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 後藤健二さん殺害後、後藤さんが設立した映像通信会社『INDEPENDENT PRESS』の公式サイトには親族一同名で次のような“謝意”の言葉が掲載された。

「この度は、後藤健二が世間をお騒がせすることとなり、大変申し訳ございません」
「解放に向けご尽力いただきました日本政府及び各国政府、並び無事解放を願っていただきました国民の皆様に対しまして、親族一同心よりお礼申し上げます」

 今回の件は中国メディアも一斉に報じたが、その後、中国版ツイッター「新浪微博」などでは、後藤さんや湯川遥菜さんの遺族がとった対応に関して疑問を呈する声が多数、駆け巡った。たとえば、こんな具合だ。

「日本はアジア一の民主国家だと思ってたのに、なぜ息子の救出に失敗した政府に感謝するのだろうか? 実は中国以上に“モノ言えぬ国”なのか?」
「日本には”言論の自由”がないということがこれではっきりした」
「日本の右傾化がこれではっきりした。息子を助けられなかった政府に感謝の意を示すなんて、日本人は人間の心を忘れている。安部政権の圧制の現れだ」

 実情とはかなり乖離した解釈のされようである。

「民度の高さ」を称える声

 しかし、日本に暮らす中国人たちの思いは複雑だ。

 今回、本サイトは複数の在日中国人に話を聞いてみた。返ってきた反応は以下の通りだ。

「血を分けた息子が死んでも、礼儀を忘れない。それが本心じゃないにしても、そこが日本人の民度の高さだと思う。日本で暮らしてみると、それがよくわかる」(男・留学生・28歳)

 といった遺族の心情に寄り添うものから、

「日本のネットを見ていると、湯川や後藤さんの死を自己責任として突き放す人が多いことに驚いた。そうした目に見えない空気を感じ取り、遺族の人も萎縮してしまったのでは」(女・不動産会社勤務・33歳」

 と噴出した“自己責任論”に疑問を呈する声も。しかしながら、最も多かったのは、やはりこんな意見だ。

「日本人は羊のように大人しい。同胞が殺されたのに、その怒りが見えてこない。私は日本が大好きだが、こうした日本人の冷たさにちょっとがっかりしている」(男・在日中国人向け新聞の記者・40歳)

 今回の取材では、日本人に対して「反抗心のなさ」、「政府の言いなり」、「人間としての冷たさ」といった印象を抱いた人が大半を占めた。もし湯川さんや後藤さんが自分の親族だったとしたら? 改めて、自分自身の問題として考えてみることが大切かもしれない。

(取材・文/小林靖樹)