カープファンの“期待の星”堂林翔太に、かつてカープを初日本一に導いた江夏豊が聞く

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15年ぶりのAクラス、初のクライマックスシリーズ出場を狙う広島カープ。栗原、ニック、東出と故障者が相次ぐ打線を引っ張るのはプロ3年目、20歳の堂林翔太だ。ファンの期待を背負うスター候補を、かつてカープを初の日本一に導いた江夏氏が直撃!

■もっとやれる、という自信はある

江夏 まずはオールスター初出場、おめでとう。堂林は出るべき選手だと思っていたから、うれしく思っているよ。

堂林 ありがとうございます。自分でもすごく出たいと思っていたので、本当にうれしいです。

江夏 大いに目立ってくれることを期待しているよ。さて、あなたは高校時代、エースとして夏の甲子園で優勝したよね。カープに入ってすぐ野手に転向したわけだけど、自分の中で、ピッチャーで勝負したいという気持ちはあったのかな?

堂林 いえ、なかったです。もし大学や社会人野球に行ったとしてもピッチャーは……。

江夏 こりごりか?

堂林 はい(笑)。未練はないです。またピッチャーに戻りたい、と思ったことも一度もありません。

江夏 甲子園の日大文理高校との決勝戦、6点差の最終回に再登板したものの3つアウトが取れず降板した。あのみじめさが相当こた出た。どうだった?

堂林 一年中試合をやること、野手として出続けることの大変さを感じました。上のレベルの一軍で144試合フルに出ている人は相当きついんだろうな、と。

江夏 苦しくはなかった?

堂林 2年間、結果もあまりよくなかったので、正直、不安は多かったですね。

江夏 打つこと? 守ること?

堂林 両方です。

江夏 そうか。でも、今季は3年目で初めて一軍に上がって、開幕からゲームに出続けている。確かにエラーは多いし、三振も多い。けれど、打率、打点、ホームランは及第点以上だと思うよ。

堂林 去年の今頃は、1年後に一軍でこんな形でやれているなんて絶対に考えられなかったので、不思議な感じです。



江夏
 「野手としてやっていける」という、自信らしきものは?

堂林 それは5年、6年とレギュラーで結果を残し続けて、初めて言えることだと思います。自分の中ではまだまだです。



江夏
 こんなもんじゃない、と。数字の上で、もっといい成績を残せるという自信は?

堂林 もっとやれるんじゃないか、という意味での自信はあるかもしれないです。

江夏 よっしゃ。その自信は大いに持ってよ。不安だけじゃどうしようもないからな。ところで、去年の秋は内田二軍監督の指導を受け、金属バットを使う打撃練習に取り組んだそうだね。

堂林 はい。僕は詰まったときに振るのをやめてしまうクセがあったんです。金属バットなら多少詰まっても振り切れば飛んでいくので、その感覚を思い出すために取り入れていました。

江夏 そういう練習方法にしろ、技術論にしろ、諸先輩やOBから本当にいろいろなアドバイスを受けてきたと思うけど。

堂林 僕はいろんな方にアドバイスをいただいたとき、何が自分に合っているのか、まずは試してやってきました。

江夏 試してみて、合っていないものは自分で「切る」?

堂林 そうですね。逆に、これを続けたらよくなると思ったら、継続してやるようにしています。

江夏 皆、好意や親切心でアドバイスしてくれる。でも、だからといってそれを全部取り入れてしまうと頭がパニックになるよな。自分も現役時代には、指導されたらその場では「はい」と素直に聞いておいて、後で合わないと思えば切っていった。その判断が大事なんじゃないかな。

堂林 そう思います。

江夏 その姿勢は変わらずにいてもらいたいよね。

■引っ張っていくという気持ちでいきたい

江夏 あなたの打順は開幕から7番だったけれど、6月末から5番に上がった。打席の中で、考えることは変わった?

堂林 いえ、今はあくまでも5番目のバッターとして、同じような気持ちで打席に入っています。

江夏 じゃあ、普段から心がけていることは?

堂林 「積極的に振る」ことが自分の持ち味だと思っているので、打順が変わっても1年間、とにかくそれを心がけていこうと。

江夏 でも、点数やイニングなどの状況によってバッティング内容もいろいろあるよね?

堂林 そうですね。ノーアウト二塁でバントのサインが出ないときは右方向を意識しますし、ノーアウト三塁で内野の守備位置が後ろだったら、最低、内野ゴロでも1点入りますし。

江夏 内野ゴロでも1点だったら、三振が多いあなたも三振だけはしたくないよな(笑)。なんとかバットに当てたいというとき、「積極的に振る」というさっきの気持ちと、いろいろぶつかる部分はあると思うんだけど。

堂林 初球からガンガン振りたい……んですが、なんとか気持ちを抑えていきます(笑)。

江夏 うん、時には抑えることも必要だよね。今後また打順が変われば、求められるものが変わって、あなた自身も変わっていくかもしれないし。変わるといえば、守備面でもあなたは高校時代、マウンドという“高い所”から周りを見ていたじゃない? ところが、今はホットコーナーから見ている。野球観は変わった?

堂林 変わったというより、高校までの経験を生かして、ピッチャーに声をかけるように心がけています。自分がマウンドにいたときの気持ちを思い返して。



江夏
 ピッチャーの気持ちはよくわかっているわけだからね。間を置いてもらったり、ありがたいときはあるよね。

堂林 ピンチのときに声をかけられて、すごく勇気づけられたなあ、とか、たまに「来るなよ」って思うときもあるなあ、とか……(笑)。サードはピッチャーに近い位置にいるので、表情を見ながら「今は行っていいかな」と考えるようにしています。

江夏 なるほど。だったら先輩でも遠慮しないで、サードからどんどん声をかけてほしい。それが主力選手の仕事だからね。

堂林 はい、心がけていきます。

江夏 サードといえば、オールスターではあなたと巨人・坂本(勇人)の三遊間コンビを見られたらいいね。これからの日本のプロ野球の中心になる、象徴的なふたりだと思うから。

堂林 そんなふうに言っていただけて、本当に光栄です。

江夏 それと、この14年間、Bクラスに低迷するカープだよな。あなたがオールスターに毎年出るような選手になって、明るいカープをつくってもらいたいと思う。そもそも、あなたは愛知県出身で、広島という町になじみはなかったと思うんだけれど。

堂林 それまでは来たこともなかったです。でも、早くからスカウトの方が自分を見に来てくださっていて、いちばん行きたい球団だったので。

江夏 じゃあ、ここに来たことは間違っていなかった?

堂林 はい。本当によかったと思っています。

江夏 じゃあ最後に、野球人としてのこれからの抱負を聞きたい。

堂林 今年一年はケガなく、144試合出ることを目標に、チームに貢献したいです。今は栗原さん、東出さんがケガをされていて、僕にとってはずっと教えていただいた方だけに心細いんですが、逆にそれを機に、自分が引っ張っていくんだという強い気持ちを持っていければいいと思っています。

江夏 その気持ちを絶えず持って戦ってよ。144試合というのは大変な長丁場だから、「よし、いこう」と思えるときもあれば、めげるときもあると思うけど、ぜひ頑張って。心から応援しているよ。今日はありがとう。

堂林 ありがとうございました!

(構成/高橋安幸 撮影/五十嵐和博)

●堂林翔太(どうばやし・しょうた)

1991年生まれ、愛知県出身。183cm、81kg、右投げ右打ち。中京大中京高校では1年からベンチ入りし、3年時はエース・4番打者として春のセンバツ大会ベスト8、夏の選手権大会優勝に大きく貢献。09年秋、ドラフト2位で広島入り後は野手一本。2年間ファームで鍛えられ、3年目の今季、開幕スタメンでデビュー

●江夏 豊(えなつ・ゆたか)

1948年生まれ、兵庫県出身。阪神、南海、広島、日本ハム、西武で投手として活躍。シーズン401奪三振、オールスター9者連続奪三振などの記録を持つ。チーム初の日本一を達成した広島時代の79年の日本シリーズ、「江夏の21球」は球史に残る名場面。通算206勝158敗193セーブ。現在は野球評論家