自動車ニュースを読み解く 第36回 スバルXV・インプレッサがJNCAP過去最高得点 - 何が評価されたのか?
スバル新型「XV」と「インプレッサ SPORT / G4」が快挙を達成した。自動車アセスメント(JNCAP)で過去最高得点を獲得し、2016年度「衝突安全性能評価大賞」を受賞したのだ。かねてからアイサイトが高評価を得ているスバルだが、今回は日本メーカーで初採用の歩行者保護エアバッグが受賞の原動力となった。
ところで最近、安全性能評価で星をいくつ取ったとか、最高評価を得たとか、そんなキャッチコピーを目にすることが非常に多くなった。今回のスバルの快挙もそのひとつであるわけだが、そもそもこういった評価は誰が、どのように行っているのだろうか。
自動車の客観的な安全性を評価する試験として「NCAP」(New Car Assessment Program)がある。NCAPは米国で生まれたものだが、いまでは世界中で標準的な試験になっているといっていいだろう。その日本版である「JNCAP」(ジェイ・エヌ・キャップ)は、国土交通省と独立行政法人である自動車事故対策機構により実施されている。
ちなみに、ヨーロッパにはユーロNCAPがあり、その他の主要な国にもそれぞれのNCAPがある。これらはすべて米国のNCAPを基本としているが、テスト項目や評価基準が世界で統一されているわけではない。たとえばフルラップ全面衝突テストは、米国のNCAPと日本のJNCAPでは実施されているがユーロNCAPでは実施されていない……といった違いがある。
世界中のNCAPが発表する評価はきわめて大きな影響力を持ち、自動車メーカーの宣伝にも多用される。また、自動車メーカーが新型車を開発するとき、NCAPの試験内容を多分に意識していることも明らかだ。日本では昨年くらいから歩行者に対応した自動ブレーキが多くの新型車に搭載されるようになったが、これは被害軽減ブレーキの対歩行者試験が昨年からJNCAPに追加されたことと無関係ではない。
○「XV」「インプレッサ」好成績の内容をチェック
衝突安全性能評価で過去最高得点を獲得した「XV」「インプレッサ SPORT / G4」では、どのような試験が行われ、どのような成績だったか。改めて紹介しよう。
衝突安全性能評価の試験内容は、乗員保護評価(フルラップ、オフセット、側面、後面の各衝突テスト)、歩行者保護性能評価(頭部、脚部)、PSBR評価(シートベルトリマインダー)の3項目となっている。ここで「あれ!? 自動ブレーキは?」と思った人も多いかもしれない。間違えやすいが、衝突安全性能評価には自動ブレーキの評価はない。
じつは、自動ブレーキをはじめとする予防安全性能の評価は「予防安全性能アセスメント」として、衝突安全性能評価とは別に実施されている。スバルといえばアイサイトによる自動ブレーキなどの予防安全のイメージが強く、今回のニュースについても予防安全性能のことだと勘違いしやすい。
もちろん、スバルは予防安全性能でも高評価を獲得するメーカーの常連になっているが、今回は衝突安全性能が評価されたのであり、予防安全性能は関係ない。つまり、スバルの安全はアイサイトだけではないということだ。
さて、「XV」「インプレッサ」の得点だが、乗員保護性能が95.02点(100点満点)、歩行者保護性能評価が96.07点(100点満点)、PSBR評価が8.0点(8点満点)。合計は199.7点(208点満点)。驚くべきことに、3つの評価すべてがJNCAPの過去最高得点という驚異的な成績となっている。この好成績を称えるべく、「衝突安全性能評価大賞」に加えて「衝突安全性能評価特別賞」も受賞している。この耳慣れない賞は創設されたばかりとのことで、「XV」「インプレッサ」が最初の受賞車となる。
○過去最高得点の立役者となった歩行者保護エアバッグ
好成績のポイントは2つある。ひとつはスバルが昨年導入した新プラットホーム「SUBARU GLOBAL PLATFORM」。スバルでは従来比1.7〜2倍の剛性アップと、1.4倍の衝撃吸収性を実現したと説明していたが、乗員保護性能で過去最高得点を獲得したことにより、その実力が証明されることになった。
今後10年ほどにわたって、スバルのすべてのモデルは「SUBARU GLOBAL PLATFORM」から作り出される。その性能が低かったらまったくシャレにならないところだが、少なくとも安全性はきわめて高いことが証明された。今後登場するスバルのモデルは基本的に同程度の衝突安全性を実現していることになるから、今回の受賞の意味はかなり大きい。
もうひとつのポイントは日本初採用となる歩行者保護エアバッグ。これによって過去最高の歩行者保護性能評価を獲得した。歩行者保護エアバッグとは、ボンネットの後端、つまりフロントウインドウとの境目にあるエアバッグで、フロントバンパーに内蔵されたセンサーが歩行者との衝突を検知すると展開する。歩行者は自動車と衝突した際、頭部をボンネットやフロントウインドウ、あるいはAピラーにぶつけ、これが致命傷となることが多い。そうした頭部へのダメージを防ぐため、歩行者保護エアバッグが開発された。
歩行者エアバッグはボルボが世界で初めて実用化し、その後ランドローバーも採用しているが、それ以外に採用例がない。歩行者保護は自分や家族を守るための装備ではないので、やはり商売としては売りにくい面があるのだろう。日本でいち早く歩行者保護エアバッグを採用し、しかも最初から標準装備としたスバルの英断には拍手を贈りたい。
かつて……といってもほんの10年ほど前のことだが、日本では「消費者は安全にお金を払わない」といわれていた。安全性の高い車を作ってもヒットしない、安全性を高める装備をオプション設定しても、誰も装着しないということだ。その常識を変えたのが、他でもないスバルだった。先進的な機能を実現したアイサイトは、予防安全と運転支援をひとつのブランドとしてユーザーに訴求することに成功した。これを機に、他メーカーも予防安全に力を入れ始めたのだから、その功績は大きい。
そんなスバルだからこそ、日本で初めて歩行者保護エアバッグを採用したメーカーとなったのは当然といえるかもしれない。今後は他メーカーがスバルに続き、歩行者保護機能の充実を図ることを望みたい。
(山津正明)