【吉崎エイジーニョコラム】東アジア選手権、対戦国の日本評
■岡田監督去就問題は韓国でも関心事
14日の日韓戦後、スタジアム内での取材エリアにて、韓国記者団からこんな依頼を受けた。日本選手にこの点を聞いて欲しいのだと。
「今日の韓国は2軍だったが、これに勝てなかったことについてどう思うか?」 
韓国記者の興味はじつにストレートだった。確かにこの日、岡田ジャパンが勝てなかった相手は「2軍クラス」。6月のW杯でのレギュラー格とされるのは、GKイ・ウンジェ、右SBオ・ボムソク、CBチョ・ヨンヒョン、MFキム・ジョンウといった面々のみ。残りのポジションは、パク・チソンら海外組がレギュラーポジションを占めることになる。

今回の日韓戦と対戦相手の日本について、韓国サイドはどう見ているのか。実際に戦った選手の声とメディアの報道ぶりは、「言いたい放題」の感があった。
まずはメディアの報道から。目を引く点は、岡田監督の去就報道に韓国メディアも大きな関心を示したことだ。
最大手のポータルサイト「ネイバー」のサッカーコーナーにはわざわざ「ホット・イシュー」というコーナーに「岡田監督留任」という一覧が設けられ、関連記事のリンクが貼られた。その中の記事のひとつが、「ニューシス」の記事、「日本メディア、惨敗の岡田ジャパンを集中砲火」。

こんな分析を行っている。
「自国開催のため日本は優勝に自信を持って臨んだはず。しかし中国、韓国を下回る3位に終わった。当然、非難の対象は岡田武史監督だ。W杯4強という明確な目標を立てた彼だったが、今は自分の立場を心配しなくてはならない状況に陥った」
韓国としては「監督の首がかかった試合」という認識だったのだ。双方ともに中国から勝利を得られず、直接対決に挑むことがいかに「一大事」だと捉えられていたかも示す。

一方で、日韓戦の勝利についてはこれを素直に喜ぶ報道が目立った。
「韓国、7年ぶりに日本に勝利。3−1、逆転勝ち」(OSEN)
韓国にとって、03年5月に国立競技場でジーコジャパン相手に勝って以来の勝利だった(1−0、決勝ゴールはアン・ジョンファン)。
「日本サッカーの心臓と言える国立競技場での勝利」(ベストイレブン)
<聖地>での勝利は、相手に打撃を与えた、と言わんばかりだ。やはり、強く日本を意識する点が伺える。

■相手にとって恐くなかった日本
現場で戦った選手や監督からは、メディア報道よりも相手へのリスペクトが感じられるものの、同様に強気の発言が相次いだ。
2月14日、日韓戦の前には韓国代表ホ・ジョンム監督が選手に今大会の岡田ジャパンの試合映像を見せ、こんな指示が出されている。「日本の両サイドの選手は、攻撃参加した後の守備の戻りが遅い。このスペースを突くように指示を出されていた」(FWイ・スンリョル) 

一方、長所については「ショートパスに長けているから、これを遮断するようにと。さらにセットプレー時にはいいボールが入るから要警戒とのことだった」(FWイ・ドング)
PKで1ゴールを決めたイ・ドングは、田中マルクス闘莉王が41分の退場で抜けた後のDF陣を「やりにくいとは感じなかった」と語っている。
さらにピッチ上で日本の攻撃陣に対してこうも感じたという。
「日本のFWは、相手が強く当たってくると、これを避ける傾向があるように見える。パスなどで避けずに、フィジカルコンタクトで勝ち、突破することを考えれば別の展開があったようにも思う」 

この証言、じつは試合後の稲本潤一の言葉とも重なる部分がある。
「パスを回すだけじゃなくて、もう少しシュートの意識が必要。いろいろな課題がこの大会を通じて出たと思う」
たしかに、今大会の岡田ジャパンは、同じテンポでゆっくりボールを繋ぐ場面が目立った。ベネズエラ戦から続いた4連戦をスタンドから見て感じたフラストレーションの原因は、この点にもあったように思う。

今回の大会に臨んだ男子4チームのうち、もうひとり貴重な韓国人の証言者がいる。香港代表の韓国人監督、キム・パンゴンだ。両国と対戦した印象も同様のものだった。
「韓国は、速攻を仕掛けるべき状況でしっかりスピードを上げて攻めてきた。しかし日本は、『速いテンポで攻めてくるかな?』と思った状況でもバックパスが入ったり、ゆっくりパスを回す状況が多かった。このため、香港の守備陣は対応がしやすい面があった」 
いずれにせよ、現時点で「2軍クラス」の韓国に勝てなかった事実は甘んじて受け入れなくてはならない。岡田監督続投が発表されたいま、今大会で課題を得たと、ポジティブに捉えるしかない。(了)

吉崎エイジーニョ
1974年生まれ。福岡県北九州市出身。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)朝鮮語科卒。『Number』『週刊サッカーマガジン』などで連載。著書に『オレもサッカー「海外組」になるんだ!!!』(パルコ出版)、『オトン、サッカー場へ行こう!』(新潮社)。翻訳書に『金正日最後の賭け』(ランダムハウス講談社)がある。