黄海南道クァイル郡を現地指導した金正恩氏(2017年9月21日付労働新聞より)

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北朝鮮の金正恩党委員長が最近、自身が執権して以降の5年間に行われた政治犯の処刑・粛清について「全面的に再調査せよ」との指示を下したという。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の内部情報筋が先月末、デイリーNKに語ったところによると、「(北朝鮮当局は)10月中旬から証拠不十分のまま行われた政治犯の粛清について、全面的な再調査を行っている。同月初めにあった党中央委員会第7期第2回総会で一部の政治局委員らが交代した理由も、こうした問題の責任が問われたためのようだ」という。

政敵を抹殺

同総会では党の古参幹部で政治局委員だった崔泰福(チェ・テボク)、金己男(キム・ギナム)の両氏が解任されたと見られている。

「最高検察所の検閲を通して証拠不十分の粛清による被害状況を把握した金正恩が、党中央委の幹部らに激怒したようだ。司法機関の無分別な越権行為を把握しながら、これを見過ごしたためだ」(情報筋)

北朝鮮では昨年、韓流ドラマの密輸・地下取引などを取り締まる国家保衛省(秘密警察)のタスクフォース「612常務」による粛清の嵐が吹き荒れた。

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その対象には庶民だけでなく、党の高級幹部も含まれていた。612常務はそうした幹部らを取締る過程で、必要な行政上の手続きを踏まなかったために、党中枢から猛烈な反発を買う。さらに問題だったのは、粛清の相当部分が、特定の有力者が自分の政敵を抹殺するために虚偽の密告を行って仕組んだ「謀略」だったということだ。

残忍な手法

両江道(リャンガンド)の情報筋によれば、「たとえば両江道党委員会の勤労団体担当書記や大紅湍(テホンダン)郡の宣伝煽動担当書記、咸興(ハムン)市の党責任書記らが謀略によって粛清された」という。いずれも、北朝鮮においては相当な地位にある人々だ。

こうした一連の問題を受けて、こんどは国家保衛省が最高検察所による検閲の対象になった。それにより、金正恩氏の最側近の1人で同省トップだった金元弘(キム・ウォノン)氏が今年初めに解任され、その他の幹部たちも粛清(一部は処刑)されたとされる。

恐らく、その後も検閲は続行され、どれほどの謀略が仕組まれていたかがより明らかになったのかもしれない。それで金正恩氏は、今更ながら「無実の人々を間違えて粛清したかもしれない」と、今回の指示を下したのだろう。

しかし「そもそも論」を言うならば、韓流ドラマを見たくらいで罪になる北朝鮮の現実自体がおかしいのだ。それに金正恩氏は、自らの指示によって何人もの幹部を処刑しており、そのやり方も残忍極まりないものだった。

まともな裁判を経たとは思えない例もあり、これだって612常務の件に勝るとも劣らず重大な問題だ。

前出の両江道の情報筋は、次のような話も伝えている。

「7月初めから複数回行われた人民班(町内会)の会議において、政治犯を通報するときは十分な証拠を提示しなければならないという原則が強調されている。特に『最高尊厳』に関する犯罪で虚偽申告をした者については容赦しない、ということが強調されている」

何のことかというと、誰かが金正恩氏の「悪口」を言っているのを見たら確かな証拠を添えて密告せよ、ということだ。録音データでもあれば当局は喜ぶのかもしれないが、そんなものはいくらでもねつ造できる。

金正恩氏が言論の自由の大事さに気づかない限り、北朝鮮社会から謀略が消えることはなく、それが金正恩体制を蝕んでいくのだ。