女子力とパフォーマンス力は卓越している

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【フリーランスドクターXのぶっちゃけ話・番外編】

 前2稿では、STAP騒動を理解するために、科学的大発見が世に出るまでを解説した。一般人向けに易しく説明するために、多少の例外がある場合でも「〜である」と言い切ったりもした。現役研究者から見れば細かいツッコミどころはあると思うが、ご容赦いただきたい。

本当に有能な研究者なら米に留まるはず……

 2014年1月、私が初めてSTAP細胞の第一報を聴いた時、「30歳でNature誌の筆頭著書かぁ、スゲェ」と単純に関心した。私もいちおう博士(医学)であり、米国留学中や大学講師だった頃にはそれなりにマジメに研究していたので、CNS(Cell,  Nature,  Science誌)という山の高さは理解しているつもりだ。自殺した笹井芳樹氏がCell誌に筆頭著書として載ったのが32歳、iPS細胞でノーベル賞を受賞した山中伸弥氏は47歳、そしてほとんどの科学者はCNSには無縁のままで研究人生を終える。

 と同時に、「なんでこの人は日本に帰国したんだろう?」とも疑問に思った。日本人ノーベル賞受賞者の少なくない割合が米国に移住するように、「格差是正」「弱者支援」等のタルいことは言わず、優秀な人間には支援を惜しまない(が、低能な人間は容赦なくクビにする)のが米国科学界……というかアメリカという国である。20代でNature誌を狙えるような優秀な研究者ならば、留学先もそれなりの待遇を用意して遺留しただろう。

 おまけに、小保方氏は30歳の女性である。日本国内で「30歳女性」と言えば「オバサンの入り口」的な扱いをされ、婚活においても「いつまでもタカビーなこと言うんじゃない!」と叱られるビミョーな年頃だが、アメリカだったらまだまだ強気でイケるはずだ。

 米国で日本人は若く見られるし、また国民の40%が肥満に分類されるアメリカでは「並の30歳日本人女性」≒「華奢な女の子」として見てもらえる。さらに、アメリカは2組に1組の夫婦が別れる離婚大国であり、バツを厭わなければ30代超の独身男性を見つけることは困難ではない。

 加えて、あの女子力である。「あのビジュアルならば、地味で草食系男子だらけの研究所界隈ではアイドル扱いしてもらえたハズ……研究者としても女性としても、米国に残ったほうが格段に居心地がいいハズ……だよね?」と違和感を覚えた。

あまりにも“そのまんま”すぎるコピペに脱力

 2月、ウェブ上での指摘で、STAP論文中の写真と小保方氏の博士論文中の写真がソックリであることが指摘された。指摘したのは「11jigen(注1)」を名乗る匿名ブロガーであり、内容からすると生命科学系研究者のようだが、住所も所属も性別も、1人なのかグループなのかも不明である。以前から研究者の間では「知る人ぞ知る」的な存在であったが、STAP騒動で一気に広く知られることとなった。

 私も早速ウェブで確認したが……「確かに、そっくり! しかも、回転・左右反転・拡大縮小といった小細工すら怠って、ホントーに同じ写真をコピペしてる!……9年前のソウル大学ファン・ウソク氏の捏造だって、写真の縦横比を変えてコピぺしていたのに(注2)。捏造にしてもレベル低すぎ〜!」そして、「ぐうたら女子大生が、同級生にコピペさせてもらって、実習レポートを完成……というノリでNature誌の筆頭著書かよ!?」という脱力感に襲われた。

 3月、理化学研究所は釈明記者会見を開き、ノーベル賞受賞者でもある野依良治理事長は報道陣に謝罪しつつ「カルチャーが変わった」と嘆いた。

 たしかに、早稲田大・ハーバード大・理研・Nature誌といった学術界のビッグネームがスルーしたトリックを、匿名ブロガーやインターネットによる集合知が見抜いたのだ。「インターネットは世界の秩序をいろんな形で変えてゆくのだなぁ」と私も感心した。そういえば、2005年のファン・ウソク事件の発覚には「2ちゃんねる」が貢献していたっけ。

STAP問題は「科学」から「芸能」ジャンルへ

 4月、小保方氏は何だかよくわからない病気で入院し、代理人である弁護士が道陣の前でコメントを読み上げた。と同時に、「この人はもはや科学者ではなくなった」と私は考えた。「科学者ならばさっさと再実験するか、入院中でもせめて文章で反論するのがスジでしょ!」と思うからである。おまけに、一般マスコミにはコメントしても、Nature誌に対しては沈黙したまま……。「科学者ならば順番が逆でしょ!」と思った。

「留学中はバカンティ・エンジェルと呼ばれて教授に寵愛された」という報道もあったが、よくよくオリジナル文献を探すと「Vacanti’s Angels(注3)」--すなわち4人いる若い女性スタッフの1人だったらしく「どうやら、英文論文執筆やらオヤジころがしできるような英語力じゃなさそう……日本に帰国する訳だ」と納得した。

 そして、流行語にもなった「STAP細胞はありまぁす」の釈明記者会見。1月の記者会見でベットリだったマスカラ(上下の睫毛に塗って目を大きく見せる化粧品。泣くと色がにじんでパンダ状態になるのが欠点)が今回は塗ってないあたり、「この女、途中で泣く気かな?」と思っていたら、案の定シクシクが始まった。この記者会見で、科学者コミュニティは完全に彼女を見放したと思う。

 一方、多くの一般人は彼女の甘ったるいしゃべりに魅了され、町村官房長官のように「一生懸命やっているじゃないか」と擁護するオヤジが多数出現した。

 スピーチ教室などでよく取り上げられる「メラビアンの法則」というものがある。別名「7-38-55のルール」とも言われ、「人がスピーチを解釈するとき、内容7%-口調38%-外見55%で判断する」というものであるが、2回目の記者会見ではこの法則を改めて実感させられた。このあと、STAP騒動は「科学ニュース」から「芸能バラエティ系」にジャンルを移したように思う。

小保方さんの女子力とプレゼン力を活かす道

「小保方氏はなぜ捏造したのか?」というか、「そもそも、なぜ研究者になろうと思ったか」、結局のところ私には理解できない。しかしながら、そこそこ美人なのは事実だし、笹井氏のストーリーに沿った写真を(コピペとはいえ)探してくるし、決してアホではない。

 また、あの二度目の記者会見におけるプレゼンテーション能力は素晴らしい。「生き別れの息子を探しに」やら「魂の限界」やら、科学論文には不向きだが、コピーライター的なセンスもありそうだ。

 大学卒業後に気象予報士あたりを目指していれば、試験そのものはクリアできそうだし、お天気お姉さんになって「明日は雪が降りまぁす」などと言えば、人気キャスターになったかもしれない。芸能界入りがずーっと噂されているのも、納得できる。今後も、「科学界の外でならば、もうちょっと活躍してほしい」と個人的には思わせる人材である。

まとめ米国の大学は優秀な研究者は厚遇するし、30代日本人女性もそれなりにモテるゆえに、女子力が高く、優秀な(はずの)小保方氏が帰国したのは不自然だったインターネットによる集合知は、科学のありかたも変えつつある小保方氏は、科学者として失格だが他分野では才能があり、大化けする可能性がある

注1:

筒井冨美(つついふみ)フリーランス麻酔科医。1966年生まれ。某国立医大卒業後、米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場をもたないフリーランス医師」に転身。テレビ朝日系ドラマ『ドクターX 〜外科医・大門未知子〜』にも取材協力