優勝のキーマン。青木宣親が新天地で求められる2つの役割
そろそろ日本では、高校野球の聖地・甲子園球場で、春のセンバツ大会が開催される頃だろう。かつては、丸刈りといえば高校球児の専売特許だったが、オープン戦真っ最中の米国アリゾナで、丸刈りの頭から大粒の汗を流し、ハツラツとしたプレイを披露している選手がいる。今季からロイヤルズに加入した青木宣親だ。
2シーズンを過ごしたミルウォーキー・ブルワーズからカンザスシティ・ロイヤルズへトレードされたのが、昨年12月5日のこと。昨季はシーズン途中にもトレードの噂が浮上していたため、青木自身、心のどこかで移籍の可能性はゼロではない、と考えていたようだ。
ナ・リーグ中地区で首位争いを演じるかと思われていたブルワーズは、まさかの負け越し。チームは若返り策の一環として、若手有望株の外野手クリス・デービスをレギュラー格として起用する方針を固めた。中堅はカルロス・ゴメス、ライアン・ブラウンを左翼から右翼へコンバートし、左翼にデービス。ブルワーズのダグ・メルビンGMから青木の出番が減ることを告げられた代理人ネズ・バレロ氏は、すぐさま青木がフィットするであろうチームの選定を始めたという。
「チームの方針は止められない。同時に、ノリ(青木の愛称)ほどの才能をベンチに置いておくなんてことはできない。だったら、ノリが毎日プレイできて勝利に貢献できるようなチームにトレードしてもらうことが、全員にプラスに働く解決方法だった」
そして、バレロ氏が提案したトレード先のひとつであり、最も強く推薦したチームがロイヤルズだった。ひと昔前は、ア・リーグ中地区の万年最下位チームだったが、生え抜きの若手選手がチーム主力に成長し、2012年は負け越しながらも地区3位へ浮上。昨シーズンは86勝76敗で10年ぶりに勝ち越し、上昇気流に乗り始めた。だが、このチームに足りないものがある。それが「典型的な1番打者」の存在だった。
昨季ロイヤルズで1番打者を任されていたのは、左翼手のアレックス・ゴードンだった。中長距離打者のゴードンの1番起用は、完全なる消去法によるもので、「ゴードンを1番に据えたい」のではなく、「1番ができるのはゴードンくらい」だったからだ。ゴードンの能力を十二分に発揮させたければ、中軸での起用が最適だ。そのためにも、出塁率が高くて走れる典型的な1番打者の獲得は、ロイヤルズにとって最優先事項のひとつだった。
オープン戦開始から10日近くが経つが、すでに「青木獲得効果」が表れている。3番ホスマー、4番バトラーに次ぐ5番を任されるようになったゴードンは、3月8日現在、8試合に出場し、打率4割で5打点を記録。本来持っている力が有効活用されるようになった。
日本ではなじみが薄いかもしれないが、3番からホスマー(一塁)、バトラー(DH)、ゴードン(左翼)、ペレス(捕手)、ムスタカス(三塁)と並ぶ打順は、若さゆえに三振も多いが、なかなか手強い重量打線だ。1番青木、2番インファンテ(二塁)が出塁すれば、誰かが走者を還してくれる。対戦相手にしてみれば、気の抜けない打線となるだろう。
さて、新チームに加入した青木は「優勝できるチャンスのあるチームでプレイできることは嬉しいこと」と、その喜びを表現している。キャンプインしたその日、ミーティング中に首脳陣だけではなく、選手からも「優勝」の言葉が飛び出したという。野球はやはり勝敗がすべて。どんな過程をたどっても、シーズン最後に勝ち残ったチームだけが"ワールドシリーズ覇者"の称号を手に入れられる。昨季10年ぶりの勝ち越しを果たしたことで、世界一は夢ではなく、手の届く範囲にあることを選手たちが肌で感じているのだろう。
青木は今年でメジャー3年目だが、プロ野球選手としては11年目のベテラン選手。若手の多いロイヤルズ野手陣の中では、インファンテに次ぐ年長者だ。首脳陣から「若手が多いから引っ張っていってほしい。いろいろ教えてやってほしい」と要請を受け、主砲のバトラーからも「リーダーのひとりとしてやってもらいたい」と声を掛けられた。
青木自身も「若い選手がいる分、僕みたいなベテランは、ブルワーズにいた時よりもやらなきゃいけないことが変わっている気がする」と、リーダーのひとりとしてチームに貢献するつもりだ。
リーダーのあり方はさまざまだ。声を出して盛り立てるタイプもいれば、プレイで結果を残して背中で引っ張るタイプもいる。青木の場合は後者だろう。ロイヤルズのヨスト監督は「アオキの打撃練習を見るだけで、若手には十分勉強になるはずだ」と言う。
「同じスイングを繰り返せる能力の高さは抜群だ。彼の打撃練習には感心するよ。毎回バットが同じ軌道を通るんだから。外角球は逆らわずに左翼へ力強い打球を飛ばす。内角球なら右翼線にしっかり引っ張る。彼ほど安定した打撃メカニックを持っていれば、安定した成績が残せるのは当然だ」
2012年春、自らの実力を証明し、開幕ロースターに名を連ねるために奮闘していた男は、ムラの少ない安定したパフォーマンスと野球に打ち込む熱心さを買われ、わずか2年で若手の手本と呼ばれる存在となった。慣れ親しんだ濃紺のユニフォームから、鮮やかなロイヤルブルーに色を変えた今季は、これまで以上の決意の強さが感じられる。
「僕がトレードでここへ来たことは意味があると思うから、しっかりチームのために貢献したいと思います」
今年のロイヤルズは、なんだか面白くなりそうな予感がする。
佐藤直子●文 text by Sato Naoko