味噌汁を置く位置はどこ? 地域によって違うの!?
食卓にごはん、汁物、おかずを並べるとして、あなたは汁物のお椀をどこに置きますか? 関東出身の筆者は子どもの頃から当たり前に汁物は右側。でもこれって地域によって違うものなのでしょうか? そもそもなんで汁椀を置く場所を決めたりするの? 歴史やマナーも関係ある? などなど、食にまつわる興味深い謎、さっそく探ってみましょう。
味噌汁、どこに並べてますか?
食卓に向かって左側がごはん、右側に味噌汁、奥におかずというのが一般的な配膳の仕方のようですが、これに地域差があるという噂も。
今回そんな噂は本当なのか、様々なサイト、小中学校の家庭科の教科書などをひもときましたが、地方によって味噌汁を置く位置が違うということは、ない、と言えるようです。
例えば、左利きのひとの多い家族で、左利きでも食べやすいように、味噌汁とごはんを反対の位置に並べる、というような、各家庭のローカルルールはあるかもしれません。が、家庭科の教科書や、懐石料理の作法でも、和食はやはり全国共通、ごはんが左側、味噌汁は右側と、その位置が決まっています。
ただ、食事のしやすさを考えてみると、この味噌汁の位置、どうですか? 自分にとって食べやすい位置でしょうか? 利き手の左右にかかわらず、味噌汁の位置がお箸を持つ手の側にあると、奥のおかずを取るときなどに手前の味噌汁のお椀をひっくり返してしまう、などということも起こりがち。
そこまで不器用じゃないよ、なんて余裕の人も、親になってみると、お椀をこぼす子どもを目の当たりにして、ああこういうことかと納得したり…
それにしてもこの味噌汁が右、ごはんは左、の和食のマナーは、一体いつ、どのようにして決まったのでしょうか。
食事のしやすい味噌汁の位置って?
なぜ味噌汁が右側で定着したか、そのルーツを調べてみましょう。
日本の食文化をたどると、おもてなしや祝い事の食事など、食卓(御膳)の形式が確立したのは平安時代と言われています。その後、安土桃山時代に茶道の流れで茶懐石の形が整い、さらに時を経て江戸時代に会席料理(大人数をもてなす料理)が流行し、徐々に洗練されたものとなって来ました。
その流れの中で、いつも献立の中心に考えられていたのがごはん。あくまでごはんが「主」、味噌汁などの汁物は「従」という考え方です。右手は常に箸を持っているのですからふさがっています。ということは、いちばん器を持ち上げる回数の多い「主」であるごはんを、左手で扱いやすいように左側へ。そして「従」である味噌汁などの汁物を右側へ、と位置を決めるようになったのは、自然な流れであったようです。
時代は変われど、やはり現代でも主食はごはん、という捉え方がメインですよね。その自然な流れを受け継ぐのがいちばん良いかと思いますが、ここでちょっと、食事をとる際の「食卓」にまで考えを広げてみたいと思います。その昔、日本食のマナーが確立されて来た江戸時代の頃まで、一般的な食事は、歴史ドラマではお馴染みの、一人一人に用意された「銘々膳」と呼ばれるものでいただくものでした。
座敷で正座して、この小さな御膳でとる食事の場合は、食器をとるのもおかずに箸を伸ばすのも、だいぶ上の位置から。現代はどうでしょう、ちゃぶ台、テーブル、と家庭によって食卓の高さに多少の違いはあっても、「銘々膳」で食事をしていた時代に比べると、置かれた食器に対する自分の位置はだいぶ変化しました。テーブルで食事をする現代では、ごはん茶碗や味噌汁の汁椀などの、ほぼ同じ高さから手を伸ばすようになったのです。
こうなると、先述のように、奥のものをとるときに、手前の汁椀が邪魔になる、と感じる人が増えているのもうなずけます。食器の並んだ真上から手や箸を伸ばすのと、食器の置かれたほぼ同じ高さから伸ばすのでは使い勝手に違いが出てくるのは当たり前ですね。
食卓のマナーはどうして守らないといけないの?
個人のレベルでは「お味噌汁くらい好きな位置に置いて食べたっていいじゃない」という感じもしますが、やはり相手のいる食事や、子どもに食事のマナーを教える、などという場合には、基本を大切に、きちんとしておきたいもの。さらに最近は、SNSで食事のシーンをアップする人も多く、配膳の仕方がおかしいと、コメントで指摘されて恥をかいてしまう、なんていうこともありそうですよね。
いざというときに恥をかかないように、また、一皿一皿が適材適所に置かれ、全て美しく並ぶように、和食の基本と言われる「一汁三菜」で、一度食卓の配膳の決まりを覚えておきましょう。
・一汁三菜とは
汁物、
主菜(肉料理や魚料理などのメインのおかず)、
副菜1(煮物、蒸し物、和え物、焼き物など)、
副菜2(煮物や和え物など)
を組み合わせた献立のことを言います。
これにごはんをつけます。
・ごはんと味噌汁の位置
これは前述の通り、ごはんが左、味噌汁などの汁椀が右です。
・主菜
右奥に置きます。注意したいのは、頭と尾っぽのついた「尾頭つき」の魚の場合。頭を必ず左に、腹を手前側に置きます。
・副菜1
左奥に置きます。
・副菜2
副菜1よりも小さい扱いの副菜2は、主菜と副菜1の間に。
・漬物
漬物は副菜としては扱わず、あくまで漬物として、ごはんと味噌汁の間に置きます。
・お箸
お箸はごはんと味噌汁の手前に、箸先を左にして箸置きの上に置きます。左ききのお客様などには、箸の向きを変えても大丈夫。
・お茶
お茶を置く場合は、右奥です。
こういった基本の配置さえ覚えておけば、あとは品数に合わせてアレンジするだけです。とはいえ一般的な日本人なら、ごはんが左、お味噌汁が右、の基本中の基本さえ守っていれば、大きく間違うこともないでしょう。
ちなみに一汁一菜の例をあげると、豆腐とわかめの味噌汁、ごはん、ぶりの照り焼き(主菜)、かぼちゃの煮物(副菜1)、ほうれん草のおひたし(副菜2)、かぶの漬物と奈良漬、など、栄養バランス的にも満点な献立になります。
これは、昭和天皇のある日の夕食献立だということですが、この献立がテレビで放送された折にも、配膳はやはりこの一汁一菜型の基本が守られていました。器も、主菜のぶりの照り焼きをのせたものは長方形の角皿、副菜1は深めの中鉢、副菜2は白がメインの、位置的にも主張しすぎない小鉢と、トータルでよりおいしそうに見せる盛り付け、配膳がなされていました。
こうして一汁一菜の配膳を頭に浮かべながら献立を決めることで、いただく献立の栄養バランスが結果的に良くなったり、味や食感などをバラエティ豊かに揃えることができるのも、長い時間をかけて培われてきた、日本の食卓マナーのおかげと言えるかもしれませんね。
そばやうどんはどこに置く?
ごはんの次に日本人の愛してやまない麺類。そば・うどんにも配膳のマナーがあるのでしょうか?
単品の場合は、とくに悩むこともないでしょう。そばやうどんの入ったどんぶりを、ドーンと中央に置き、手前に箸を、箸先を左にして置くだけです。レンゲを使う場合には、箸と並べて置いても良いでしょう。飲食店の、麺類とミニどんぶりのセットのような場合は、ごはんが左、汁物が右、の黄金ルールが適用される場合が多いようです。
ではそばちょこを使っていただくようなもりやざるなどのそばの場合はどうなるのか。この場合はやはり食べやすく、そばが右、そばちょこが左が定位置となるようです。さらに天ざるなど、別皿で一品が出てくるような場合は、そばの奥へ置きます。
まとめ
味噌汁を置く位置は地方によって違うのか? そんな疑問から日本の食卓マナーについて考えてみると、和食が栄養バランスも良く健康的なのは、もしかしたらこの配膳マナーのおかげだったりするのかな?というおまけの結論に。
やはりごはんと味噌汁はセットにしていただきたいし、そうなれば、味噌、野菜、豆腐などのタンパク質もいっしょにとれるわけです。さらに、肉や魚の主菜をどーん!と出すだけでは見た目にも寂しいという感覚から、野菜をもっと食べられる小鉢的な副菜を追加するようになり…
食事の支度をする側にとってはなかなか手間のかかることですが、その手間部分をなんとかやりくりして、家族の健康のために、栄養バランスの良い和食献立を、きちんとした配膳で食べさせたいですね。
まとめ/伊波裕子