都立小山台vs堀越 終始リードをキープした小山台、1打同点も切り抜け薄氷の勝利
先発・伊藤優輝君(都立小山台)
最後の最後まで、どちらにどう転ぶのか分からない展開となったけれども、終始リードをキープしていた都立小山台が最後まで逃げ切った。
夏から、エースとして投げている伊藤優輝君が残っている小山台。それほど打てるチームではないけれども、投手力が整備されていれば勝ち上がりやすいと言われている秋季大会だけに、注目されている。伊藤君は、下半身も夏よりは一回り大きくなって逞しくなったかなという印象だが、ストレートのスピードは140キロに届くか届かないかといったところ。しかし、要所で投げてくるスライダーと、チェンジアップのコンビネーションが鋭い。
この伊藤君が安定しているだけに、小山台としては、先攻逃げ切りというスタイルが勝ちパターンということになる。この日も都立小山台は、自分たちの勝ちパターンの試合運びをすることができた。
初回、都立小山台は2死一二塁から、5番に入っている伊藤君自らが、右中間に二塁打を放って先制した。
一塁走者も思いきって返ってきてもいいタイミングだったが、ここは留まった。ただ、それがその後の苦戦の導線にもなった。
それでも、都立小山台は3回にも四球とバント安打に、捕逸などで貰った無死二三塁で、内野ゴロで本塁憤死、さらに伊藤君の好打も遊直になるなど好機を潰しかかったところで2死一三塁から、ディレードスチールを仕掛けた。このあたりは、打てないとなれば何とかして点を取っていきたいという姿勢の表れでもある。福嶋正信監督も、「あれは、練習で何回もやってきたことですよ。それが、まさか公式戦で成功するとは思いませんでした」と、言いつつも満足そうだった。
都立小山台が2点をリードして、堀越が追いかけるという展開で進んで行った試合は、4、5回小山台が追加点のチャンスを逃していき、もつれることになった。
3回表、都立小山台はディレードスチールで追加点をあげる
反撃したい堀越は7回、失策の走者を出して2死二塁から8番に入っていたリリーフの吉沢君が、伊藤君が簡単にストライクを取りに来たところを叩いて、浅めに守っていた左翼手の頭上を破る一打となって1点差とした。
しかし、都立小山台も8回、2死走者なしから6番吉田君が左翼線二塁打すると、続く西脇君の一打は内野と外野の間にフラフラと上がった飛球で、これが間にぽとりと落ちた二塁打となり、吉田君が生還。結果として、これが決勝点となった。
その裏、堀越も2死二塁から4番原君の中前打で再び1点差とし、9回も先頭の代打藤井君が二塁打し、死球もあって無死一二塁と同点、逆転サヨナラ機を作ったものの、最後は都立小山台の伊藤君が踏ん張ったという形になった。
伊藤君は、5度も先頭打者の出塁を許すなど、苦しい投球にもなっていたが、結果的には何とか抑えられて、粘り切ったという内容だった。
「先頭をどうして、あんなに出してしまうのか…、それは本人が一番分かっているのでしょうけれども、力んでしまうのかなぁ」と、福嶋監督は辛勝ではあったが、勝って次へ進めたということで安堵していた。
試合後は、都立小山台が陣取っていた三塁側ベンチの上に、赤とんぼが止まっていた。赤とんぼは、都立小山台にとっては特別な存在である。2006年にエレベーターの事故で亡くなった市川大輔選手の遺族や、当時の父母や仲間が、事故原因について追及していく運動を展開していく会を「赤とんぼの会」という。以来、都立小山台の大事な試合には、必ず赤とんぼの姿があるという。この日も、赤とんぼがピンチになった都立小山台ナインを励ましていたのかもしれない。「いつも、大輔(ひろすけ)が来てくれるんですよ」福嶋監督は、少し遠くを見つめるような眼差しで、ベンチ上に止まり続けていた赤とんぼの存在を教えてくれた。
(文=手束 仁)