ランボルギーニ「ウルス」(写真:ランボルギーニ提供)

フェラーリと同じくイタリアの片田舎を発祥にするスーパーカーといえば、ランボルギーニだ。最新モデルの「ウラカン」「アヴェンタドール」をはじめとして、フェラーリとはまた違うテイストながら、誰が見てもカッコいいと感じるデザインと圧倒的な走行性能を持つ。往年の名モデルである「カウンタック」「ミウラ」は1970年代のスーパーカーブームの一翼を担った。

ランボルギーニSUVに参入

そんなランボルギーニSUV(スポーツ多目的車)に参入した。2月6日に日本で発売された「ウルス」がそれだ。特徴的な内外装のデザインと最高出力650馬力、最大トルク850Nmという、とてつもないパワーを誇るV8ツインターボエンジンを搭載する。まさにSUVのスーパーカーだ。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

ウルスは昨年末に本国イタリアで初公開されて以来、日本のディーラーではすでに相当数の予約注文が入っているという。

ポルシェ「カイエン」「マカン」、マセラティ「レヴァンテ」、ベントレー「ベンテイガ」――。現在のラグジュアリースポーツカー・マーケットはSUVを中心に回っていると言ってもいい。単にブランドのラインナップに幅を持たせるだけでなく、販売面でも重要な存在となっている。

ポルシェの販売台数の約7割がカイエン、マカンで占められているといわれ、マセラティも登場間もないレヴァンテが最も台数を稼げるモデルになっているようだ。ラグジュアリーブランドの看板となるクーペやサルーンよりもSUVの売り上げの比率のほうが高くなっているのだ。

なぜラグジュアリーSUVがそんなに人気なのか。私は3つの理由があると考えている。

まずは、ラグジュアリー・カーマーケットを牛耳る北米と中国の顧客ニーズにぴったりと合致したということ。2点目は、セダンのプラットフォームを持つメーカーにとってSUVの開発はそう難しくなく、開発コストも抑えられること。最後に、スタイリングやパフォーマンスなど、セダンと比較してSUVのデメリットがなくなったことだ。

スタイリングにおいてはホイールやタイヤの大型化や、車幅のワイド化が進み、SUVの背の高い“いかつい”存在感が違和感なく受け入れられるようになった。エンジニアリング的にみても、大柄なボディでも軽量化が可能になってきたし、低速における十分なトルクと高回転のハイパフォーマンスを両立できるSUV向けのエンジン特性が主流になっている。


ランボルギーニ「ウルス」の内装(写真:ランボルギーニ提供)

スタビリティ・コントロール(車両安定制御)やABS(アンチロックブレーキシステム)などの電子制御技術が進化したことも大きい。本来、SUVのように車高や重心が高いクルマは、急ハンドルを切った際に、背の低いクルマに比べて不安定な挙動を示す可能性が高い。ところが今は電子制御技術を用いた総合的な挙動コントロールが可能となり、そうした危険は大きく改善された。

大柄なSUVでも通常のクーペやセダンに動力性能の点で、劣るところは少なくなった。さらに加えるならば、少数メーカーしか持っていなかったAWD(全輪駆動)の技術が一般的となり、どこのメーカーも簡単に導入できるようになったということも挙げられる。

「ウルス」の注目度の大きさはこれだけが理由ではない

ただし、ランボルギーニ「ウルス」の注目度の大きさはこれだけが理由ではない。フェラーリとともに希少性と個性を売りとする究極のスーパーカー・メーカーがSUVに乗り出したということが最も大きい。

スーパーカー・メーカーにとってSUVは踏み絵のようなものだ。希少性を第一にする彼らにとって、日常性や実用性は対極にあるものだからだ。セダン系を主力として生産規模拡大へとシフト中のマセラティにとってもSUVへの参入に関しては賛否あり、製品化までには長い時間を要した。そもそも、フェラーリ、ランボルギーニランボルギーニは極少数の例外はあるが)に関しては4ドアモデルすら、存在しない。

非日常性をコンセプトとしているブランドにとってSUVの投入は、そのコンセプトにブレを生んでしまう危険性を持つ。一方、経営目線で考えれば、売り上げの拡大に取り組まないワケにもいかない。フェラーリはこの問題をクリアするため1997年にマセラティを傘下に入れ、フェラーリブランドの希少性を維持しつつ、4ドアのマセラティを増産し生産規模を拡大したくらいだ。


ウルスは最高速度がSUVで世界最速だ(写真:ランボルギーニ提供)

ランボルギーニはそんな中でSUVのカードを切った。ブランドイメージを毀損しないように、ウルスは最高速度がSUVで世界最速なだけでなく、0-100km/hと0-200km/hといった加速性能もSUVで世界最速である点を謳っている。

スタイリングはランボルギーニの看板でもあるカウンタックのモチーフを活かした点をアピール。技術的にもアクティブ・トルクベクタリングや4ホイールステアリングといった革新的システムを導入している。

アウディ傘下の利点

1999年からアウディ傘下のブランドとなっているのも、ランボルギーニSUVに参入するうえでの優位点だ。アウディの属するVWグループには、ポルシェ、ベントレーといったブランド企業がある。クルマの世界に詳しくない方なら、ランボルギーニとポルシェが同一グループに属するということは知らないであろう。

彼らは、それぞれのブランドの独立性を保ちつつ、マーケットで競合しないように万全の注意を払っている。各ブランドのシナジー効果から生まれる効率化の追求は徹底して行われており、ウルスの開発においてそれは大きなバックアップとなったはずだ。

ランボルギーニのような小規模な会社にとって、今まで縁のなかったSUVを一から開発するのはあまりに効率が悪い。しかし、グループ内には大型SUVとしてアウディ「Q7」、ポルシェ「カイエン」、ベントレー「ベンテイガ」、そしてVW「トゥアレグ」という同じプラットフォームをベースに作られた兄弟車が存在している。ランボルギーニはそれらのリソースを最大限に活用できたのであろう。

マーケティング的にこれら「兄弟車」と被らないように差別化を行いさえすればよい。VW、アウディがベーシックな位置とすると、ベントレーはラグジュアリー、ポルシェはスポーティだ。とすればランボルギーニはラグジュアリー+スポーティで攻めればよいワケだ。

ランボルギーニSUVの間には、あまり知られてはいないが、実は一つのミッシング・リンクが存在する。話は1970年代の後半にさかのぼる。

当時はスーパーカー・メーカーにとって厳しい冬の時代であった。オイル・ショックや景気後退などがその主たる原因であったのだが、ランボルギーニは、その危機に対応するため新しいジャンルへの取り組みを行った。


1986年に完成した「LM002」(写真:ランボルギーニ提供)

それは軍事使用を前提とした大型オフロードモデルのプロジェクトであった。その取り組みはなかなか芽が出なかったが細々と開発は続けられ、1986年に「LM002」として完成を迎えた。注文生産として1992年まで約300台が顧客の元に渡ったのだ。

LM002は悪路走行を前提とするモデルでありながら、なんとカウンタックから流用したハイパワーのV12気筒エンジンが搭載されていた。主たる顧客は中東の富裕層ということで、インテリアもレザーシートやウッドトリムなどを多用した豪華仕様であった。このコンセプトこそ、まさにSUVそのものだ。今から考えればSUVへの参入は少し早すぎたのかもしれない。

一方、ランボルギーニのマーケティングスタッフは、この事実をウルスのプロモーションで最大限に活用できる。「40年の歳月を経て再び開花したランボルギーニSUVのDNA」というふうに謳えるのだ。ウルスの力強いフェンダーアーチやエアダクトといったエクステリアや直線基調のインテリアには、往年の名車カウンタックだけでなくLM002のモチーフも活かされている。

砂漠におけるパフォーマンスも徹底的に追求した

そういったブランド・ストーリーだけでなくランボルギーニのエンジニアたちは不整地、特に砂漠におけるパフォーマンスも徹底的に追求したようだ。


チーフ・エンジニアであるマウリツィオ・レッジャーニ(写真:ランボルギーニ提供)

たしかにチーフ・エンジニアであるマウリツィオ・レッジャーニはここ数年、砂漠によくいた。

彼に連絡すると、「すまない、今、砂漠にいるんだ。ドバイのね」という答えが何回となく返ってきたのを思い出す。「エンジンの形式については大いに悩んだ。しかし砂漠のような路面環境を考えるなら、超低回転域から十分なトルクを生み出すターボ以外には考えられなかった。ターボラグを最小限にするためにツインスクロール・タイプを採用し、その搭載位置も最適化している。自然なフィーリングを重視して機械式のセンターデフも採用しているしね」と、レッジャーニが語る。

もちろんハイエンドのパワーもV8エンジンを搭載する主力スーパースポーツモデルである、ウラカン・ペルフォルマンテを凌ぐ数値となっている。つまり、このウルス、かなり硬派なのだ。ちなみに基本プラットフォームはVWグループ内の資産を共用するが、サスペンションなど多くの部分でオリジナル設計となっている。特にランボルギーニというエンジンそのものに大きな意味を持つブランドであるだけに、ウルスのエンジンは今のところVWグループ内の他ブランドで使うことはないようだ。

全力で生産力の拡大に取り組んでいる

ランボルギーニはこのウルスの導入によって、スーパーカー界のトップであるフェラーリの地位へとリーチをかけるべく、全力で生産力の拡大に取り組んでいる。フェラーリは現在のところ年間8000台前後の生産規模であるが、対するランボルギーニは3500台ほどだ。それを2倍の7000台へと早急に持ち上げることをランボルギーニCEOであるステファノ・ドメニカリは宣言している。

その積み増し分の3500台の多くはこのウルスが受け持つことになるだろう。2015年から18カ月間をかけて本拠地であるイタリアのサンタアガタの本社敷地を拡大し、ウルス専用のアッセンブリーライン棟を完成させた。この最新のファシリティにより日産25台レベルまでウルスの生産を可能にするという。ウルスは、今春からデリバリーが始まるとアナウンスされており、2018年には少なくとも1000台ほどのウルスの出荷を計画している。

もちろん追われるフェラーリも黙ってはいない。トップのマルキオンネは今まで否定的であったSUVの投入について、一転して、近い将来の市場投入をほのめかしている。これも“ウルス効果”の一つであろうか。もっとも、シューティングブレーク・スタイル(4座ハッチバックタイプ)のフォー(現行ルッソ)の開発時から、フェラーリSUVプロジェクトも並行して動いていたことは公然の秘密でもあり、虎視眈々とライバルの動きをお互い牽制していたということであろう。今夏はロールス・ロイスSUV、そしてハイパワー版マセラティ・レヴァンテの発表も噂されている。ラグジュアリーSUVマーケットはますます熱気を帯びていきそうだ。