時代が喪失しているものの中で1つ大事なもの挙げるとすれば、それは「健(すこ)やかさ」だ。「健やかさ」などという普遍的だが退屈な価値で注目・支持を集めるのはラクな仕事ではないが、爛熟から凋落のコースを変えるには不可欠ものだ。

 アメリカのロックバンド、イーグルスを率いたドン・ヘンリーは、時代を見る目を持って、「喪失」を見事に歌うミュージシャンだったように思う。

 『ホテル・カリフォルニア』の中に出てくる有名な一節───
  “We haven't had that spirit here since nineteen sixty nine.”
  (支配人に自分の好みのワインを注文するのだが…)
  「あいにくそのようなお酒(精神)は1969年以降ご用意しておりません」。

 ここに出てくる「spirit(スピリット)」は、「酒」と「魂・精神」との掛け言葉になっている。伝説のウッドストックコンサート開催に象徴される1969年以降、アメリカは爛熟した物質文明・商業主義の中で、何か大事な魂(スピリット)を失ってしまった───そんな憂いを彼はこの歌詞の裏に込めた。
 また、ドン・ヘンリーは、引き続き1990年にブルース・ホンズビーとの共作による『The End of the Innocence』でもグラミー賞を受賞した。「イノセンス=無邪気さ・無垢であること」の終わりを歌ったこの曲は、やはり時代に対するメッセージ性を感じさせる。

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 さて、時代が喪失しているものはさまざま指摘できるだろうが、私がその中で1つ挙げるとすれば、それは「健(すこ)やかさ」だ。私がここで言う「健やかさ」とは、次のような意味合いである。

  ○生き生きと強いこと
  ○素直であること
  ○明るく開けていること
  ○善的なことに向かっていること
  ○自然と調和していること


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