驚異的なスタミナと負けん気の強さで勝利を掴んだ八重山商工・馬場

八重山商工・馬場寿希矢投手

「 ホントは疲れてて腕も重かった。さらに指先が少し変で。でも、監督に言われてなにくそ!と思いました」(馬場)一回戦から準々決勝の知念戦までの4試合に加え、前日準決勝の美里工戦に続き、この日もマウンドに上がった八重山商工・馬場 寿希矢(ばんば・じゅきや)の疲労はピークに差し掛かっていた。だが馬場は、それを周囲に思わせないほどの快投で序盤から飛ばしていく。5回を終えて出した走者は一つの死球のみで、全て三者凡退に抑えていった。そんな馬場を襲ったのが指先の変調だった。「7回終わってだったかな。指の感覚がおかしいと言ってきたので、どうするんだ、それじゃ変わるか?と聞いたらイヤな顔してね」と八重山商工・伊志嶺吉盛監督は振り返った。マウンドを降りるかどうかは自分で決めろ!やるならどーにかせい!という伊志嶺流の叱咤に、逆に馬場本人の負けん気の強さに火が付いた。ピンチを招いた6回のニ死二塁と、7回のニ死一・三塁以降、なんと14回まで二つの四死球のみと圧巻のピッチング。ここへ来てさらに馬力を上げていく精神力と体力に、滅多に褒めない伊志嶺監督も「ホント良く投げたね」と目尻を下げた。

常に流れを掴んでいた八重山商工。身上である粘りで対抗した宜野座

延長11回、二塁打を放つ宜野座・山城壮之(たけし)

 序盤から流れを掴んでいたのは八重山商工だった。初回、二つの四球で無死一・二塁と思わぬチャンスを得るが、「手を出してはいけない球」(伊志嶺監督)を打ちにいった原田 泰成が捕邪飛で倒れると、具志堅 忠憲は三振、馬場はショートフライに倒れ先制の機会を逃してしまった。2回の一死二塁では併殺、5回のニ死一・二塁ではセンターフライに打ち取られるなど、詰めの部分で甘さが出て、立ち上がり不安定だった宜野座・伊保拓海を助ける形となってしまった。

宜野座は前述した6回と7回にチャンスを得るが、セカンドフライと、ファーストのファールフライに倒れるなど、馬場のストレートに差し込まれて得点することが出来ない。そして両校ゼロのまま、試合は延長へと突入していく。

ここでも先にチャンスを得たのは八重山商工。11回、具志堅が四球を選ぶと、続く馬場がレフト線を襲う二塁打で一死ニ・三塁。スクイズかエンドランか。しかし宜野座バッテリーは打席の金城 功恭(きんじょう・あつや)をツーストライクとし早々と追い込む。ここで八重山商工ベンチが出したのはスリーバントスクイズ。

虚を突いたこの作戦、実は決まっていてもおかしくなかった。だが金城はプッシュバントをしてしまい一塁線からファールラインへ。「スクイズをプッシュするなんてあり得ない」と伊志嶺監督も嘆くしかなかった。ニ死二・三塁となった後、宜野座の伊保は次打者三振に斬るなど粘りのピッチング。昨日の準決勝では5つのエラーをしてしまった野手陣もこの日は無失策と、浦添商戦を制した身上とする粘りで対抗していった。

ミスを帳消しにする一閃!激戦に幕を閉じたホームラン

延長15回表、二死無走者からホームランを放った八重山商工・原田泰成

 引き分け再試合なのか、それとも抽選なのか。これ以上は新しいイニングに入らない延長15回まできたこのゲーム。八重山商工の攻撃もツーアウトとなり、打席には原田が立った。

「僕で終われば勝てなくなる。何がなんでも後ろに繋げるつもりでした」初回のチャンスを潰した男は、この前の打席まで四つのフライに投ゴロ、そして三振と完全にツキに見放されたかのようでもあった。ベンチもホームランなど120パーセント無い(伊志嶺監督)と引き分けを覚悟していたその初球!インコース低めの甘い変化球に原田のバットが反応した。研ぎ澄ました刀を、ひと振りするときにひらめく鋭い光のごとき一閃の振りから生まれた打球は高々と舞い上がりライトスタンドへ。「間違いなく持っている。このチームの打線のカギを握っている男」と伊志嶺監督が期待する働きを、最後の最後で見せた見事なホームラン。土壇場で追い詰められた宜野座もその裏、城間 公希のレフト前ヒットに犠打で一死ニ塁とプレッシャーを掛けたがここまで。サードライナーと最後は12個目の三振を奪った馬場が、この熱戦にピリオドを打った。

馬場が185球、伊保は215球と両エース合わせて400球を投じた15回の激闘は、両軍ともにノーエラーと日頃の成果を出し切った全員野球のぶつかり合いでもあった。九州地区高校野球の秋季では、過去に準優勝(八重山商工が2005年、宜野座が2002年)を残しているDNAを継ぐだけあり、三位決定戦とはいえ負けたくない気持ちを常に見せ続けた両校のナイン。来たる26日からの第133回九州地区高校野球大会においても、「結果を求めるよりも自分たちの野球をするだけ。それで皆さんが喜んでくれたなら」(伊志嶺監督)という姿勢で望めば、結果はあとからついてくるだろう。下克上からの選抜切符をファンは心待ちにしている。

(文・写真:當山 雅通)

八重山商工   TEAM   宜野座 守備位置 氏名 打順 守備位置 氏名 一塁 真玉橋 樹 1番 右翼 山城壮之 捕手 宮良雄太 2番 遊撃 仲間 福 中堅 原田泰成 3番 中堅 仲間圭吾 三塁 具志堅忠憲 4番 左翼 松川竜希 投手 馬場 寿希矢 5番 一塁 赤崎龍一 遊撃 金城功恭 6番 三塁 城間公希 右翼 市川海悠 7番 二塁 渡久地 涼 左翼 千賀威吹 8番 捕手 當眞圭介 二塁 平安名勇太 9番 投手 伊保拓海