JR大阪駅前にあるグランフロント大阪の7階から飛び降りた

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 教師という圧倒的優位な立場を利用した“担任によるいじめ”“教育パワハラ”─まさにそんな構図が、取材の過程で浮かび上がってきた。

 愛知県に住む中学3年生の佐藤勇樹くん(仮名・14)がJR大阪駅近くにある商業施設「グランフロント大阪」の7階から飛び降り命を絶ったのは、2月6日午後11時35分ごろのことだった。

 その数時間前に見た勇樹くんの最後の姿を母親は語る。

「すっごいスッキリした顔をしていたんです。そのときには、もう、決めていたんでしょうね……」と、涙に暮れる。

 勇樹くんはその日、自宅に仲のいい友達を呼び、「これ、あげるから」と大切にしていたモノを渡していたという。形見分け……。

 その後、友人の家で遊び、午後6時30分ごろ、友人の家を出たが、そのまま家に帰ることはなかった。

 最寄り駅の駐輪場の防犯カメラが、勇樹くんの姿をとらえていた。父親が明かす。

「鉄道の高架下に駐輪場があるんです、午後7時10分ごろ、自転車を止める姿が映っていました。そこから大阪へ向かったんでしょうね。

 午後11時ごろには、商業施設の防犯カメラに映っていました。30〜40分ほど、うろうろしていたようなんです」

 その30〜40分間に、勇樹くんは何を考えていたのか。今となっては確かめようがないが、ただひとつ明確なことは、勇樹くんを死に追いやった原因のひとつが教育現場のウソと、担任教師の“不適切な指導”だったということ。

 亡くなる前に、友達にあげたゲーム機の中には、勇樹くんの思いが残っていた。

「担任によって人生が壊されたということ。そして、友達ひとりひとりにあてた感謝のメッセージが、いっぱい書いてありました。みんな、大好きだって……。

 これだけは、はっきり言えます。生徒間にいじめはありませんでした」(母親)

LINEのメッセージから読み取れること

 ここに、勇樹くんの死後、彼を知る同級生が、友達にあてたLINEがある(下写真)。そこには、勇樹くんの担任の評判が記されている。

《好き嫌い激しくて、自殺した男の子のこと嫌ってて、手怪我してて字書けんのに居残りさせて課題やらせたり、その男の子だけにプリント配らせたり結構あたりつよかったみたいー》

 担任による“強いあたり”は、まぎれもなく教え子を追い込む精神的体罰だ。受け止めなければならない被害生徒は、たまったものではない。

 生前、勇樹くんが母親に「これを片づけてと担任に言われて片づけたら、なぜかめちゃくちゃ怒られた」、「係でもないのに、プリント配りを何度もさせられた」とこぼしていたことがあったという。

 理不尽な担任のために、生徒が犠牲になる。さらに勇樹くんが担任への不信感を募らせたのは、昨年9月に行われた体育祭での出来事だった。

 母親がいきさつを語る。

「体育祭の組み体操で、上に乗っていた勇樹が、バランスを崩し前のめりに手をつく感じで落ちたんです。帰宅して、“父ちゃん、骨折れとる”って。見ると両手の親指がパンパンに腫れて、紫色に変色していたんです。勇樹に聞くと“痛いんやって言ったけどスルーされた”と話していました。そればかりか骨折した手で後片づけもしたそうです」

 驚いた母親は、担任にも電話で伝えた。これから病院に行くこと、その結果を後ほど電話で報告したい、と。

 担任の返事は「忙しいので明日に」。そう言って、生徒の母親の報告を打ち切ったという。母親が続ける。

「病院に行くと、やはり組み体操でケガをしたようで、別のクラスの生徒、他の学校の生徒が来ていました。学校で応急処置をされたり、教師が付き添っている様子を目の当たりにした勇樹は、“ほかの人は先生と来るのに、俺は見捨てられとる”ってがっかりしていましたね」

 両手の痛みの訴えを教師にスルーされれば、痛みは思春期の生徒の心に転移する。

 “大人なんて本当にいやや”。ケガの後、勇樹くんは近所の住民にそう漏らしたことがある。生徒が痛みを訴えれば、耳を傾けるのが教師の姿。学校の説明によると、それを放棄した担任はその日、職場の飲み会に出席していたという(のちに本人は父親の見舞いに行ったと否定)。

市の教育委員会に見解を求めると

 一宮市教育委員会に、この点に関する見解を求めた。

「子どもを注意して観察することは大切なことです。気がつかなかったのは、学校として深く反省するべきでありますし、以後同じことが起こらないように、学校には指導を徹底していきます」

 さらに担任は、学校内の学校行事中に起きた骨折にもかかわらず、学校に報告することも怠っていた。教頭も、母親に指摘されるまで生徒が体育祭で骨折事故を起こしたことを知らされていなかった。

 その後、勇樹くんを通して災害共済給付制度に関する書類を担任に提出しようとしたところ、突き返されたこともあった。電話で問い合わせた母親に「最近、勇樹くんの態度が悪いんですよ。今から学校に来られますか?」と呼びつける。学校への不信感は高まるばかりだった。

 高校受験を控えた息子が悪者扱いされるのを避けるために、母親は、担任を代えることを、学校側に相談した。

 そのような母親の行動を、学校側はモンスターペアレンツ扱いし、市教委に報告していたことが、勇樹くんの死後、明らかになる。

「体育祭のケガの報告も、私から“明日にしたい”と言ったことになっていたり、息子の成績の点数を上げてほしいと要望したことに。教育者が平然とウソをつくんですか」

 市教委が家に忘れていった紙に、そのようなことが書かれていたと母親は明かす。

「先日、校長が訪ねてきた際に、こんなこと、私は言っていませんよね、と確認すると、校長は“はい”と認めました」

 学校のずさんな対応は、まだまだ終わらない。

 2月10日、市教委が発表した文章に、生徒が悩んでいたことに“気づかなかった”とあり、遺族が抗議をした。

「以前、学校に、教育委員会には報告していますかと聞くと“伝えています”と答えたんです。何度も話をしているのに……」(母親)

 市教委は11日に訂正する会見をしたが、担当者は「報告は受けていますが、亡くなってからです」と明かす。

 さらに校長は、12日に開かれた保護者を対象にしたPTA総会で「教員のいじめがあった」と発言したものの、翌13日に記者会見し「不適切な指導があった」と修正した。“いじめ”ではなく、“不適切な指導”。その違いを市教育委員会は

「遺族の心境を酌み“いじめ”という言葉を使ったということですね。実際は“いじめ”ではなく、不適切な指導があったと話しています。指導の内容としては、体育祭時の対応、書類提出の際の対応、プリントを配布させていたことの3つです」と説明。「遺族との食い違いがありますので、今後、第三者委員会で調査をしていきます」と語った。

 “不適切な指導”をした担任は、9日から有給休暇を消化する形で自宅待機をしているという。話を聞いてみた。

自宅待機する担任を直撃

─『週刊女性』です。

「名刺をください」

 ドアを少しだけ開け、名刺を受け取るとすぐ閉めた。

いじめはあったのか?

「ありません、第三者委員会でお話しします」

─自殺した教え子を、どう思っていたのですか?

「可愛い生徒のひとりです」

─自身の指導に問題はなかったのですか?

「私にも生活がありますので。これ以上は第三者委員会でお話しします」

 第三者委員会で、教師によるいじめの実態がどこまで明らかになるのか定かではないが、担任の教育姿勢は多くの生徒たちに目撃されている。

 生徒間のLINEからは(関連写真をご確認ください)、クラス全体がうるさいのに、勇樹くんだけを呼んで怒ったり、学級役員でもない勇樹くんにプリント配布や雑用を押しつけたりしていた担任の姿がくっきりと浮かび上がる。

「私にも生活がありますので」と記者に言い訳する担任が、どこまで本当のことを第三者委員会で報告するのか。

「行政にとって都合のいいものを出そうとしたととられてもしかたがない」

 と、大村秀章愛知県知事が危惧する結果にならないことを願うばかりだ。