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今年で91回目を迎える春の選抜高校野球。出場校の発表は1月25日(金)ともうすぐだ。本連載では、「高校野球生き字引」MBS森本栄浩アナウンサーにセンバツの過去の名試合を振り返ってもらう。第一回である本記事では、2010年準決勝・広陵-日大三の試合をピックアップ。甲子園優勝経験のある広陵と日大三の名門対決は、期待通りの熱戦に。しかし、試合が最高潮にさしかかった終盤、雨が強くなり、大乱戦に。それでも選手たちは最後まで全力を尽くした。

プロで活躍する選手ズラリの名門対決


その後、ともに大学を経てプロからドラフト1位指名を受ける日大三・山崎福也(3年)と広陵・有原航平(3年)による投げ合いが期待された準決勝。しかし、センバツならではの雨が、試合の流れを大きく変え、最後は大乱戦となったが、両校選手たちは持てる力を出し尽くした。
まず、両校のラインアップを見てみる。ともに先頭打者は、現在、プロで活躍している。広陵の1番・福田周平(3年)は、社会人を経て2018年にオリックス入りし、1年目からレギュラー級の活躍をした。相手エースの山崎とはのちに明大、オリックスでチームメイトになる。一方、当時2年生だった日大三の高山俊は、明大で東京六大学の通算安打新記録を樹立し、鳴り物入りで阪神に入団。ルーキーイヤーに新人王を獲得する。
明大では、福田、山崎の1年後輩に当たるが、この両校には、のちに明大と早大に分かれ、つまり「敵味方」の立場が変わった選手が多いのも興味深い。広陵からは4番・丸子達也(2年)と有原、日大三からは吉沢翔吾(3年)と翌年の夏に全国制覇する控え投手の吉永健太朗(2年)が早大へ進んだ。日大三の4番を打っていた横尾俊健(3年)は、慶大から日本ハムに入団し、現在は中心選手として活躍中。この試合で対戦し、大学でもライバルだった有原とはプロで同じチームというのも面白い人間模様だ。

強雨で大乱戦も両校選手は全力尽くす


さて試合は、初回から2点ずつを取り合い、波乱含みの立ち上がり。3回に日大三が2番・荻原辰朗(3年)の本塁打で勝ち越すが、頼みの山崎が不調で制球に苦しみ、5回から控え投手にマウンドを託す。6回、広陵が勝ち越すと、その裏に日大三も畔上翔(2年)が同点打を放って、互角の展開。広陵が7回、丸子の本塁打で勝ち越すと、その裏を有原が三者凡退に抑え、広陵有利かと思われた。しかしここから、降り続いていた雨が一段と強まって、試合の流れが大きく変わる。
8回裏、1死1、2塁のピンチを招いた有原は、相手の送りバントを一塁へ悪送球して同点に追いつかれると、完全に緊張の糸が切れてしまった。1点を守ろうと気力で投げてきたが、寒さが体力を奪う。代打・清水弘毅(2年)から四球をはさんで4連打を浴び、ついにKOされた。雨が強く、投球に集中できなかったこともあるが、自らの失策が引き金となって、精魂尽き果てたというのが正直なところだろう。結局、救援した投手も相手の勢いを止められず、広陵は8回に10点を失った。残る攻撃は9回表だけだ。
それでも広陵は引き下がらなかった。簡単に2死となったが制球に不安のあった日大三・四番手の吉沢も雨であとアウトひとつが取れない。広陵は代打攻勢で食い下がり、連続四球などで懸命の追い上げを見せる。広陵打線は1番に戻り、福田の遊ゴロが相手失策を招き、8回裏の再現かと思われた。しかし吉沢が何とか4失点で踏ん張り、辛くも逃げ切った。同条件とはいえ、あまりにもグラウンド状態が悪すぎ、熱戦に水を差したことは明らかだ。
続く準決勝の第2試合は順延となり、この試合の続行には疑問の声も出た。しかし、センバツではこれまでから、雨がしばしば名勝負を生んできた歴史がある。泥んこになりながら頑張った選手たちは気の毒だったかもしれないが、これも高校野球。時がたてば、いい思い出として記憶に残る。8回裏と9回表は、雨がなければ起こり得なかった展開だが、全員が勝利をめざして全力を尽くしたことは天気とは関係ない。両校選手たちに拍手を送りたい。
【文・森本栄浩(MBSアナウンサー)】

 
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第82回選抜高等学校野球大会(2010年)日大三(東京)×広陵(広島)

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