羽生名人と豊島七段が対決…空前のスケールで「リアル車将棋」開催
いま、「将棋」が静かなブームを迎えている。
その人気の一翼を担っているのがネットの動画サービス『ニコニコ生放送』だ。以前からテレビで将棋の中継番組は行われていたが、タイトル戦となると対局時間が長く、また勝負所のタイミングや終局の時間が決まっていないため、放送時間が定められているテレビでの中継ではどうしても「いい場面を常に放送できるとは限らない」という問題があった。しかし、ネットでの放送であれば時間の制約がなく、対局開始から終局までを余すところなく中継することができる。
しかも、間延びしがちな考慮時間のところどころで解説棋士が対局の内容以外のトークを披露することで、プロ棋士の強烈すぎるキャラクターを引き出すことに成功し、従来の将棋ファンだけでなく、若い世代や、“駒の動かし方”くらいしかわからない初心者を引き込むことに成功しているのだ。
トヨタ全面協力のもとに名棋士がガチンコ対決!そんなニコニコ生放送が、かつてない巨大なスケールの将棋対局を行うことになった。その名も『電王戦×TOYOTAリアル車将棋』!
2月8日(日)に行われるこのイベントは、3月から行われる『電王戦FINAL』(プロ棋士とコンピュータソフトが対局する棋戦)のプレ企画で、文字通り自動車を将棋の駒に見立てて、巨大な将棋盤を使って将棋をしてしまおう……というものだ。会場は西武ドーム。将棋の駒はスポンサーであるトヨタ自動車の全面協力で、視聴者による人気投票により決定された。すでに一部は発表されており、王将は「クラウン」、角行は「ランドクルーザー」、歩兵は「ヴィッツ」などとなっている(残りはイベント当日に発表される)。また、将棋盤は縦54メートル、横33.3メートルの大きさで、これは標準的な将棋盤のなんと1万4835.16個分だという。
そのスケールの大きさもさることながら、将棋の内容そのものからも、このイベントの本気さが伝わってくる。まず、対戦相手は、羽生善治名人vs豊島将之七段。羽生名人は知らない方はいないであろう、将棋界の第一人者。将棋のメジャータイトルである七冠を独占したのは19年前のことだが、現在も名人をはじめ四冠を保持しており、その強さは際立っている。
一方の豊島七段は若手のホープで、昨年行われたコンピュータとの対局『第3回電王戦』ではプロ棋士の中で唯一勝利を挙げている。まだタイトル獲得経験こそないが、昨年の王座戦では挑戦者としてフルセットにまで持ち込んでいる。ちなみに、そのときタイトルを防衛した相手こそ、羽生王座だった。つまり、普通に将棋盤で対局をしても注目を集めるカードが、この“おバカ企画”で実現したのである。両者とも、よく引き受けてくれたものだ。
古田敦也、テリー伊藤、小籔千豊……ゲストも豪華そして、対局者が本気なら、この対局を支えるキャストも超本気。それぞれの駒=車は対局者ではなくプロのドライバーが運転するのだが、羽生側はトヨタ自動車のテストドライバーが、豊島側は早稲田大学の自動車部員が駒移動を担当する。
さらに、当日のゲストとして古田敦也氏(元ヤクルトスワローズ監督、トヨタ自動車。将棋もアマ三段の腕前。当日は先手後手の振り分けを決める『振り駒』も行う)、テリー伊藤氏、小藪千豊氏(子供の頃に将棋道場に通っていた)、伊藤かりん氏(乃木坂46メンバー。将棋雑誌に連載を持つ)、中嶋一貴氏(レーシングドライバー。中嶋悟氏の長男)、脇阪寿一氏(レーシングドライバー)など各方面から豪華なゲストが顔を揃えている。
ルールもすでに発表されているが、何よりも気になるのが、「駒が成るときは、果たしてどうやるのか?」……まさか車を裏返すわけにはいかないだろうし、いったいどのように対応するのか、その瞬間が楽しみだ。また、4時間切れ負けルール(秒単位で考慮時間をはかり、4時間ちょうど使い切った時点で時間切れ。なお、考慮時間には車の移動時間も含む)なので、残り時間が少なくなった終盤では、レースドライバーによる超絶の運転テクニックも見どころだ。その他にも始まってみないとわからないハプニングが起こりそうで、そういった見せ場も楽しみである。
当日は、『ニコニコ生放送』で2月8日(日)の午前10時から完全生放送される予定。名実ともに「史上最大」であるこの対局をお見逃しなく!
(文/根腰英太)