大物芸人にも新たな流れが

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 2015年のお笑い界では何が起こるのか? それを読み解くためには、2014年の出来事を振り返ってみたほうがいい。2014年のトレンドに着目して、それがこの先どのように展開していくかを予想していけば、おのずと2015年のお笑い界の動向が見えてくることになる。

『笑っていいとも!』(フジテレビ)が3月で終了したのは、2014年のテレビバラエティ界で最大のニュースだった。それに伴って、世間ではタモリを再評価する気運が高まり、タモリに関する書籍が次々に出版された。その後、『いいとも!』という束縛から解き放たれたタモリは、悠々自適の生活を満喫。10月には『ヨルタモリ』という新番組でフジテレビに返り咲いた。ここでのタモリは、次々に新しいキャラクターを演じて、好き放題に暴れている。

 また、記憶に新しいところでは、12月14日の衆院選当日、ビートたけしがニコニコ動画の開票特番に生出演。地上波テレビのような規制のないインターネット番組で、好き放題に暴走。総理になったらどうするかという質問に対して「まずは核武装」「徴兵制と吉原の復活」などと持論をぶつけた。

大物芸人の立ち位置にも変化が

 タモリがコントのような設定でさまざまなキャラに扮するのも、たけしがインターネットの番組に出演するのも、少し前なら考えられなかったことだ。いわば、このクラスの大物芸人が、次々に下の世界に降りてきている。そして、自由奔放に振る舞える環境で、その持ち味を改めて見せつける、という現象が起きているのだ。ゴールデンタイムのテレビがしがらみだらけでどんどん硬直化していく中で、大御所芸人が自由を求めてさまよう「暇を持てあました神々の遊び」は、2015年にもあちこちで見られそうだ。

 民放が次々にコント番組から撤退していく中で、NHKだけはどんどんコント番組を増やしている。内村光良の『LIFE!〜人生に捧げるコント〜』、三宅裕司の『コントの劇場 〜The Actors' Comedy〜』、中堅芸人中心の『7人のコント侍』など、名のある芸人たちが次々にNHKのコント番組に参入している。

 そして2014年には、満を持して志村けんが『となりのシムラ』でNHKコント番組デビュー。中年男性の日常に潜む哀愁を描いた、ほろ苦い味わいのコントが評判を呼んだ。目先の視聴率にこだわらず、十分な予算と手間をかけてコントを作り込めるのはNHKしかない。志村の成功によって、これから他の大物芸人たちもどんどんNHKでコントをやり始めるようになるだろう。民放からNHKへの「コント芸人民族大移動」が、2015年には起きるかもしれない。

テレビに適応できない芸人も売れる時代の到来

 2014年には、「ユーチューバー」と呼ばれる人たちに注目が集まった。ユーチューバーとは、YouTubeに自作の動画をアップして、そこで広告収入を得ている人のこと。HIKAKIN、マックスむらいといったトップクラスのユーチューバーたちは、この仕事だけで莫大な収入を得ているという。

 実はあまり知られていないが、芸人でもYouTubeへの動画投稿に力を入れている人が少しずつ増えてきている。吉本興業やタイタンでは、事務所ぐるみで芸人のユーチューバー活動を後押ししている。

 YouTubeとテレビでは、人気が出る動画の内容が全く違う。YouTubeで話題の動画をテレビでそのまま流しても、ほとんどの視聴者にはピンと来ないはず。YouTubeとテレビは、何から何まで別の世界なのだ。

 今まで、芸人が世間で売れるためのルートはほぼ1つしかなかった。それは、テレビにたくさん出て有名になる、ということ。いわば、テレビに適応できない芸人が有名になるのはほぼ不可能に近かった。

 だが、これからユーチューバー芸人として売れる人が出てくれば、状況は変わるかもしれない。テレビの世界では、上から下まで詰まっていて、新しく若手芸人が出ていく隙はほとんどない。テレビとは違うルールで動いているYouTubeの世界でひと花咲かせる芸人が現れれば、そちらに希望を感じてYouTubeに参入する芸人もどんどん増えていて、業界が活性化するかもしれない。

 2015年は、テレビお笑い界の序列を覆す、新たなユーチューバー芸人の登場に期待したい。

ラリー遠田

東京大学文学部卒業。編集・ライター、お笑い評論家として多方面で活動。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務める。主な著書に『バカだと思われないための文章術』(学研)、『この芸人を見よ!1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある