蚕蛾の塩焼きそば(写真/川口友万)

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 なんで虫を食べなきゃならないのか? ゴキブリである。甘露煮だ。売り子のおねえさんは、ゴキブリを皿に取り分けながら、「おいしそう〜」と言った。

 さる11月24日、新宿・ロフトプラスワンにて『東京虫食いフェスティバル! Vol.5』が開催された。昆虫料理研究家・内山昭一らが開催している昆虫食のイベント。東京中から虫を食べるのが好きだ! 興味がある! 食べてみたい! そんな人たちが集まり、昆虫食を知的にユーモラスに堪能する。

昆虫食は食べるエンターテイメント

 会場は大入り満員、150人も入ったそうである。そのうち、女性が半数以上。流行は女性が作るというが、彼女たちは実に好奇心旺盛だ。相席になった女性に、販売ブースで買ったゴキブリの甘露煮を勧めてみた。虫を食べるのは初めてなんだそうだ。



「甘辛いですね」

 甘露煮ですからね。

「味はおいしい……やわらかいところが出てきます」

 出てきますね。ゴキブリ潰した時のアレですね。

「エビのような……皮が残ります。あ、あとから虫っぽい味が追っかけてくる!」

 初めての昆虫食、初めてがゴキブリ。人生初体験尽し。



 店内で出す料理も昆虫食一色、他は許さないという徹底ぶりである(さすがに飲み物は別)。メニューは「蚕蛾の塩焼きそば」「虫ミックスフライ(ミールワーム、コオロギ、サクラケムシ)」「ハチノコクリームスープ」「蚕フン茶」「タガメ酒」の5品。



 「虫ミックスフライ」を頼んだ。出てきたのは、イモムシのフライ。ミールワームとコオロギは、トカゲなどのエサとしてペットショップで売られている。サクラケムシは桜の木につく毛虫で、桜の香りがしておいしいそうだ。んん? どこが? 油で揚げてあるから、香りが飛んでしまったのか? どれも川エビの素揚げのような味だが、決定的に違うのは色。色が黒い。おいしそうに見えない。

 ステージには漫画家や昆虫研究者などが順番に上がり、昆虫食や昆虫のうんちくを語る。そうしている間に、頼んでいた「蚕蛾の塩焼きそば」が来た。カイコのさなぎは韓国でも食べる。DMMニュースでも執筆している村田らむさんが、韓国のディープスポットとカイコ煮を捜し歩いた話をする。かごの中の食用犬の画像に、会場ドン引き。さらにトイレ博物館の大きい方をしている最中の彫像に、会場絶句。

 カイコのさなぎを買ったら、袋一杯にくれて、食べても食べてもなくならずに辛かったそうである。スナックとして売っていると聞いてはいたが、本当だった。ではカイコの焼きそばはどうか? ……苦い。漢方薬の味がする。クワの葉の味だろう、これ。体には良さそうだが。クワの葉だし。



 会場にはフランスで食用昆虫を販売しているKIBO社も出店していた。フランス人のイケメン支社長(モデルもやっているそうだ)によると、コオロギはタンパク質が70%以上、これは牛肉の2倍の含有量だそうだ。

 しかも牛肉のような飽和脂肪酸ではなく、オリーブオイルような不飽和脂肪酸を含み、ヘルシーだという。そんなコオロギやミールワームを特殊な製法で乾燥させ、スナックとして、あるいは粉末を料理に混ぜて食べる。

 フランス人は昆虫に抵抗はないのか?

「お年を召した方でも、興味を持って食べられますね。食文化の違いでしょうか。食に対する好奇心は旺盛です」(同社担当者)

 昆虫を食材として扱おうとすると、ネーミングが問題。そこでKIBO社はランドシュリンプ=陸のエビと呼んでいるのだそうだ。たしか甲殻類っぽい。ヘーゼルナッツの味がすると評されている同社の製品、私が食べた感想は味のないエビ。酒のつまみには悪くない。ヘルシー食材として普及を狙うそうだ。

 イベントのメインは昆虫料理コンテストだった。ゴキブリの幼虫のオリーブオイル煮や昆虫のちらし寿司を押しのけ、グランプリに輝いたのは「セミとモウセンゴケの薬膳餅」だった。



 モウセンゴケの甘酸っぱいソースがポイントの、刻んだセミの抜け殻が入った蒸したお餅である。意外な組み合わせとおいしさが高評価だった。

 食糧危機が懸念される昨今、国連食糧農業機関(FAO)が昆虫食を推奨するレポートを出すなど、昆虫食には注目が集まっている。漢方薬では昆虫が使われ、知らずに飲んでいる場合も多い(たとえばセミの抜け殻は「蝉退」といい、解熱剤だ)。

 しかし食べるとなると話は別だろう。飽食の日本では、昆虫食は度胸試しであり、食べる冒険であり、退屈な日常から飛び出すツールだ。

 帰りのエレベーターで、1人で来たという若い女性に声をかけられた。

「私、今日、初めて来たんです。すごいですよね!」

 目がキラキラしていた。昆虫食は、ただの食べ物ではない。食べるエンターテイメントなのだ。好奇心で常識を乗り越える興奮。出会いがないと嘆く男性諸氏は、ゴキブリを食べて、女性たちの好奇心と向き合うときっとモテるぞ。

(取材・文/川口友万)