2005年11月に発覚し、日本中で大騒ぎになった耐震偽装事件。そのなかで“首謀者”のごとく報道されたマンション販売会社ヒューザーの小嶋進元社長に、昨年末、最高裁から上告棄却の判決が言い渡された。この判決も「法の正義」から見れば問題だが、この事件にはもっと悪いヤツらがいる。改めてその責任をここで追及する。

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■大山鳴動して“姉歯”一匹?

「震度5強の揺れでマンションが倒壊する」「殺人マンション」などと報じられたヒューザーの「耐震偽装マンション・ホテル事件」。2005年11月に発覚したこの事件は、前代未聞の「組織犯罪」だとされ、“疑惑の政治家たち”も続々登場。新聞、テレビはもとより、週刊誌やワイドショーまでが“疑惑の当事者”たちを追いかけ回し、果ては国会での証人喚問まで行なわれた。

 当時、事件の首謀者と目されたのが、マンションの建築主であるヒューザー社の小嶋進(おじま・すすむ)社長だ。が、「組織犯罪」と見立てた一連の報道は、実は世紀の大誤報だった。

 事件は、発覚当時さんざっぱら語られていた「組織犯罪」でもなんでもなく、姉歯秀次(あねは・ひでつぐ)・一級建築士(当時)による単独犯行だったのである。本件の「耐震偽装」で裁かれたのが姉歯建築士ひとりなのが、その何よりの証拠だ。

 事件に絡んで逮捕されたのは姉歯氏を含め8人にものぼった。だが、姉歯氏以外はすべて別件逮捕。その後、本件の「耐震偽装」で罪を問われ、再逮捕された者はひとりもいない。別件逮捕を乱発した警察と検察の大失態以外の何ものでもないのだ。

 しかし、関係者たちは裁判で控訴せず、泣き寝入りをしていた。そんな中、警察・検察と報道から着せられた汚名をそそぐべく、ひとり最高裁まで上告していたのが、詐欺罪で逮捕されたヒューザーの元社長・小嶋氏だった。

 そして、上告から2年9ヵ月後の昨年12月12日、小嶋氏に判決が下る。結果は「上告棄却」。事実上の門前払いである。理由は「刑事訴訟法405条の上告理由(憲法違反や最高裁の判例違反)に当たらない」から、というものだ。これにより、小嶋氏に対する「懲役3年、執行猶予5年」の刑が確定した。

■一級建築士は「復権」したのに……

 一方、同じ最高裁の場において、事件で失った名誉を事実上回復した関係者もいる。姉歯事件で巻き添えを食らい、国土交通省から建築士免許を取り消されていた一級建築士たちだ。

 姉歯事件を契機に全国各地で発覚した耐震偽装事件のうち、北海道で起きた事件で免許を剥奪された元一級建築士が、免許取消処分の無効を訴えていた裁判で、最高裁は昨年6月、国交省の行政処分を違法と断じ、免許取消処分を無効とする判決を出していた。北海道の事件でも、構造担当の建築士が偽装をしており、姉歯事件とまったく同じ構図だった。

 そもそも、耐震偽装事件が姉歯氏の物件だけにとどまらず、全国津々浦々にまで波及したのは、監督官庁である国土交通省の大臣が認定していた「耐震構造計算プログラム」(計算ソフト)に欠陥があったからなのだ。早い話、計算結果を簡単に偽装できた責任の一端は国交省にもあったのである。

 しかし国交省は、自らに都合の悪い話には一切触れず、すべてを建築士らの責任とし、処分の理由を明確に示さないまま建築士免許を剥奪していた。理由を示してしまえば、国交省自身に責任追及の矛先が向きかねなかったからだろう。最高裁が問題視したのは、まさにその点だった。

 そして、この判決を受け、姉歯事件で免許を剥奪されていたほかの元一級建築士らにも、一度は取り消された「一級建築士免許」が戻ってきた。ただし、前の免許がそのまま戻ってきたわけではなく、新規の免許を発行する形で。国交省のさもしい抵抗だった。