復権を果たした一級建築士が語る。

「当時、建築確認を受けるに当たっては、意匠設計を担当する建築士が設計書面をまとめて提出していたのですが、意匠設計と構造設計は完全に分業化されていて、意匠設計を担当する建築士が構造設計の内容までつかむことはほとんど不可能だったのです」

 にもかかわらず、意匠設計の建築士は「設計を担当した代表者」として、すべての責任を負わされていた。書面を審査した建築確認検査機関の担当者らも、一級建築士と建築主事の資格を持っていながら、耐震偽装物件を防ぐことはできなかったのに、だ。

「でも、新聞やテレビは『一級建築士なら偽装を見抜けないわけがない』『だから組織犯罪だ』と決めつけ、完全に悪者のイメージを植えつけました。私は、検察の取り調べも2回受けているんです。最初は『組織犯罪』として、です。でも、いくら調べたところでそんな事実はないわけだから、途中で検察は容疑を『詐欺』に変えたんです。2回目は詐欺事件としての聴取でした。

 だけど一般建築の場合、建物に瑕疵(かし=欠陥)が見つかったとしても、直せば瑕疵担保責任(注※)は果たせるんです。今回の事件のように、直させもしないまま『詐欺』とは、本来ならないはずなんですね」(一級建築士)

注※マンションなどに欠陥があることを知らずに買った場合、買主は売主に対して契約解除や損害賠償の請求を主張することができる。これを、売主の「瑕疵担保責任」という。

■報道の「社会的制裁」をたしなめていた裁判所

 小嶋氏が「詐欺」に問われた行為とは、すでに契約済みだった22戸のマンションのうち17戸を、姉歯氏による耐震偽装が発覚した日の翌日に住民へ引き渡し、残金を受け取った――というものだ。そして裁判では、マンション引き渡しの時点で小嶋氏が耐震偽装の事実を「知っていたかどうか」だけが争点になっていた。

 それほどビミョーな「詐欺」の罪に問われ、刑が確定してしまった当の小嶋氏はこう話す。

「やはり、がっくりしたというのが正直なところです。ただ、判決を厳粛に受け止め、それで終わり、ということにはとてもできません。このままでは『やっぱり小嶋は悪いヤツだったのだ』と結論づけられてしまう。事件で失った名誉をいかにして取り戻せばいいのか、やはり闘い続ける気持ちを持つべきではないのかと、今は考えています」

 耐震偽装事件そのもので逮捕されたのは姉歯氏ひとり。一方で「事件に関わった」とされた一級建築士は最高裁で“無罪放免”。すなわち、事件が「組織犯罪」であるとの構図は、裁判の場で幾重にも否定されているのだ。

 おまけに、事件の首謀者と目された小嶋社長の「詐欺」容疑とは、「偽装をさせてマンションを売った」からではなく、耐震偽装の発覚後も「マンションを売っていた」から――というもの。この容疑自体が、耐震偽装の「小嶋首謀説」を完全に否定している。

 そこで問われるのは、世紀の大誤報をたれ流し続けた報道機関の責任だ。小嶋氏に対する有罪判決の是非はさておき、裁判所はマスコミ報道よりよほど「事件の構図」を正しく捉えていた。高裁判決に至っては、「耐震偽装というレベルで捉えれば、本来被害者的立場にあった被告人に非難が集中しすぎた感は否めず」とまで踏み込み、報道による行き過ぎた「社会的制裁」をたしなめていた。

 だが、報道機関には今日も反省の色はまったく見られない。最高裁の「上告棄却」報道にしても、“やっぱり小嶋は悪いヤツだったのだ”というトーン一色だ。

「耐震データ偽造事件で、強度不足のマンションを引き渡して代金をだまし取ったとして詐欺罪に問われた販売会社『ヒューザー』(破産)元社長、小嶋進被告(58)に対し、最高裁第3小法廷(田原睦夫裁判長)は12日付で被告の上告を棄却する決定を出した」(『毎日新聞』12月13日配信記事)