■昨年より攻撃に力強さがなくなっている?

0対2で敗れた前節松本山雅戦後の監督記者会見で、ポポヴィッチ監督に対して松本側の記者からこういう質問が飛んだ。
「昨年よりも攻撃の迫力がなくなっているように見えるのですが?」
それを聞いたポポヴィッチ監督が、逆に「どこに迫力がなくなっていると思いますか?」と問い返すと、その記者は「昨年は木島選手(現松本山雅)と勝又選手の2人で打開する力強さがあったと思います」と答えた。


「なるほど」。そんな表情を見せてから、ポポヴィッチ監督は丁寧に町田の目指すサッカーを説明し出した。

「ウチは少なくとも3人が絡んで攻撃します。今日のメンバーを見ると、山腰、ディミッチ、北井の3人がFWの選手ですし、サイドバックもMFの選手です。センターバックの津田も元はサイドバック。ウチのチームはセンターバックが1人しかいない。もし、攻撃的な選手でGKもできる選手がいるなら、11人攻撃的な選手を並べたい。それが我々のスタイルなんです。今日もパスをつないで前に出ていくスタイルは出せたと思いますし、松本山雅よりもチャンスを多く作りました。攻撃的にプレーしながらも決めることができなかった。ゴール前での集中力と精度が足りなかったということですね」

■町田の強さは、チーム全体で攻める意識にある

町田の攻撃は個の能力に頼るのではなく、1つのボールに対して、多くの人数が絡んで攻撃を仕掛ける。1タッチ、2タッチでスピーディーにパスをつなぎながら、相手のプレスをいなしていく。しかし、それだけ攻撃的なスタイルゆえ、どの相手も町田に対して警戒した戦い方で臨んで来る。松本山雅も公式上では4−5−1であったが、実際は4−2−4という中盤を省略したシステムで挑んできた。スペースを消すためにDFラインには常に4人が張り付き、ボールを奪うと、町田のサイドバックが上がった裏のスペースへボールを入れるという徹底した対応をされたのであった。試合は「町田が7割方ボールを支配していた」(ポポヴィッチ監督)にも関わらず、セットプレーから2失点を喫し、敗れることとなった。

「町田は強いチーム」。そう口にしたのは松本山雅の松田直樹。しかし、メンバー表を見ると、松本山雅の方が元Jリーガーを多く擁しているのが分かる。元日本代表の松田の名前もある。一方、町田は過去にJリーグで活躍した選手はGK吉田宗弘とDF藤田泰成ぐらいで、昨季のチームの中心であった木島良輔と深津康太(現東京V)が移籍し、むしろ戦力ダウンしている。個々の能力では松本山雅の方が上と見ることができる。前々節の相手、秋田は先発全員が元Jリーガーであった。「強い」というイメージがJFL内では浸透しているものの、決して1人1人のポテンシャルで町田が上回っているわけではないのだ。

それでも町田が「強い」と言われるのは、選手の能力に頼るのではなく、チーム全体で攻める意識が統一されているからだろう。

■佐川印刷戦で見せた見事な攻撃

そういう意味で、29日に行われた前期13節佐川印刷戦はチームの目指すべき戦いを示すことができた。「ビデオで見た数試合よりも今日の佐川印刷は質の高いプレーをしてきた」。そうポポヴィッチ監督が言うように、佐川印刷は町田のパスサッカーに対して一歩も引かず、お互いにチャンスを作り出す互角の戦いが演じられた。しかし、そこで町田は相手を上回るサッカーを見せたのだ。

32分、左サイドを抜け出した小川巧がクロスを上げると見せかけて、横に走り込んだ柳崎祥兵にクサビのパス。一瞬佐川印刷DFに戸惑いが生まれた隙に柳崎は後方に走り込んだ藤田に落とし、藤田がクロスを入れた。そして、ファーサイドの鈴木崇文が頭で落とし、ディミッチがボレーでゴールに蹴り込み、先制する。長短織り交ぜた見事なパスワーク。5人が絡んだ攻撃で相手の守備を粉砕したのである。