野球の魅力にはいろいろなものがある。ゲームの面白さ、スタジアムのざわめきに身を委ねること、ダイアモンドを見下ろしながら飲む一杯のビール、互いを意識しあう選手同士の目の動き、スコアブックをしこしことつける、私の場合自宅でデータをあれこれいじくるのも愉しさだ。でも、下手なりにグローブをはめて嫌がる娘や息子とキャッチボールをするのも、野球の愉しみ。ボールがグラブにぶつかるときの、あの独特の分厚い音が嫌いな人はまずいないだろう。特にスイートスポット(?)に入ってパァーンと尾を引く大音響が鳴るときの快感。その音はファーストミットやキャッチャーミットでは微妙に鳴り方が異なるのだ。

そして野球がうまい人は、キャッチボールの音が違う。グラブやミットの響き方が違う。

スタジアムでは、そうした野球の音響は、喧騒にかき消されて聞こえない。

そういう音を心ゆくまで楽しみたいと思ったら、プロ野球のキャンプに行くに限る。





球場を中心としたあちこちのスペースで、選手たちは思い思いに体を動かしている。そしてボールを投げあっている。スタジアムやテレビでは何でもないキャッチボールが、キャンプではものすごい見ものになる。選手たちが軽く投げる球の伸びること。そしてグラブに吸い込まれるときの音のすごいこと。硬球がすごい勢いでグラブの掌の丸い部分に当たるときには「カーン」という金属音にも似た音がするのだ。いつまでも聞き惚れていたい音だ。

そしてブルペンでは、さらに次元の異なる音が響いている。ブルペン=投手の練習場は、たいていは屋根のある囲いの中に設けられる。ブルペンでは、投手の指先を離れた球がミットの腹に当たると、周囲の壁に共鳴して「パキューーン」とすごい音がする。いい音を響かせるのが、捕手の腕の見せ所でもあるから、思い切ってミットを球にぶつけていく。投手が調子を上げてくると、腹の底に響くような音がする。これは見もの、というより聞きものだ。

プロ野球のキャンプに行くと、野球選手への畏敬の念がわいてくる。彼らがすごい競争を経て到達したレベルが、どれほど人間離れしているかを腹の底で実感する。スタンドやテレビの前で偉そうに批評をしてはいるが、彼らに交じってただの一球のボールを受けることもできないことを知るとき、謙虚にもなる。

1年でたった3週間ほどの短い期間、九州や沖縄、高知に行ける人は限られているだろうが、一度はキャンプに行かれることをお勧めする。野球がさらに底深く好きになるはずだ。

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