「辞退したら、大学の後輩に迷惑かかるよ」メガバンクの圧迫面接に震える女子大生
「ここで辞退したら、あなたの大学の後輩に迷惑がかかるよ」。
就職活動中の女子大生(4年生)は、あるメガバンクの採用面接で面接官から、強い口調でこう言われたという。怖くなった女子大生はその後、悩みに悩んだ末、他企業の採用面接が重なったことを理由に、勇気をふりしぼってこのメガバンクの採用選考を辞退した。
「つらい圧迫面接だった」と振り返る女子大生。「友達にお金を借りたことがあるか」「奨学金は使っているか」とも聞かれたという。銀行に対するイメージが悪くなり、全く違う業界を目指して就職活動を続けている。
内定と同時に他社選考の辞退を強要する「オワハラ」やセクハラも問題視されるが、学生の精神を削る「圧迫面接」も依然として一部の企業では健在のようだ。ただ、脅迫めいた言葉を使ったりして追い込む手法は法的に問題にならないのか。労働問題に詳しい河村健夫弁護士に聞いた。
●違法かどうか「かなり局面が限定される」ーーこのようなケースについてどう思いますか
「ひどい目にあいましたね。近年は若年人口の減少などの理由で就職活動では学生有利(売り手市場)であるにもかかわらず、相変わらずこんな内容で面接をする企業もあるのですね。辞退して正解です」
ーー違法かどうか、どのように考えられますか
「このような面接手法が一律に『違法』かというと、そうではありません。就活生と面接企業との間では、面接時点においてはまだ『雇用契約』が成立していないためです。
不当な発言があれば、就活生の方で席を立って帰り、その企業に就職しないという選択肢もあります。従って、就職面接における面接官の不当な発言が違法行為となるのは、かなり局面が限定されることとなります」
ーーどういうことでしょうか
「例えば、面接官(応募先企業)が就活生の性的な写真を持っていて『うちに就職しないとその写真を公表する』といえば、脅迫罪・強要罪となり、民事的にも不法行為が成立します。ただし、そのようなケースは通常考えにくいでしょう。
『あなたの大学の後輩に迷惑がかかる』という発言は、就職しないと次年度以降、就活生が所属する大学からは採用を行わないことを示唆する発言ですが、それだけでは脅迫罪に当たりませんし、不法行為の成立も困難でしょう。
もっとも、このケースで就活生は他にも『友達にお金を借りたことがあるか』『奨学金は使っているか』といった質問があったようです。こういったプライバシーに踏み込む質問は、違法となる可能性があります」
●無神経なことを聞く企業には就職しないのが正解ーー違法と考えられるのは業務とは無関係な質問だからですか
「はい。就職面接では、要は、その企業にとって採用後にきちんと業務をこなしてくれるかどうかを確認できればいいのですから、業務と無関係なプライベートに関する質問は原則として不要なはずです。
かつて、履歴書には本籍を記入する欄がありましたが、本籍がどこかで業務成績が異なることはありませんし、差別に利用される可能性もあります。従って、面接時などにおいて本籍を尋ねることは違法となります。
このことは職業安定法5条の4及びこれをうけた厚生労働省の指針に規定があり、個人情報は原則として『その業務の目的の達成に必要な範囲内』のみ収集できるとされ、例外的に『業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して収集する』場合にのみ、個人情報の収集も可能としています」
ーー金融機関の面接での質問だから、「友達にお金を借りたことがあるか」という質問も仕方ないのかと思う人も少なくなさそうです
「お金にルーズな人かどうかを確認したいという趣旨なのでしょう。ただ、『友達から金を借りたかどうか』は直接的には個人情報とは言えないものの、個人情報の収集につき例外的に認められる『業務の目的の達成に必要不可欠』な情報でもありません。法律の趣旨を踏まえると許されない質問であり、個人のプライバシー権を侵害する可能性も否定できません。
就職面接の場面ですら、このようなプライバシーに踏み込む質問をする企業は、就職したらなおさら横暴な要求をする可能性が高いと思います。やはり、このような無神経なことを聞く企業には就職をしないのが正解だと思います」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
河村 健夫(かわむら・たけお)弁護士
東京大学卒。弁護士経験17年。鉄建公団訴訟(JR採用差別事件)といった大型勝訴案件から個人の解雇案件まで労働事件を広く手がける。社会福祉士と共同で事務所を運営し「カウンセリングできる法律事務所」を目指す。大正大学講師(福祉法学)。
事務所名:むさん社会福祉法律事務所