少し詰めてくれればもうひとり座れるのに――電車における「座席の座り方」について、こうした思いを持っている人が少なくないようです。座り方によって、決められた定員分がきっちり座れなくなるという問題、鉄道会社はどう考えているのでしょうか。

必要な人に「座席を譲らない」よりも迷惑?

 電車の座席は、何人掛けかという定員が決められています。窓に背を向けて座るタイプ(ロングシート)もそうです。しかし座り方によっては、定員どおり座れないこともあります。


荷物が座席の横に置かれると、定員どおり座れない場合がある。写真はイメージ(画像:akulamatiau/123RF)。

 この「座り方」について、「迷惑」と感じる人が少なくないようです。全国の鉄道事業者72社から構成される日本民営鉄道協会(東京都千代田区)が毎年、一般利用者の声を集めて「駅と電車内の迷惑行為ランキング」を発表していますが、そのなかでも「座席の座り方」は例年、総合2位から3位に入る項目とのこと。

「なかでも特に多いのは『座席を詰めて座らない』ことに対するお声です。『座席の座り方』のうち、6〜7割の人が、最も迷惑に感じる行為に挙げています(座席に荷物を置く、足を広げるなども含む)」(日本民営鉄道協会)

 2017年度版のランキングを見てみると、「座席を詰めて座らない」に次いで多いのが、「足を伸ばす、組む」19.4%。その次が「お年寄りや身体の不自由な方、妊婦の方等に席を譲らない」ですが、それは4.5%に留まっています。これについて日本民営鉄道協会は、人によって感じ方は異なるので一概には言えないとしながらも、「席を譲らないことは『マナー』であって、『迷惑行為』となると、詰めて座らないことを気にされる方が多いのではないでしょうか」と話します。

これなら詰めて座ってくれる? 進化する車両

 こうした乗客の不満に対し、鉄道会社はどう対応しているのでしょうか。

 東京メトロでは、駅などに月替わりで掲示するマナーポスターで「詰めて座る」ことについて啓発しているほか、車内放送でも随時呼びかけを行っているといいます。同様にマナーポスターで座席の座り方について訴えている西武鉄道では、「長い座席は〇人掛け、短い座席は〇人掛け」と定員を示しつつ、詰めて座ってもらえるよう車掌がアナウンスしているそうです。

 車両も進化しています。座面も背もたれもフラットな古いタイプのロングシートに対し、着座位置に合わせて背もたれや座面がややくぼんだ「バケットタイプ」と呼ばれるロングシートが近年増えてきました。これは、ひとりひとりの体にフィットすることで快適性をアップさせているだけでなく、着座位置を明示する意味合いもあるといいます。

 東京メトロでは1990(平成2)年以降に製造した車両にバケットタイプのシートを導入。定員分が座れないという乗客の声を受けて対策を検討し、バケットタイプのシートが最適であるという結論に至ったそうです。2018年11月現在では、約82%の車両がバケットタイプとのこと。

 西武鉄道では、2000(平成12)年導入の20000系電車からバケットシートを標準としているほか、古い車両でも順次、シートをバケットタイプへ置き換えているそうです。置き換えられていない車両でも、背もたれ部分に模様をつけて着座位置を示しています。


着座位置に合わせて座面や背もたれにくぼみがついたバケットタイプのロングシート(2018年11月、中島洋平撮影)。

 ちなみに、2000年代前半の「駅と電車内の迷惑行為ランキング」を見てみると、「座席の座り方」に次いで「所構わず座りこむ」という項目が上位に来ていることがありました。しかし、この「所構わず座りこむ」あるいは「電車の床に座る」はだんだんとランクを下げ、2017年版では12位になっています。

「ランキングはお客様からよくいただく声が反映されています。たとえば近年はリュックを利用される方が増えたので『荷物の持ち方・置き方』が上位になっていますが、このように時代によって皆様が“気になるポイント”が変わってくるのでしょう」(日本民営鉄道協会)。

 電車の床に座る人があまり目に着かなくなった一方、座席に詰めて座らないことについては、状況があまり変わっていないのかもしれません。

【画像】これじゃあ座れない… 西武の浮世絵風マナーポスター


2016年から始まった西武鉄道のマナーアップPR「電車内迷惑図絵」第1弾、「座席の座り方」(画像:西武鉄道)。