなく、入れ替わりもあまりない。

それは審判員も同様だ。2002年日韓ワールドカップに選ばれたのは上川徹だったが、岡田正義もエントリーされていた。どんなに優秀であっても、同国から二人がワールドカップに選出されることはないし、決勝など桧舞台に立てるのはその中からさらに一人に絞られる。ゴールキーパー同様に、孤独極まりない。

そんな審判員とゴールキーパーには大きな違いがある。ゴールキーパーは「ファインセーブ」と言って褒めてもらえるが、審判員が喜ばれることは、まずない。

ということで、たまには審判員を褒めてみたいと思う。

昨年12月に最優秀主審賞を獲得した西村雄一氏は、優雅な姿勢と強さがFIFAから高い評価を受けている。昨季からは海外トップレフェリー並みのコミュニケーションも意識しており、まだまだ成長を続けている。同様に、家本政明も海外トップレフェリーのような落ち着きを身につけた。理論派である夏嶋隆氏に弟子入り後の家本は目を見張るものがある。そこに食い込む村上伸次のアスリート能力の高さ。これには舌を巻くトレーナーもおり、日記をつけて自戒している姿勢が、選手時代同様のコンディションを維持しているように思う。

多くのレフェリーが引退する中で、ベテラン組の吉田寿光の判定の的確さは衰えていない。同様に、ベテランの松村和彦のプレミアリーグのようなレフェリングも面白いし、扇谷健司も悪くない。安定感でいえば、中堅である高山啓義や東城穣、タフになった佐藤隆治、強さが出てきた今村義朗があげられる。彼らに負けずと、ワンランク上を目指す前田拓哉や松尾一にも期待したい。

英語の教員である廣瀬格の優しく強いレフェリング、そして新時代のレフェリー、飯田淳平の選手との関わり方には期待がもてる。それは中村太や山本雄大、木村博之を筆頭とした若手レフェリーたちにもいえる。大柄な井上知大や、流通経済大学の同期にはプロもいる岡部拓人。さらには、福島孝一郎や吉田哲朗も来季からJ1で笛を吹く。

なんて羅列をしてみたが、サポーターの方々からすれば、嫌いな名前ばかりだろう。フットボールにミスはつきものであり、審判員もミスをしているため、当然の感情かもしれない。このように褒めてみた所で、反論できる火種を持つ人たちは多数存在するだろう。それでも、あえて訊いてみたい。好きな審判員はいませんか? と。(了)


◇著者プロフィール:石井紘人 Hayato Ishii
サッカー批評、週刊サッカーダイジェストをはじめ、サッカー専門誌以外にも寄稿するジャーナリスト。中学サッカー小僧で連載を行い、Football Referee Journalを運営している。著作にDVD『レフェリング』。各情報はツイッター: @FBRJ_JP。