「冷麺食ってる場合か」に沈黙…韓国が北朝鮮に「低姿勢」な理由
10月29日に開かれた韓国国会・外交統一委員会の国政監査で、9月の南北首脳会談に際して起きた、ある出来事が明らかにされた。
文在寅大統領の特別随行員として訪朝した韓国企業のトップらが、平壌の有名レストラン・玉流館で冷麺を食べていたところ、北朝鮮の対韓国窓口機関・祖国平和統一委員会の李善権(リ・ソングォン)委員長がその場に現れ、次のように言ったという。
「冷麺がのどを通るのか」
李氏は、平壌名物である冷麺の「のどごし」についてたずねたわけではない。南北の経済協力がなかなか進まないのに、どうして悠長に冷麺なんか食べていられるのか、と皮肉を言ったのだ。日本風に言えば「冷麺なんか食ってる場合か」といった感じだろうか。
そのとき李氏と同じテーブルに座っていたのは、SKグループの崔泰源(チェ・テウォン)会長、サムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)副会長、LGグループの具光謨(ク・グァンモ)会長ら、まさに世界的な大企業グループの総帥たちである。
彼らに対しこんな「上から目線」でものを言えるのは、北朝鮮高官ぐらいしかいないだろう。ちなみに、国政監査でのやり取りを報じた韓国メディアの報道を見た限りでは、韓国側が怒りを表したり、反論したりしたわけではなかったようだ。この問題と関連して韓国紙・朝鮮日報は「北朝鮮は常に高圧的だが、韓国側はいつも低姿勢を続けている」とする統一省OBのコメントを紹介している。
それもまあ、ある程度は仕方のないことと言えるかもしれない。北朝鮮の幹部らは、いつ金正恩党委員長によって粛清されるかわからない環境の中で仕事をしている。
(参考記事:【動画】金正恩氏、スッポン工場で「処刑前」の現地指導)
金正恩氏も部下たちがそのことを忘れないように、処刑したスッポン養殖工場支配人の動画をテレビで放映したり、人体が「ミンチ」にされてしまう残酷な処刑を見学させたりしている。
また、恐ろしいのは指導者だけではない。政敵のワナにかかれば、一族郎党が抹殺される危険もある。
そんな環境の中でのし上がってきた北朝鮮の高官らは、われわれ自由社会の「一般人」とは一味も二味も違っていることだろう。特に相手側の首都という「アウェー」においてトラブルになれば、何が起きるかわからない。
では、金正恩氏は近いうちにソウルを訪問すると宣言しているわけだが、彼らの一行が「アウェー」において「低姿勢」に転じることはあるのか。恐らくそれはないだろう。
韓国側が低姿勢なのは、猛獣のような北朝鮮をうまく手なずけるためでもあるのだろうが、それは北朝鮮側もお見通しだろう。彼らは知っていて、自分たちの要求を強引に押し付けようとするのだ。そしてよほど注意しないと、彼らの要求を押し込まれてしまう。これもまた、遂に「核」を手にした立場の強さのなせる業だろうか。
そんな北朝鮮も、「制裁緩和は非核化の後」との原則論を曲げない米国にはしびれを切らしている。やはり「物理的暴力」を背景にした国際政治の最前線は、一筋縄ではいかないのだろう。