ゲーム業界とクラウドファンディングの危険な関係|やまもといちろうコラム
やまもといちろうです。ゲーム業界の真ん中に位置していたはずが、いまでは企画よりも調達ばかり頼られる日々であります。こんなはずじゃなかったんだけどなあ……。
以前、ゲーム専門サイトの4gamer.netに炎上したクラウドファンディングの現状について記事を寄せたところ、ほどほどのご反響を頂戴しました。その後も、ぼちぼちKickstarterというクラウドファンディング最大手のサイトでゲーム開発のプロジェクトを拾っては、小銭を突っ込んで楽しくやらせていただいております。さらに、畏友・徳岡正肇さんから「お前、クラウドファンディング詳しいんだから、俺のために執筆ぐらい当然してくれるよな?(意訳)」という大変もったいないお言葉を賜り『ゲームの今 ゲーム業界を見通す20のキーワード』という本では、攻撃型二番打者としてクラウドファンディングについて説明させていただいております。
で、そのクラウドファンディングの世界においては、日米ともに一時期の期待ほどにはお金が集まらない環境になってきておりまして、一番大事なことは「チームの実績」や「信頼」といった部分に尽きます。単純な話、クラウドファンディングで大きくゲームの企画や仕様を公開し、サンプル画像やイメージビジュアルやプロトタイプなどを提示して「こういうゲームを作るよ。面白そうでしょ。投資して、バッカーになってよ」とやるわけなんですけど、ゲーム作りって大変なんすよ。
それはね、小さいチームが楽しくゲーム作ってるから良いものができるとは限らない、大きいチームならなおさら期間内に品質の高いものを作れる保証もない、実にデリケートな世界なのです。
我が国からも、元カプコンの有力クリエイターだった稲船敬二さん率いるComcept社が、Kickstarterで『Mighty No.9』という、カプコンのIP『ロックマン』と“強い繋がりを感じる”コンテンツを提案し、400万ドル以上の資金を集めることに成功した大規模プロジェクトが話題になりました。てっきり、カプコンとロイヤリティそのほかの交渉が成立していたので資金を集めているのかと思って投資してみたら、契約成立していないということが後でわかってビックリです。大丈夫なのでしょうか。
一方で、文字通り権利を無断で持っていかれた形となっているカプコンとしても、モノが出てから内容を見極めて(まあ、あのままであればカプコンが保有するIP『ロックマン』そのままですから100%アウトですが)、差し止めそのほかの請求権を行使する意向を隠しておりません。また、肝心のゲーム自体のリリースが微妙な雰囲気になっているのが気になるところです。ゲーム関係はどうしてもこの手の知的財産の考え方が甘く、リリースまでが大変なのにリリース後も権利処理がされてないとなると、どうしてもトラブルになってしまいます。
そういう夢も希望も魑魅魍魎も吸い込んで展開しているクラウドファンディング界隈は、問題案件のリスクを性善説に基づいてバッカーが背負う仕組みになっているのが興味深いです。どうしてもその作品が現実になるのを見たい、支援したいという強い気持ちがないと、こういうのは成り立たないんでしょうね。
ああ、右も左も権利権利だ、ちくしょうめ。
著者プロフィールブロガー/個人投資家
やまもといちろう
慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数
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