3月16日に行われたベースボールキャップ贈呈式での全員の集合写真。3選手とレオ・ライナ、ブルーレジェンズを中心に児童と教職員が囲んで全員でLポーズ(筆者撮影)

3月中旬の昼下がり、西武池袋線小手指駅から南へ1kmほど離れた埼玉県所沢市立小手指小学校を訪ねた。閑静な住宅街の中にある小学校に、メディア関係者が続々と吸い込まれていく。

パ・リーグ、埼玉西武ライオンズ(以下、ライオンズ)の増田達至選手会長、十亀剣投手、郄橋朋己投手の3選手が小学生に「ライオンズオリジナル・ベースボールキャップ」を贈呈するイベントが同小学校で開催されることになっていたからだ。

贈呈式の開始時刻に合わせて600人を超える全校児童が続々と体育館に入ってくる。選手が到着する前にもかかわらず、児童たちの興奮はなかなか収まらず、先生から静かにするよう何度も注意が入るほどだった。

代表して600人を超える児童にキャップを贈呈

待ちに待った贈呈式の開始時刻となり、あこがれの選手を目にした児童たちのボルテージは一気に最高潮に。増田選手会長が「今日は埼玉西武ライオンズの選手を代表して、みなさんにキャップを届けにまいりました。ぜひ受け取ってください!」とあいさつし、他の2選手も続いた。

選手のあいさつを受けて、戸村達男校長が「埼玉西武ライオンズから埼玉県内30万人の小学生にベースボールキャップが贈呈されることになり、今回その代表として小手指小学校が選ばれました。みんなでお礼を言いましょう」と呼び掛けると、児童たちは「ありがとうございます!」と元気よく感謝を述べた。

増田選手会長は報道陣から「30万人にキャップを贈呈すると聞いてどう思ったか」と問われると、「とても驚いた。キャップを被って全員が球場に応援に来てほしい」と語った。


児童代表約40人が選手とのキャッチボールを楽しんだ(筆者撮影)

なぜライオンズは、埼玉県内30万人の小学生にベースボールキャップを贈呈したのだろうか。

小手指小学校の贈呈式に先立つ3月7日に同球団の居郷肇社長は上田清司埼玉県知事を表敬訪問し、球団の40周年を記念して「地域コミュニティ活動」などを総称する「L-FRIENDS」プロジェクトの立ち上げと、ベースボールキャップ贈呈について報告した。

「L-FRIENDS」プロジェクトは、「野球振興」「こども支援」「地域活性」の3本を柱とした地域、ファン、選手、スタッフがひとつの仲間としてつながり、未来へ夢をつないでいくプロジェクトだ。

「野球振興」としては、小学校体育授業支援や野球教室、野球用品寄付などの活動を行う。「こども支援」では「ライオンズこども基金」を設けてチャリティーグッズやチャリティーオークションによる収益の一部を積み立てて、選手会と球団で寄付・支援を行っていく取り組みを実施している。

そして、「地域活性」では埼玉県内のスポーツ団体とのコラボや、主催試合が実施される所沢市とさいたま市大宮区の商店街と共に、地域を盛り上げていく活動に取り組んでいる。

40周年を契機にファン層拡大を本格化

ライオンズは今年、ファン層拡大に向けたプロジェクトを本格化する。地域密着の球団を目指す取り組みとして、埼玉県および埼玉県内の各自治体との連携協定締結を進めている。

3月16日に久喜市と「連携協力に関する基本協定」を締結したことで、23市町との連携協定締結を完了した。連携協定を締結した自治体は「フレンドリーシティ」となり、市内在学の小学生・中学生や市外からの転入者へのライオンズ観戦チケット引換券の配布や野球教室の開催などの連携事業が実施され、ライオンズが地域活性化に協力する。

埼玉県内全小学生へのベースボールキャップ贈呈は「L-FRIENDS」プロジェクトとして実施され、子どもたちがキャップを被ってスポーツに親しむきっかけを提供することを狙う。ベースボールキャップ贈呈はライオンズファン拡大や野球人口増加に向けた「投資」なのだ。


球場に来たことのない子どもたちがキャップを通じて興味を持つきっかけになるかもしれない(筆者撮影)

昨シーズンのライオンズの観客動員数は167万人を記録し過去最多だったが、セ・パ両リーグ中10番手(パ・リーグの中で4番手)の水準だ。

さらに動員数を増やすためにはリピーターだけでなく球場に来たことのない新規のファンを呼び込む必要がある。

キャップを被ることでライオンズへの愛着が生まれ、子どもたちがファンとなれば、球場に親子で観戦に来る機会が増えるだろう。観客動員数が増えることはもちろんのこと、球場での飲食やグッズ売り上げの増加にもつながる。

本拠地メットライフドーム主催試合の場合には、西武線の利用も確実に増える。また、熱心なファンになれば、一度で終わることなく、何度も足を運ぶようになるだろう。球場での観戦をきっかけとして野球に取り組む子どもたちも出てくれば、野球人口の増加にも貢献し、将来のスター選手の発掘にもつながるかもしれない。

「L-FRIENDS」プロジェクトの狙いについて、西武ライオンズの井上純一事業部長は「『L-FRIENDS』とはL(LIONS)が友だちを拡げる活動を意味する。3本の柱である野球振興・こども支援・地域活性で活動を行ってきた。ただ、活動を数年実施してくると、活動単体としては有意義であっても、それだけでは決して課題は解決されないこともわかってきた。

3つの柱である活動はすべて何らかのかたちでつながっており、それらを紡ぐワードが必要になったことに気づいた。そこでL-FRIENDSというわかりやすい共通言語を使って、コミュニティの輪を最大化していくことにした」と説明する。

躍進したDeNAも過去にキャップを配布

過去にベースボールキャップを贈呈した球団としてセ・リーグの横浜DeNAベイスターズの事例もある。2015年末に神奈川県の子どもたち約72万人に「5周年ロゴ入りベースボールキャップ」をプレゼントしている。神奈川県での地域密着の活動を続けると同時に昨年は日本シリーズに進出、好成績だったこともあり、同球団は過去最多の観客動員数(198万人)を記録している。

ライオンズとしても、ファンが多い地域は西武線沿線が中心であったが、球団は埼玉を冠する球団として埼玉県全域での浸透を図りたい考えがある。そのためには、西武線と直接つながっていない地域でもライオンズの存在感を高めることが重要になる。

今回のベースボールキャップ贈呈について福岡県に在住する福岡ソフトバンクホークスファンの40代男性は「ライオンズの地域密着に向けた取り組みをホークスも見習う必要がある」と注目する。埼玉を冠した球団として埼玉県民に愛される球団を目指すライオンズの取り組みに、他地域からも熱い視線が向けられている。