巨大な単細胞生物「海ぶどう」の全ゲノム解読に沖縄の研究者が初めて成功
by 663highland
沖縄料理で有名な「海ぶどう」は長さ10〜20cmにもなる緑藻の一種ですが、実は、沢山の核を含むたった1個の細胞でできている「生物の体作りという観点からとても不思議な生物」とのこと。沖縄科学技術大学院大学(OIST)が、この海ぶどうの全ゲノム解読に成功し、イギリスの科学誌DNA Researchで論文を発表しています。
siphonous macroalgal genome suggests convergent functions of homeobox genes in algae and land plants | DNA Research | Oxford Academic
巨大な単細胞生物「海ぶどう」の全ゲノム解読 | 沖縄科学技術大学院大学 OIST
https://www.oist.jp/ja/news-center/press-releases/33757
市場に出回る海ぶどうの多くはその名前に反し、天然・養殖として海で育つのではなく、果物や野菜のように陸上のビニールハウスで育てられています。しかし、単細胞生物である海ぶどうに対し、多細胞生物である他の植物や海藻の栽培方法をそのまま取りいれても生育の問題を解決できないことも。研究を率いたOISTマリンゲノミックスユニットの有本飛鳥博士は、上記の問題解決のために本研究に取り組むことになったとのこと。有本氏らが研究に取り組む前は、海ぶどうのゲノム解読研究は皆無だったそうです。
研究チームは沖縄県恩納村漁業共同組合で養殖された海ぶどうからDNAを抽出し、OISTが保有する次世代型ゲノムシーケンサーで全ゲノムの配列を解読しました。この結果、海ぶどうのゲノムのサイズは養殖・栽培されている農水産物の中でも最小クラスの2800万塩基対で、遺伝子の数もわずか9000ほどであることが判明。また、海ぶどうは野菜や果物などの陸上植物とは全く別の生物であるものの、成長に関しては類似した遺伝子が関わっている可能性が示唆されました。
研究の結果、海ぶどうの独特の形作りが「多細胞生物や微細な単細胞生物とは異なるメカニズムでタンパク質を必要とされる部位に配置したり、細胞核自体が物質の輸送を制御したりすること」で実現されていることが示されました。また、海ぶどうが単細胞生物としては異例の巨大さ・複雑さを獲得したきっかけは、陸上植物と同様にTALE型ホメオボックス遺伝子の増加が鍵となった可能性が示唆されたとのことです。
この研究結果を利用すれば、発育不良の海ぶどうにおける遺伝子的な原因を判定できるようになると研究者は述べています。また、地中海や汎太平洋では海ぶどうと近縁な海藻の外来種が地元の生物を脅かしているため、これらの繁殖対策にも役立つ可能性があります。海ぶどうの全ゲノム解析は沖縄の発展はもちろんのこと、沖縄以外の地域の将来的な発展に役立つ可能性があるとのことです。