日本では、交通事故は大幅に減っている(写真:PIXTA)

「交通戦争」とは、1960年代に交通事故死者数が日清戦争(1894〜95年)の戦死者数を上回ったことを受けて日本人が作り出した言葉だ。日本はこの戦争に立ち向かい、大きな勝利を手にしてきた。もちろん、新たな戦場はつねに存在する。“ながらスマホ”や、判断能力の低下した高齢者が起こす事故などがそうだ。

日本の交通事故死は1970年のピークの4分の1に減っている。2016年の事故死者数は3904人。1949年以来、初めて4000人を下回った。事故死者数は2017年前半に、前年同期比でさらに8%減少している。

交通戦争に勝利するには

36の先進国を対象にした2015年のランキングによれば、10万人当たりの事故死者数は4.7人で、日本の死亡率は12番目に低かった。英国は2.8人で2番目に低かったが、米国は10.6人と死亡率が高く、32位に沈んだ。

交通戦争に勝利するには、次の3つが必要だ。まず、事故の数を減らすこと。次に、事故による負傷者の数を減らすこと。さらに、ケガが原因で死亡する人数を減らすことだ。日本は、この3つのすべてを成し遂げている。

1970年のピークに比べ、事故数は約75%減少。車の数が3倍超に増える中で、これを実現したのだ。負傷につながる事故の数も75%減少。負傷者が死亡するケースは62%減っている。

理由の1つは、信号の数を増やしたという単純なものだった。1970年に1.5万だった信号の数は、2013年までに20.5万に増加。東京大学の小口高教授が引用する論文によれば、これだけで事故数は31〜64%、負傷者数は32〜75%、死亡者数は50〜89%減った。

理由の2つ目が、自動車の安全性向上とシートベルト装着義務の強化だ。21の先進国中、日本のシートベルト装着率(94%)は9位。2016年に交通事故死した日本人の4割はシートベルト未着用であり、シートベルトを着けているかどうかの違いは大きい。

3つ目が、飲酒運転の取り締まりだ。WHO(世界保健機関)のランキングによれば、日本は飲酒運転の取り締まりが2番目に厳しい。その結果、日本の交通事故のうち飲酒関連のものは6.2%でしかなく、先進33カ国中、3番目に低い値となっている。対照的に米国では、交通事故死の3分の1が飲酒関連であり、自動車事故における死亡率は日本の2倍だ。

次なる主戦場は歩行者と自転車

次なる主戦場はハッキリしている。歩行者と自転車だ。日本の交通事故死の半分を占めるからだ(比率は歩行者が34%、自転車が14%)。主要先進国中、最悪の数字であり、小学生と高齢者が頻繁に犠牲になっている。日本は交通量の多い交差点に歩道橋を架ける対策を1960年代に開始し、大きな成果を上げてきた。しかし、歩道橋の階段の勾配はきついことが多く、高齢者には優しくない。

日本のメディアは最近、交通事故を高齢化と結び付ける報道であふれ返っている。しかし、これは「死亡事故のうち高齢者の割合が記録的な55%に達した」という統計を読み違えているのだ。

現実には、16〜24歳の若者が事故を起こす確率は40〜49歳および65歳以上の中高年層の2倍を超す。つまり、若い運転者の数が減れば、交通事故の総数は自動的に減少する。高齢者の事故の割合が高まっているのは、主に高齢者の数が大幅に増えたことに原因があるのだ。

NPO(民間の非営利組織)のジャパン・フォー・サステナビリティのニュースレターによれば、10万人当たりの死亡事故は2005〜2015年の間にすべての年齢層(65歳以上の高齢者を含む)において40%超減少している。

問題が高齢化であっても、ながらスマホであっても、自動車の先進安全技術は有効な対策となりうる。将来的には自動運転が実現するのかもしれないが、それを待つ必要はない。たとえば、速度を検知して自動的にサイレントモードに切り替えるアプリをスマホに標準で組み込むといったように、現存する技術でも事故を減らすことは可能なのだから。