品質データ改ざん問題に揺れる神戸製鋼所(撮影:尾形文繁)

神戸製鋼所の品質データ改ざん問題は同社の経営の根幹を揺るがし、日本の製造業全体の信頼性にも影響を及ぼしつつある。問題の悪質性や経営への影響、会社の対応の仕方、さらには国際的な影響などについて、ビジネス弁護士の草分けである、久保利英明・日比谷パーク法律事務所代表弁護士に聞いた。

「法令さえ守れば」という考えが間違い

――今回の神鋼のデータ改ざんについて、その悪質性、犯罪性をどう考えるか。

今回の改ざんは広い部署にわたって発生しており、対象の製品もアルミや銅、鉄鋼、液晶関連材料など幅広い。その意味で、全社にかかわる組織ぐるみの問題と考えざるを得ない。

これが犯罪になるかについては、神鋼の副社長は会見でコンプライアンス違反、法令違反はないと言っていた。実際、そこは捜査してみないとわからない。

ただ、犯罪性以前に企業としての誠実性が問われている。本来、誠実性違反こそがコンプラ違反であり、法令順守さえしていればコンプラ違反はないと考えるのは大きな間違いだ。今回の件は、明らかな反社会的コンプラ違反といえる。

――神鋼の経営に与える影響についてはどうか。

納入先は世界中の約500社に広がっており、神鋼の製品が使われた自動車や新幹線、航空機には生身の人間が乗っている。つまり人間の安全性に対する、とてつもない裏切り行為をしたことになり、影響は非常に大きい。

問題を起こした神鋼の人たちは、そういうことを考えなかったのか。神鋼経営陣は納期の影響を挙げていたが、偽装した部材が原因となって事故が起きたときのことを考えずにこうした偽装をするのか。あまりに考え方が浅薄すぎて、利益至上主義に毒されているといわざるをえない。

今後、リコールや部品交換の費用が発生すれば、納入先企業はそれを神鋼側に求めてくる。逆に求めなければ、株主から追及されることになる。

信用はゼロではなくマイナス

信用力低下の影響も大きい。神鋼の社長は「信用はゼロになった」と言ったが、私はゼロではなく、マイナスになったと思う。信用力は大きく毀損した状況だ。神鋼の株価も連日ストップ安となるほど下がり、時価総額は約4割も減少した。マーケットでの信用低下で、経済的影響は大きい。金融商品取引法でストレートに損害賠償の請求ができる状況であり、社長など経営陣の責任が問われることになる。

改ざん対象は売り上げの4%程度などと言っているが、大量保有報告書でいえば、5%でも大量という意味になる。4%を「大量でない」という意味で言ったとすれば、それは非常に愚かな話で、ほとんど大量に近いと考えるべきである。

――神鋼は8月末に改ざんを把握し、1カ月後に経済産業省へ報告、その10日後に対外公表を行った。こうした会社の対応をどう見るか。


神戸製鋼は「明らかなコンプラ違反」と断言する(写真:大澤誠)

いえるのは、対応が遅いということ。わかったことだけでいいから、遅くとも1〜2週間以内には公表すべきだった。役所にはとりあえずすぐに一報を入れるべき。1カ月後というのは不思議な話で、経産省とは手を握っているから大丈夫だといった大会社意識があったのか、理解に苦しむ。

しかもその一報を入れた後、対外公表したのは3連休中であり、意味のない先延ばしだ。新聞休刊日前のタイミングでもあり、これは隠蔽ではないかとの疑念は強い。

国民感情としては、やってしまったことは仕方ないとしても、それを隠蔽したり、ウソをついたりすることに対する憤りのほうが大きい。その意味で、今回の対応は先延ばしに次ぐ先延ばしで、汚い手を使って物事を小さく見せようとした、誠に拙劣な対応だ。

本来、こういうときには社外取締役が前面に出て、企業価値を回復させるための対策を講じる必要がある。直ちに第三者委員会を作って徹底的に調査するのが常道だ。

ところが、神鋼は社内の調査委員会を作って、社外の法律事務所にも調査をしてもらっていると言うが、委員会の委員長は社長であり、どこの法律事務所を使っているかも公表しない。どんな独立性があって、顧問弁護士とは何の関係もないのかが定かでない。独立した社外取締役はいったい何をしているのかもはっきりしない。「経営者は交代せよ」という話になるのは当然だ。

日本にとって大きな打撃になる

――米ニューヨーク・タイムズ紙が1面トップで「日本のイメージに打撃」と報じるなど、日本の製造業全体に対する国際的な信頼性低下にもつながっている。米国の司法当局も調査を開始した。


久保利英明(くぼり ひであき)/1971年弁護士登録。総会屋対策などを手掛け、早くから適法経営、企業統治などの考え方を提唱した。日本取引所グループ社外取締役。ゼンショーHDの労働環境問題では第三者委員会の委員長を務めた。

これはまさに大きな打撃だ。神鋼の改ざんが単発の問題ならまだしも、タカタや三菱自動車、日産自動車など品質にかかわる不祥事が相次いでいる。そのため、オンリーワンで例外的な事件ではなく、日本の企業がみんなそうなのではとの疑いを募らせている。

日本はものづくりナンバーワンで、いいものをしっかり作って信頼性抜群ではなかったのか。東芝のように会計も信用できない、安全性も信用できない、製品の検査も信用できないということになると、日本の経済に対して大ダメージだろう。

――今回の改ざんが発覚したのはアルミや鉄鋼など上流の素材事業であり、神鋼の経営陣は消費者に直結しないBtoB事業に問題が集中していると述べている。

納入先のBの先には消費者のCがある。B to Bは上流だから、下流に大きく広がるという点で影響力は大きく、本来いちばんケアすべき製造業の根幹といえる。根っこがしっかりしていなければ、上のほうでどんなことが起こるかわからない。上流で毒を流せば下流の人はみな死んでしまう。そういう大事件になるんだという想像力や視点を持たなければ、経営を完全に見誤ることになる。

編集部注:神戸製鋼所の取締役は現在計16人。うち社外取締役は5人で以下の通り。北畑隆生・元経済産業事務次官、馬場宏之・元住友ゴム工業取締役、沖本輶史・元みずほコーポレート銀行副頭取、宮田賀生・元パナソニック取締役専務、千森秀郎・弁護士。