イタリア国内で第2位、北部では最大の都市であるミラノ。「ミラノ・コレクション」などのファッション・繊維産業で知られ、非常におしゃれな街というイメージがありますが、最近は精密機械や航空産業なども発達しており、イタリア国内における工業と経済の中心地となっています。日本では前述のミラノ・コレクションの他、インテル・ミラノやACミランといった、セリエAの強豪サッカークラブで有名ですね。

 そのミラノには、サッカーだけではなく、実は野球チームも存在します。この街には、イタリア国内で最も歴史あるプロ球団「ミラノ1946」を頂点におく、全4チームによる球団組織「ミラノ・ユナイテッド(以下ミラノU)」が本拠を置いています。現在はIBLの二軍リーグである、IBL2でプレーしているこのミラノUを買収し、来年からIBLに新球団として昇格させるというプロジェクトが、現在かの地で進行しているようです。

 チームのオーナーシップを獲得したのは、アメリカ・コロンビア大学の共同ディレクターで、同国で発行されているスポーツビジネス関係の情報誌「スポーツビジネスジャーナル」を立ち上げた人物でもある、イタリア系アメリカ人のジョン・ゲンザーレ氏。この構想自体は、昨年の秋に既にスタートしたようですが、いよいよ来年から、本格的にチームを始動させるとのこと。

 イタリア市民権を持ち、現在は中部ウンブリア州に暮らしているゲンザーレ氏は、このプロジェクトについて「非常に心躍るような挑戦で、ある側面においては歴史的な出来事になるだろう。五輪種目からの削除で、イタリア国内における野球への公的な援助は、大幅にその額を減らされてしまった。それは他の国々においても同様であり、一部の国では非常に危機的な状況にもなっている。我々は自らが愛するゲームをサポートするために、新たなやり方を探らなければならない。他の国ではともかく、少なくとも今回のプロジェクトは、イタリアにおいては画期的なものだ」と語っています。

 既にスタッフのリストアップも行われており、監督にはドジャース、メッツ、レッドソックスで計11シーズンプレーし、1998年にはドジャースを世界一に導いた実績のある、マイク・マーシャル氏の就任が決定。引退後は野球からしばらく離れていたという氏ですが、最近になって復帰。独立リーグを中心にチームの指揮を執り、昨年はゴールデン・ベースボールリーグ(現ノース・アメリカンリーグ)に所属する、ユマ・スコーピオンズの監督を務めました。アメリカの球界関係者から、ゲンザーレ氏に推薦されたというマーシャル氏は、来年初頭にも奥さんとともに、イタリアに渡る予定とのこと。

 また同時に、ゲンザーレ氏はメディア人らしく、人々の注目をチームに向けさせるための方策も、きちんと練っているそう。その担い手となるのが、「ファソ」の愛称で知られる同国の人気ロック歌手、ニコラ・ファサノさんです。熱心な野球ファンであるというファサノさんは、ゲンザーレ氏との間で、ミラノUのホームゲーム開催時にコンサートを開催し、観客動員数の増加に協力するという約束を取り交わしたそう。ゲンザーレ氏は「一晩で800人、人気カードであれば1200人は球場に呼びたい」という初年度の目標を明かし、「そうすれば、ファンもスポンサーも、素晴らしい時間を共有することができるだろう。ファソはそのために、我々に最大限の協力をしてくれる。野球がエンターテイメントとしていかに素晴らしいものであるか、彼のサポートによって人々に知ってもらえるだろう」とも語っています。

 そのスポンサーですが、ゲンザーレ氏いわく「ミラノにある企業は、皆野球というスポーツのことも、どのようにスポンサリングをすればいいかも知っているが、我々が彼らのビジネスをどのように拡大させられるかについては、まだ十分に理解していないようだ」とのこと。ただ、「当初は理解者は多くはないだろうが、少しずつでも増えてくればいい」とも発言しており、比較的楽観的な見方をしているよう。このプロジェクトが仮に成功すれば、ミラノはイタリア球界の中で最大の野球マーケットを形成できるだけに、まずはシーズンを重ねる中で、どのようにスポンサリングの利点をアピールできるかがカギを握りそうです。

 ミラノUの一軍にあたるミラノ1946は、現在IBLへの加盟こそしていないものの、イタリア球界で最多の国内タイトルを獲得している古豪。本拠地は、ミラノ西部にある「ジョン・F・ケネディスタジアム」。今季は「セナーゴ・ミラノ・ユナイテッド」の名でIBL2に参戦し、15勝13敗の4位でシーズンを終えています。今回、ミラノUがIBLに参加した後も、共同体自体は解散せず、ノヴァーラ、ロー、セナーゴという他の3球団は、それぞれミラノ1946のマイナーチームとして運営される予定。いわば、アメリカ流の球団マネジメントシステムを、ヨーロッパのクラブに導入しようというわけです。

 2年連続で脱退チームが出るという噂が立つ中、こうした熱意ある人物による取り組みが行われることは、非常に素晴らしいことですよね。IBAF現会長のリカルド・フラッカリ氏は、将来的にIBLを拡大し、現行の1リーグ8球団から、2リーグ12球団まで増やす構想を持っているとか。まだ、他のチームの動向が今一つ読めないんですが、今回の新規参入が、その第一歩になってくれたらいいなと思います。