6月25日に発売されたダイハツ工業の新型軽自動車「ミラトコット」(撮影:伊藤 ひろし)

6月25日に発売されたダイハツ工業の新型軽自動車「ミラトコット」。その名前からもわかるように、ミラシリーズの新規車種ということになる。といっても、すでに「ミラ」という名前の車種は2018年3月をもって終了してしまっており、そのポジションは「ミライース」がカバーしている。ミラトコットもミライースがベースとなって生まれた。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

そんなミラトコットは、肩ひじ張らず、自然体でいられる一台として「エフォートレス」をキーワードに「盛る」ことから「シンプル」へと発想を転換し、ダイハツの女性社員が中心となって開発されたモデルだ。もともとエフォートレスとはファッション用語であったが、マツダも努力を要しない走行状態を「エフォートレス・ドライビング」呼ぶなど、クルマ業界でも使われるようになってきたワードである。

ベースとなったミライースと同じくダイハツのエントリークラスを支える車種とはなるものの、運転に不安を感じるユーザーに対しても安心、安全を感じてもらえるようなクルマに仕上がっている。

シンプルながら愛着の持てるエクステリアデザイン

ミラトコットのエクステリアデザインは、極力加飾を拝したシンプルなデザインで、ともすると安っぽい印象を持たれてしまう恐れもある。実際、発売前に販売店関係者へ写真を見せたところ「こんな見栄えの悪いクルマは売れない」という意見が出たほど。確かに写真で受ける印象は、“旧共産圏のクルマのように面白みのないデザイン”となってしまうが、実車を見てみると意外と凝ったキャラクターラインを持った車種であることがわかるのだ。このように写真と実車の印象が大きく異なる車両なので、できることならすべての人に実車を見てもらいたいと個人的に思う。

エントリーユーザーや運転に不安を感じる方など誰にでもやさしいパッケージというように、スクエアなボディ形状は車両感覚をつかみやすく、最近のクルマには珍しくベルトラインが水平なことで後ろ斜めの視界も良好。これなら運転に慣れていないユーザーでも不安感が少なくドライブを楽しむことができそうだ。

また、スクエアかつ水平基調のデザインはどこか旧車を思わせる雰囲気を持ち合わせており、クラシックカーに憧れるユーザーや、すでにクラシックカーを所有しているユーザーの日常のアシとしてもマッチするのではないかと感じた。特にG“SA III”に装着される2トーンカラードホイールキャップは、ホワイトリボンタイヤをイメージしたカラーリングだそうだ。

内装はシンプルながら安っぽさは皆無

シンプルというキーワードは内装にも当然ちりばめられている。最近のクルマは「そこまで必要?」と思えてしまうほど小物入れやドリンクホルダーが用意されているが、ミラトコットに関しては必要最小限のものだけを残してすっきりとしたシンプルな造形にしている。そして陶器のようなセラミックホワイトのインパネガーニッシュを装着し(L系グレードを除く)明るくやわらかな印象を持たせている。


ミラトコットの内装(撮影:伊藤 ひろし)

そして前後シートは汚れやすい座面をブラウン、背もたれをベージュにした2トーンシートを採用。また、こういった車種に採用されがちなフロントベンチシートをあえて採用せず、セパレートシートをチョイス。

これは、どうしてもベンチシートだと運転中に体が動いてしまいがちで、安心、安全なドライブを楽しんでもらうための配慮だそうだ。また、チルトステアリングは全グレード標準装備、シートリフターも、ロアグレードのL系以外には標準装備となり、乗る人の体格に合わせて適正なドライビングポジションを取ることができるようになっている。

安心につながる装備は惜しみなく

安心、安全にかかわる装備は惜しみなく装着されている。ダイハツの衝突回避支援システム「スマートアシストIII」の採用(ロアグレードのLにのみ非装着を設定)に加え、SRSサイドエアバッグ&SRSカーテンシールドエアバッグを軽自動車として初めて全車標準装備したほか、夜間の走行に効果を発揮するLEDヘッドライトもグレード問わず全車標準装備されている。

また、最上級グレードのG“SA III“は、上から見下ろすようにクルマの周囲の状況をナビ画面に映す「パノラマモニター」に対応したカメラ類を標準装備し(別途対応ナビが必要)、コーナーセンサーもフロント4個、リア2個が標準装備となり、車庫入れや縦列駐車に対する苦手意識を低減できるようになっているのはうれしいポイントだろう。

ミラトコットの走りの実力はいかに?

ミラトコットはベースがミライースということで、エンジンやミッションに関しては出力からギア比に至るまで共通のものが搭載されている。一方で、ハンドリングに関係する部分はミライースと異なる味付けがなされた。電動パワーステアリングはモーターの容量をアップしてアシスト量を増加し、より軽い操舵感を実現している。といっても、軽すぎて落ち着きがないハンドリングというわけではなく、軽さの中にもしっかりインフォメーションがあるので、ワインディングのような道でも運転を楽しむことができる味付けと感じた。


足回りに関してはミライースよりも柔らかい設定としている(撮影:伊藤 ひろし)

また、足回りに関してはミライースよりも柔らかい設定としながらも、フロントストラットにリバウンドスプリングを追加し、ロールを低減。ロールスピードも抑えられているため、ハンドルを切り始めたときのグラつき感も少なく、運転に不慣れなユーザーも怖さを感じることは少ないだろう。これは、ミラトコットの全高が1530mmと低く抑えられていることも寄与しているはずだ。

一方、38kW(52馬力)/60N・m(6.1kg・m)というスペックのKF型エンジンは、ハッキリ言って遅い。大人(オジサン)が2人乗車での出足は鈍く、ついアクセルを多めに踏み込んでしまうほどだ。ただ、アクセルを多く踏み込んでもキャビンの静粛性は比較的高いレベルで保たれているし、いったん速度が乗ってしまえば、それを維持することは難なくこなしてくれる。

そもそもキャラクター的にガンガン飛ばすタイプではないし、むしろのんびりとトコトコ走らせるのが似合う車種だ。冒頭にも旧車を思わせると表現したが、この雰囲気はフィアット500やクラシックミニなど往年のコンパクトを思わせるもので、「遅いなあ」と言いながらもついにやけてしまうような感覚を持ち合わせていた。もちろん、快適装備や安全装備は現代のレベルのものが備わっているので、安心安全に旧車テイストが味わえる、新たな価値を持ったモデルと言えるかもしれない。