NECがついに社員の給料カットという「禁じ手」に踏み込んだ。4月から12月までの9カ月間、一般社員の給料を一律4%削減すると組合に申し入れたのである。関係者は「最終的には経営側が押し切る公算が強い」と語る。

 パナソニック、ソニー、シャープなどの大手電機メーカーは過去最大の赤字を垂れ流しているが、組合に社員の給料カットを申し入れたのはNECだけ。いかに同社が綱渡りの経営を強いられているかを物語る。
 その“被害”は一般社員にとどまらない。管理職も4月以降は給料の5〜7%がカットされる。結果、一般社員分と合わせると、年間100億円規模の人件費が削減できるという。
 それだけではない。1月末に発表した1万人の人員削減策を加えると、圧縮効果は実に年間400億円超に達する。しかも同社は3年前に2万人規模の人減らしを行ったばかり。最大の財産である人材に相次いで手をつけた揚げ句、給料カットの駄目押しとあっては、経営責任が嫌でも問われてくる。

 むろん、背景にあるのは業績の悪化だ。今年の3月期、NECは円高やタイの洪水被害などの影響もあって1000億円の最終赤字に陥る見通し(昨年3月期は125億円の赤字)。成長事業が見当たらない中、事業の切り離しを進めたこともあって、一時は5兆4000億円もあった連結売上高は、今年3月期に3兆1000億円まで縮小する。
 「1月の人減らし策発表の際、遠藤信博社長は『売上高が3兆円でも着実に利益が出せるコスト構造にする』とブチ上げたのですが、その回答が生活を直撃する給料カットでは、社員の士気に影響大です。実際、会社の将来に対する不安を見透かしたかのように、優秀な人材には国内外の企業からヘッドハンティングの声がかかっており、社内は疑心暗鬼が渦巻いています」(経済記者)

 これには伏線がある。1万人削減策発表の直前、NECでは残業と出張の禁止令が出た。経費削減の一環とはいえ、そこへ2009年に続く体のいい“肩たたき”である。今回の給料カットを「更なる大型リストラの前兆」と受け止めた社員が浮き足立ったとしても不思議ではない。前出の経済記者が苦笑する。
 「何せバブル崩壊で各社が悲鳴を上げた1992年、NECはボーナスの一部を現物支給して物議をかもしたことがある。対象はパソコンや携帯電話などの自社製品ですが、大半の社員は既に保有しているため『煮え湯を飲まされた』が本音でした。それでも蛙の面に何とやらを決め込んだNECのこと、会社存亡のためなら平気で社員を踏み台にしてきたのが実情です。だからこそ優秀な社員ほど『この先、どんな手法に打って出るかわからない』と身構えているのです」