「氷上のこじはる」

「嬉し泣きは過去に経験したことがなかった。このチームで勝てて本当によかった」

 最終予選3試合をわずか3失点で守り抜き、2大会連続の五輪出場を手にした女子アイスホッケー日本代表のGK藤本那菜(27)。小嶋陽菜似の美貌が話題になった彼女は、ドイツ戦後、本誌にそう答えながら涙した。

 小学生のころから一緒にプレーする妹・奈千さん(25)も、「姉が試合後、あそこまで感激しているのは見たことがない」と、明かしてくれた。

 今はGKとして活躍する彼女だが、意外にも運動オンチのドジっ子娘だった。本人も「運動神経ないんで……」と嘆くほど、運動は大の苦手。

「お人形遊びが好きな、本当におとなしい子でした。かけっこをさせれば女の子走りだし、ドッジボールでもボールが取れずにいる子でね」(父・絢士さん)

 ただ、愚直に練習を繰り返す、とにかく努力の子というのが周囲の評価。

「地元少年団でアイスホッケーを始めたときも下手で、正直無理かなと。5年のときチームのGKが足りなくて、転向させたんです。ただ、当時から人一倍練習はしていましたね」(絢士さん)

 その後、父は独学でGK理論を勉強し、スパルタ指導が始まった。

「好きで始めたなら日本一を目指せ、というのが私の考え。『勉強しろ』とは一度も言わない代わりに、アイスホッケーに関しては妥協を許さなかった。勉強だと日本中にライバルは何十万人もいるけど、アイスホッケーならチャンスは格段に高いからね」(絢士さん)

 父親も妥協はいっさいなし。看護師として忙しく働く母親に代わって、姉妹の送り迎えと食事を担当した。

「父は母、姉、私と3人分の弁当を毎日作っていました。家の冷蔵庫には必ず姉と私のぶんのご飯とおかずが入っている。フルーツとかも必ず2人分。でも姉が全部食べちゃって、時々喧嘩になります。性格? 姉は超マイペース。LINEも基本的に既読スルーです(笑)。男子人気? 姉は女子校だったし、モテてたなんてまったく聞いたことがないです。基本的に練習漬けですからね」(奈千さん)

 最終予選後のオフは、わずか3日。

「家に帰ってきてから、ひたすら部屋で寝ていましたね。出かけたのは接触で痛めた膝の診察とケアのために病院へ行った程度」(絢士さん)

 勝利の余韻に浸る間もなく、19日から冬季アジア札幌大会が開幕した。

「『五輪でメダルを狙うチームが、アジアぐらいで負けてられない』と言って出かけていきましたよ」(絢士さん)

 アジア大会では金メダル候補に挙げられる日本だが、平昌五輪でのメダルの可能性はあるのか?

「アメリカ、カナダの2強が突出していて、金銀はハードルが高すぎる。ただ、開催国枠で出場する韓国は格下で、韓国戦での五輪初勝利は確実でしょう。狙うは銅ですが、ほかの4カ国すべてが格上なので、現状の可能性は15%程度。ただ、藤本選手の安定感は世界でもトップクラス。あと一年で守備をどれだけレベルアップできるかにかかってくる」(スポーツライター)

「ドジっ子娘」が努力の末に摑んだ夢の切符。平昌のリンクで彼女の弾けるスマイルが見たい!

ふじもとなな
’89年3月3日生まれ 北海道出身 163cm56kg ボルテックス札幌所属 米女子プロリーグNWHLニューヨーク・リベターズで、唯一の日本人選手としてプレー。’15年の世界選手権ではベストGKに選出

取材&文・関谷智紀

(週刊FLASH 2017年3月7日号)