欧州のスタンダードとなった日本人助っ人の躍動が日本代表の未来を明るく照らし出す
こうして終わりが近づいてくると、特別なシーズンだったという印象が強い。ヨーロッパでプレーする日本人選手について、である。
内田篤人はシャルケでレギュラーをつかみ、チャンピオンズリーグでベスト4まで登り詰めた。4強入りが彼ひとりの功績ではないとしても、内田が持ち味を発揮したのは間違いない。移籍1年目の外国人選手として、クラブ側の期待には十分に応えたはずだ。
長友佑都の進歩も目ざましい。
セリエAで5連覇を達成していたインテルは、日本人選手がかつて到達したことのない最高峰のクラブと言っていい。新旧の各国代表クラスがしのぎを削るなかで信頼をつかみ、チームに貢献していったのは高く評価できる。
1月のアジアカップ優勝決定直後、つまりインテルへの電撃移籍が決まる数日前に、長友は「目標は世界一のサイドバック。これからもレベルアップしていきたい」と話していた。目ざす高見は彼方でも、着実に前進しているのは頼もしい限りだ。ディフェンスに対する要求が厳しくて細かいイタリアで、サイドバックとして評価されているのは、彼のクオリティの高さを裏付ける。
シーズン終盤に話題を集めたのが内田と長友なら、シーズン序盤の主役は香川真司である。ドルトムントの9シーズンぶりのリーグ制覇に、この背番号23は欠かせなかった。
冬の移籍マーケットでヨーロッパへ新天地を求めた岡崎慎司は、リーグ戦の残り2試合で連続ゴールをあげた。残留を呼び込む初得点は価値あるものだったが、その前提として先発メンバーから外れなかったことを、まずは評価すべきだろう。
シーズン前のキャンプという助走なしに合流した彼には、チームメートの特徴を理解する時間も、自分の良さを知ってもらう時間もなかった。ピッチ上で問題を解決しながら引き寄せた二つのゴールには、数字以上の重みがあると思うのだ。
彼らだけでない。長谷部誠も、川島永嗣も、吉田麻也も、阿部勇樹も、宮市亮も……全員の名前を書き出すのはボリュームが多すぎるので避けるし、名前を挙げた、挙げないに大意もないが、これだけ多くの日本人選手が、これだけコンスタントに出場している現状を、とにもかくにも歓迎したい。
長友のインテルが30日にコッパ・イタリアを獲得すれば、内田と本田圭佑に次ぐタイトル獲得となる。3人の選手がカップを掲げれば、小野伸二のフェイエノールトがUEFAカップを、中田英寿のパルマがコッパ・イタリアを、稲本潤一のアーセナルがリーグ優勝とFAカップを制した2001−02シーズンに次ぐものだ(ロシアは秋春制ではないので、同一時期にタイトルをつかんだという断りは必要だが)。
ヨーロッパのサッカー市場において、「日本人にできるのか」という偏見は薄れていると感じる。ただ、「日本人にもできる」ところをしっかりと見せつけ、同時に「外国人選手として存在する必然性」を表現しなければ、ピッチに立ち続けることはできない。Jリーグの前所属先で定位置をつかんでいた彼らにとって、日々のトレーニングから激しい競争が繰り広げられる環境は、タフでありつつも刺激的なのだろう。
年齢への甘さも排除される。大学卒の22歳に(あるいは23歳や24歳でも)ルーキーという言葉が使われる日本では、25歳あたりまでは「若手」という認識が残る。選手が望んでないとしても、年齢だけで周囲が要求を下げてしまうところがある。勝敗に対する責任を背負わされることは例外的だ。
ヨーロッパは違う。10代後半の選手が続々と登場し、彼らにも厳しい視線が浴びせられる環境では、20代前半でもあらゆる面での自覚と責任が求められる。年上の先輩を追いかけるのではなく、追いかけられている意識が植えつけられ、それがまた危機感を煽る。成長を促す。好循環のサイクルが生まれていくのだ。
コパ・アメリカ出場はならなかったが、所属クラブでそれぞれに奮闘した海外組の存在は、日本代表の未来を明るく照らし出す。代表の強化スケジュールが少しぐらい圧縮されても、それを補えるだけの蓄積と経験が、日本代表というチームへ落とし込まれていくはずだ。
6月のキリンカップは、長いシーズンを終えた疲労、達成感、安堵感といったものを引きずってのゲームとなる。フィジカルもメンタルも、シーズン中とは異なる。そうしたなかで、どこまでクオリティを維持できるのか。9月にも開幕するワールドカップ3次予選を見据える意味でも、海外組のプレーを注視したいと思う。シーズンオフだからといって、彼らへの要求を下げることはなしに。
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内田篤人はシャルケでレギュラーをつかみ、チャンピオンズリーグでベスト4まで登り詰めた。4強入りが彼ひとりの功績ではないとしても、内田が持ち味を発揮したのは間違いない。移籍1年目の外国人選手として、クラブ側の期待には十分に応えたはずだ。
長友佑都の進歩も目ざましい。
1月のアジアカップ優勝決定直後、つまりインテルへの電撃移籍が決まる数日前に、長友は「目標は世界一のサイドバック。これからもレベルアップしていきたい」と話していた。目ざす高見は彼方でも、着実に前進しているのは頼もしい限りだ。ディフェンスに対する要求が厳しくて細かいイタリアで、サイドバックとして評価されているのは、彼のクオリティの高さを裏付ける。
シーズン終盤に話題を集めたのが内田と長友なら、シーズン序盤の主役は香川真司である。ドルトムントの9シーズンぶりのリーグ制覇に、この背番号23は欠かせなかった。
冬の移籍マーケットでヨーロッパへ新天地を求めた岡崎慎司は、リーグ戦の残り2試合で連続ゴールをあげた。残留を呼び込む初得点は価値あるものだったが、その前提として先発メンバーから外れなかったことを、まずは評価すべきだろう。
シーズン前のキャンプという助走なしに合流した彼には、チームメートの特徴を理解する時間も、自分の良さを知ってもらう時間もなかった。ピッチ上で問題を解決しながら引き寄せた二つのゴールには、数字以上の重みがあると思うのだ。
彼らだけでない。長谷部誠も、川島永嗣も、吉田麻也も、阿部勇樹も、宮市亮も……全員の名前を書き出すのはボリュームが多すぎるので避けるし、名前を挙げた、挙げないに大意もないが、これだけ多くの日本人選手が、これだけコンスタントに出場している現状を、とにもかくにも歓迎したい。
長友のインテルが30日にコッパ・イタリアを獲得すれば、内田と本田圭佑に次ぐタイトル獲得となる。3人の選手がカップを掲げれば、小野伸二のフェイエノールトがUEFAカップを、中田英寿のパルマがコッパ・イタリアを、稲本潤一のアーセナルがリーグ優勝とFAカップを制した2001−02シーズンに次ぐものだ(ロシアは秋春制ではないので、同一時期にタイトルをつかんだという断りは必要だが)。
ヨーロッパのサッカー市場において、「日本人にできるのか」という偏見は薄れていると感じる。ただ、「日本人にもできる」ところをしっかりと見せつけ、同時に「外国人選手として存在する必然性」を表現しなければ、ピッチに立ち続けることはできない。Jリーグの前所属先で定位置をつかんでいた彼らにとって、日々のトレーニングから激しい競争が繰り広げられる環境は、タフでありつつも刺激的なのだろう。
年齢への甘さも排除される。大学卒の22歳に(あるいは23歳や24歳でも)ルーキーという言葉が使われる日本では、25歳あたりまでは「若手」という認識が残る。選手が望んでないとしても、年齢だけで周囲が要求を下げてしまうところがある。勝敗に対する責任を背負わされることは例外的だ。
ヨーロッパは違う。10代後半の選手が続々と登場し、彼らにも厳しい視線が浴びせられる環境では、20代前半でもあらゆる面での自覚と責任が求められる。年上の先輩を追いかけるのではなく、追いかけられている意識が植えつけられ、それがまた危機感を煽る。成長を促す。好循環のサイクルが生まれていくのだ。
コパ・アメリカ出場はならなかったが、所属クラブでそれぞれに奮闘した海外組の存在は、日本代表の未来を明るく照らし出す。代表の強化スケジュールが少しぐらい圧縮されても、それを補えるだけの蓄積と経験が、日本代表というチームへ落とし込まれていくはずだ。
6月のキリンカップは、長いシーズンを終えた疲労、達成感、安堵感といったものを引きずってのゲームとなる。フィジカルもメンタルも、シーズン中とは異なる。そうしたなかで、どこまでクオリティを維持できるのか。9月にも開幕するワールドカップ3次予選を見据える意味でも、海外組のプレーを注視したいと思う。シーズンオフだからといって、彼らへの要求を下げることはなしに。
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【戸塚啓 @kei166】1968年生まれ。サッカー専門誌を経て、フランス・ワールドカップ後の98年秋からフリーに。ワールドカップは4大会連続で取材。日本代表の 国際Aマッチは91年から取材し、2000年3月から189試合連続で取材中。2002年より大宮アルディージャ公式ライターとしても活動。著書には 『マリーシア(駆け引き)が日本のサッカーを強くする(光文社新書)』、『世界に一つだけの日本サッカー──日本サッカー改造論』(出版芸術社)、『新・ サッカー戦術論』(成美堂出版)、『覚醒せよ、日本人ストライカーたち』(朝日新聞出版)などがある。昨年12月に最新著書『世界基準サッカーの戦術と技術』(新星出版社)が発売。『戸塚啓のトツカ系サッカー』ライブドアより月500円で配信中!