[Digital Cinema Bülow 2〜CineGear 2014]Vol.05 4Kから4K OVERへ、解像度とカラーの関係

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「るろうに剣心 京都大火編 / 伝説の最期編」撮影:石坂拓郎氏が語る最新デジタル・シネマトグラフィー

©和月伸宏 / 集英社 ©2014「るろうに剣心 京都大火 / 伝説の最期」製作委員会

2012年夏に公開された「るろうに剣心」(主演:佐藤健、監督:大友啓史)は、日本のアクション・エンターテインメント映画作品を変革した話題作として興行収益も30億円超えの大ヒット!その後、世界64カ国で上映され話題作となった。RED ONE(MYSTERIUM-X)で撮影されたこの作品では、当時スタンダードとなりつつあった、デジタル・カラーグレーディングなどポスト作業についても先進的な方法で行われた。

そして、あれから2年。主要キャストとスタッフはほぼそのままに「京都大火編 / 伝説の最期編」の2部作となる待望の続編が完成。総製作費30億円、昨年初夏から始まったロケは、全国30カ所以上10都道府県におよび、参加エキストラは約5,000人と、近年まれにみる邦画大作として製作された。

今回の撮影を支えたのは“RED EPIC”。5K撮影(仕上げは2Kシネスコサイズ)と最新のDITセットを含むカラーグレーディングの最新システムワークフロー、さらには劇場公開映画としては本格的なMoVI使用による新たな撮影手法を随所に試み、実にその撮影期間は約6ヶ月に及んだ。

この8月の作品公開を前に、前作「るろうに剣心」から引き続き撮影を担当した石坂拓郎氏(J.S.C.)に、撮影現場の様子やポスト処理(主にカラーグレーディング)に関しての詳細についてお話を伺った。

前作でのRED ONE(4.5K)と、今回のEPIC(5K)になっての大きな変化

石坂氏:2つの違いをハードウェアの面から話をすると、まずカメラの大きさ、重さに大きな違いがあり、そこが変わるという事は、撮影現場に大きな影響を与えます。映像の重厚感にも関わるので、単に機材が軽くなれば良いという訳ではありません。EPICは、色々アクセサリーをつけた場合は、RED ONEと大きくは変わりませんが、軽量化すれば、相当軽くする事が出来ます。その軽さを利用すれば、軽量カメラ用に開発されたリグや特機を使う事が出来ます。機動力が増して、アクション撮影の際には、役者のアクションにより近づいたり、役者と同じ速度で走る、飛ぶ等の撮影が可能になりました。

©和月伸宏 / 集英社 ©2014「るろうに剣心 京都大火 / 伝説の最期」製作委員会

石坂氏:次に大きいのはセンサーの撮像面のサイズの変化です。4.5Kから5K HDに変更した際の大きな違いは、DCIシネマスコープサイズの1:2.40フォーマットを作るのに、4.5Kの場合は、画の上下に全く余裕がありません。今回採用した5K HDでは、1:2.40をそのまま切り出せるので、上下に余裕ができて、ポスト作業での画面のずらしを可能にしました。

(5K HDサイズのフォーマットを選択した)一番のメリットは、アクションの手を取りこぼさない為に、画面ずらしを可能にできることです。アクションの際に必要な情報が少しだけフレームから外れていた場合、それをもう一度撮影をするとなると、多くのテイクを重ねることになり、時間も役者の体力も消費されます。そこで、画面自体をずらせることで修正が利く場合には、現場ではすぐに次のカットに移ることが出来るようになりました。

レンズ選択と高解像度化により難しくなるフォーカス

©和月伸宏 / 集英社 ©2014「るろうに剣心 京都大火 / 伝説の最期」製作委員会

石坂氏:今回最も変わった所の一つは、レンズとフォーカスです。テストの段階で、5Kだとズームレンズのほとんどのワイド側は使えないケースが多いことが判明しました。フジノンの18-80mmなどは5Kだと、40ミリ位まで角がけられてしまいます。そこで今回は5K HDという設定で少しだけフル5Kよりも小さい撮像面を使うことで、それを解決しました。これをやらないと、ズームをつけた場合、5K HDで単玉だと5Kとフォーマットをスイッチすることになってしまい、ポスト作業が更に大変になるので、今回は5K HDで統一しました。REDのような方式の撮像面が解像度に対してどんどん大きくなるカメラに対しては、レンズの方の開発が追いついていかないでしょうね。

フォーカスは、まさに解像度が上がった事により、問題がさらに大きくなって来ています。まずは単純にフォーカスが大変になってきます。EPICの5Kの場合は画角が大きいので、それに対応して、レンズを長めの物を選択していくためフォーカスは大変になります。ワイドに見えてもフォーカス深度が浅いのです。

近年、カメラに光学ファインダーが無いために、オペレーターがビューファインダーで細かなフォーカスをチェックしにくくなり、さらには、5KをHDにダウンサイズした絵をモニタリングしているベースでさえ、正確なフォーカスが判断できないという事もあるのが問題ですね。

フォーカスの難しさは、今後解像度が上がっていくと大きな問題になると思います。あまりにも解像度が上がるとカメラの移動の振動でさえ、解像度の低下(フォーカスが合っていなく見える)の原因になりかねません。解像度も上げていくにつれて、振動を補正するセンサーなどが出てくるかもしれませんね。

MoVIを本格使用した初の邦画作品

石坂氏:MoVIは、昨年発表された瞬間にこれは使える!と感じて、すぐに本作の撮影に間に合うように色々動きました。幸い、撮影の真ん中位の7月末にセットが届き、その次の日にテスト、2日目には本番で使い始めました。

前作は、アクションの動きとして前後の動きが多かったので、レールとジブ等で撮影していましたが、今回のアクションは直線的な動きだけでは無くなりました。アクションと同時にカメラも回ったり、役者の近くギリギリで撮影したりと、色々な変化が必要でした。安全性を考えても、(MoVIならば)レールに役者が激突する危険性もなく、荒れ地でもすぐにスムーズなトラッキングが出来るのでとても役に立ちました。

最初は一人でオペレートするマジェスティックモードの具合に慣れなくて苦労しましたが、次第にコツを掴んで上手くショットが成立するようになりました。MoVIを一番うまく使うには、2人でのオペレート(一人が持って、一人がリモートでパンとティルトを担当)が理想だということも分かりましたが、二人でやる人員と練習期間、リハーサルなどの問題があったので、今回は一人でのオペレートをメインとしました。

©和月伸宏 / 集英社 ©2014「るろうに剣心 京都大火 / 伝説の最期」製作委員会

石坂氏:MoVIに慣れてからは次第に有効な使い方を考案していきました。地面すれすれで、走っていくのを追いかけたり、そのまま障害物を一緒に飛び越えたり、狭い場所を走っていくショット等、色々撮りましたが、今回の撮影で一番面白かったのは、2階の狭い橋を駆け抜けていく宗次郎を、MoVIをもったスタントマンが、追いかけていき、そのまま宗次郎と一緒に、穴に飛び込んで1階に着地、そこからさらに一緒に走って剣心を攻撃するという所までをワンカットで撮影しました。

スタントマンと、MoVIが一緒に2階から1階に降りるのは、タイミング等が本当に合わないと、見えなかったり、迫力が無かったり、カメラが危険になったりと、とても難しいショットになりました。スタントマンに狭い橋を走るのと、飛び降りるタイミングだけに専念してもらうために、スタントマンがMoVIを持ち、リモートで自分がフレームの上下を操作しました。これを20回以上前日に練習して、10テイク程度を本番でも費やしました。これは素晴らしいアクションチームの技術と、MoVIという新しい機材が融合して可能になったショットです。

もう1つ面白い使い方だったのは、カメラカーで馬の撮影をする際に使った方法です。時代劇なので、舗装されていない場所を走る為に、普通だと、スタビライザーヘッドが必要でしたが、MoVIと自転車のゴムで、コストの高いスタビライザーヘッドとそれを乗せるクレーンと車両を借りずにすみました。これは画期的でした。

MoVIとステディカム等との比較

石坂氏:ステディカムとMoVIが大きく違うのは、MoVIはステディカムの苦手とする中間の高さを得意とする事です。それと左右の傾きがMoVIの場合は無くなります。ステディカムのオペレーターの質は、傾きに出ることが多いので、これは画期的です。それから、ローモードでの地面すれすれのオペレーションには、二人のオペレーションモードを使用するととても効果的です。また軽量カメラを使用する場合は、他のオペレーターに手渡しできるという事です。これは、使い方にコツがいりますが、最近発表されたリング型のハンドルは、ものすごく使い易いです。その他にも、釣る、リモコンヘリや車につける、など色々な使い方があります。

現在、ステディカムが勝っている部分は、オペレーターがプロであり、一人でオペレートでき、鍛錬によって長めのレンズでも正確にオペレーションが可能で、パンとティルトも人の手の感覚そのままで出来ます。その他、カメラだけ後ろに向けオペレーターは前に向かって走れたりする利点があります。

MoVIは、ワイドレンズから中間レンズまでならば、効果的に使うことはできると思いますが、長玉には向いていないリグですね。しかしこれは現在での話で、これから少し大型の物や、一人オペレーション用のソフトウェアの進化、ジブ、クレーンなどに乗せる際のクイックリリースなどが出てくるだろうし、コントローラーもすでに別会社から、パンバーとホイールの両方でコントロールできる端末が出て来ています。まだMoVIは一年生なので、これからどんどん進化していくと思われます。

6ヶ月の長期撮影で2本撮り=過酷な撮影スケジュールで最も大変だったこと

©和月伸宏 / 集英社 ©2014「るろうに剣心 京都大火 / 伝説の最期」製作委員会

石坂氏:“2本同時撮り”も初めてでしたが、6ヶ月という長く思える期間も、内容の濃さに対してはギリギリのスケジュールだったと思います。撮影期間は、122日が本隊でそれに4日間の追加合成素材撮影がありましたが、セット準備やロケハン、会議を入れるとほとんど暇がない状況でした。

すべてセットで撮影すれば時間の計算も立ちますが、30カ所以上と地方ロケも多く、セットもロケセットも大規模で、東宝スタジオでのセット撮影の間に、ロケセットや、ロケが入って来るという過酷なスケジュールでした。

アクション撮影は、前作のように、夜や森の中、セットなどはまだ天候の変化がごまかしやすいのですが、今回は一日で撮りきれる事は少なく、どうしても数日に渡って撮影することが多いのと、ロケが多く、太陽や天候に悩まされながらの撮影でした。

長い間撮影をするにあたって、難しくなる事の一つは、ストーリーをたどり続ける事です。毎日の撮影を“生き残ること”が次第に精一杯になっていく中で、ストーリーを見失わないようにしないと、そのシーンだけで成立する事になってしまいます。全体の物語を見失わないように、気をつけて進めていきました。体力的、精神的な管理も気を配りました。疲れてくるとどうしても「面倒くさい」という言葉が出てきます。これを許すと、あっという間にクオリティーが下がったりします。ちょっとした事を面倒だと思って許すと、次にもっと簡単な事が面倒に感じてしまう物です。毎日が新鮮な状態で始まるように、気分と体調をキープする事が大切でした。

カラーグレーディングに関する変更点

©和月伸宏 / 集英社 ©2014「るろうに剣心 京都大火 / 伝説の最期」製作委員会

石坂氏:カラーグレーティングは、前回の「るろうに剣心」(パート1)とは違うアプローチになりました。さらに「京都大火編」(パート2)と「伝説の最期編」(パート3)の2本もそれぞれ違うアプローチをする事になりました。

パート1は、最終がフィルム上映ということで始まったので、フィルムに対して合わせるLUT(Look Up Table)で作業して、最後には実際フィルムにアウトするという形と、そこからDCIマスターも作りました。

今回の二本は、残念ながらフィルム上映は無いとの事でしたので、当初からDCIメインで制作しています。パート1は、漫画の実写化、剣心というキャラクターと世界感の紹介。明治という新時代、アクション、リアルがキーワードでした。これにより、派手に目を引きながら、リアルさを残す努力をしました。どこかカッコイイと言う言葉をどうやって見る人から引き出すかが大切でもありました。時代劇だから、上品に、しっとりと、というわけではない物を作り出したかったという思いでした。

京都大火編(パート2)と伝説の最期編(パート3)は、パート1のスタイルを踏まえて、色味のルールは統一させていきましたが、前回よりも、派手さよりも少しだけ、上品さを出していきたいと思いました。話の流れや、登場のキャラクター、土地柄の個性なども違うので、それに合わせて変化させていきました。

前回と今回でテクニカル的に大きく違うのは、元のRAWからやるか、変換してやるかという事と、その作業をするカラリストのスタイルの違いでした。カラーコレクション作業は、作業をする人間がベストな状態でその個人の能力を発揮できる環境に持っていくのが良いと思っています。こちらからの提案もしますが、テクニカル的に大きく劣っていたり、マイナスに向かわないワークフローであれば、受け入れる事にしています。実はここを判断するのが難しいのですが…。

それを踏まえても、カラリストのやり易さというのが、長編でのカラーグレーティングでは大切な部分になります。色の触り方の順序や、方法でグレーティングが本当に大変な物になるか、クリエイティブな時間を持ちながら進めていける場になるかが大きく別れると思います。

パート2は、一度先入観無しに物語の流れと大体の雰囲気でグレーティングをして、まず様子を見ました。その結果、上品になり過ぎ、上質だけど飛び出た物が無くなってしまいました。その後に、エンターテイメント性、子供まで見られる作品として、目を引く派手さと、表情やアクションの手の見やすさに重きを置いて再度カラーグレーディングをしました。

パート3(現在作業中)は、最終的にはパート2よりも派手さより奥深さをキーワードに進めていく予定です。これを可能にするのが、最近流行のフィルムLUTをつかったフィルムっぽさを出す工程です。ですが、今回は、さらにそれを進化させて、元のフィルムのルックを再現するのではなく、現代のデジタル映像に加えられる味としてさらに改良をしたLUTを使用することで、フィルムのようにハイライト、中間部、暗部にそれぞれ均一に、個性が出てくる様にしています。これを使ったことで、前回のグレーティンングの時にやっていて、それぞれのハイライト、中間部、暗部に入れていた色味が、フィルムに近いという事にも今回気づかされました。どこかで、フィルム時代の色味が僕の頭の中に残っているのかもしれませんね。

るろうに剣心 京都大火編(8月1日〜) / 伝説の最期編(9月13日〜)
新宿ピカデリー 他全国公開!
http://wwws.warnerbros.co.jp/rurouni-kenshin/index.html

txt:石川幸宏 構成:編集部
Vol.04 [Digital Cinema Bülow 2] Vol.06
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