近年のJ1リーグが混戦状態にあることは、共通認識として浸透しているものだろう。だが、このチームの快進撃は誰もが予想できなかったに違いない。

 大宮アルディージャである。

 4月26日に行なわれた柏レイソルとの第8節で、大宮は4対0の快勝を収めた。更新中のJ1連続不敗記録を「19」に伸ばし、暫定ながらリーグ戦の首位に浮上している。昨シーズンは18試合を要した勝点20に、わずか8試合で到達するハイペースである。

 日立台でのアウェイゲームは相性がいい。古くは2005年10月、残留争いの真っ只中で2対1の勝利をつかんだ。一昨年は優勝圏内の柏から、3対1の勝利を奪っている。ラファエルと東慶悟のコンビネーションが、殺傷能力の高いカウンターを成立させた。

 昨年10月のゲームでは、ズラタンのハットトリックなどで4対1の快勝を収めている。リーグ戦での通算成績は4勝4分4敗とまったくのイーブンだが、日立台では3勝1分け1敗と勝ち越しているのだ。

 とはいえ、当事者たる選手たちには、相性の良さもさほど重みを持たない。ダブルボランチの一角を担う金澤慎は、試合を翌日に控えて「ずいぶん時間も経っているので、去年の勝ちはあまり意識していません」と話していた。「明日は明日で、しっかりやっていかなきゃいけないと思います」とも。

 果たして柏戦は、今季最多の4ゴールを叩き出した攻撃だけでなく、今季4度目の無失点を記録したディフェンスも高いレベルで機能していた。ここまでリーグ2位の14ゴールをあげていた柏の攻撃陣が、物足りなく感じられたほどである。

 破格のスタートの要因を、ひとつやふたつに絞り込むのは難しい。複合的なものとしてとらえるべきだ。

 戦術的には「簡単に」がキーワードになる。

 簡単にボールを失わない。簡単にクロスを上げさせない。簡単にシュートを打たせない──ズデンコ・ベルデニック監督が就任直後から繰り返してきた「簡単に」という言葉には、基本的なプレーの精度を高めなければならないとのメッセージが込められていた。さらに加えて、ボールポゼッションを高め、攻守にアグレッシブにプレーし、主体的にゲームを進めていくための、土台作りでもあった。

 柏との違いも、「簡単に」に集約できる。マイボールを簡単に失わないから、カウンターへ結びつけられる。スローダウンをさせられても、攻撃の構築が可能になる。自陣で簡単にボールを奪われないから、ゲームをコントロールできる──スロベニア代表のノヴァコヴィッチとズラタンの2トップは大宮の強みだが、チーム全体が攻守において洗練されてきたのが何よりの変化だ。

 不敗記録が包み隠す変化の要因もある。

 清水との開幕戦は、65分までに2対0とリードを奪う展開だった。ところが、74分と84分に失点を喫し、勝点1を分け合うことになってしまう。

 3節の新潟戦も、後半アディショナルタイムの失点で1対1のドローに持ち込まれた。不敗記録を更新した一方で、清水戦に続いて勝点3を取り損ねた。

 きっかけをつかんだのは、翌4節の鹿島戦である。15分に先制点を許しながら、3対1とゲームを引っ繰り返した。続くFC東京戦では78分の得点を守りきり、1対0の勝利をつかむ。

 6節のC大阪戦では、数的不利を跳ね返した。1対1で迎えた64分に退場者を出しながら、85分にズラタンの芸術的なボレーで勝ち越した。浦和とのさいたまダービーとなった7節も、前半に奪った1点を守りきっている。

 J1で戦ってきた過去8シーズンは、「残留争い」の四文字がつねに付きまとった。それだけに、チームは冷静な空気に包まれている。「昨季まで降格争いをしていたチームだということを忘れてはいけない」とノヴァコヴィッチは話し、金澤も「まだはじまったばかりですから、気を引き締めて1試合ずつ戦っていかないと」と落ち着いた口ぶりで語る。

 率直に言ってこれまでの大宮は、試合内容ではなく不敗記録がクローズアップされてきた。だが、注目すべきはむしろこれからだろう。柏戦を「今季最高の出来」と評したズデンコ・ベルデニック監督は、「この時点で」と前置きをすることを忘れていない。