自らを犠牲にしてゴールを守った国民的英雄
これほど賛否両論が渦巻く人物は珍しい。好評発売中の『ルイス・スアレス自伝 理由』では数々の騒動に対して本人が胸の内を明かしているが、彼がプレーしてきた国の人々はどう思っているのか? 行く先々で問題を引き起こすウルグアイ人FWは、多種多様なサッカー文化を知る上でも格好の教材だ。
from URUGUAY 文/チヅル・デ・ガルシア
2014年6月26日深夜。ウルグアイの首都モンテビデオにあるカラスコ国際空港に大勢の人々が集結した。6月というと南米は真冬。吐く息も白くなる寒さの中、時が経つにつれて群衆はますます膨れ上がる。みなルイス・スアレスを出迎えに来た人たちだった。
昨年のW杯でイタリアのキエッリーニの肩に噛み付き、大会から追放処分を受けたスアレス。チームに帯同することさえ許されず、母国への強制送還が決まった直後から、ウルグアイの人々は空港に出向き、スアレスの到着を待ち始めたのである。
試合中にピッチ内で相手選手に噛み付くという、プロサッカー選手としてあるまじき行為によって大会から追放されれば、母国では「チームに迷惑をかけ、国民に恥をかかせた」と酷評されて当然なはず。ところがウルグアイの人々は、「Querido Luis, estamos con vos!」(愛するルイスよ、我われは君とともにいる!)と書かれたボードを誇らしく掲げ、スアレスを英雄として迎えた。
10年の前回大会で、相手の決定的なシュートをハンドで止めた時もそうだった。全世界中がその非紳士的な行為を非難した一方で、ウルグアイの人々はスアレスの行為を「国の誇り」と称えたのだ。