【山村 佳子】「お父さんと別れてほしい」娘から言われた48歳女性が「自転車事故」で離婚を考えた理由
自転車の酒気帯び運転やながら運転の罰則が強化
2024年11月1日、道路交通法が改正され、自転車の「酒気帯び運転」と、自転車運転中にスマートフォン等を使用する「ながら運転」(「ながらスマホ」)の罰則が強化された。
これまでは自転車の「酒気帯び運転」は罰則の対象外だったが、「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」になった。
この背景には、自転車関連事故が2021年以降、増え続けていることがある。『令和6年版 警察白書』によると、全交通事故に占める割合は2割を超えていることがわかる。
キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さんは「機動力があり、行動の履歴がつきにくい自転車は、浮気によく使われます。自転車事故から浮気が発覚することもよくあります」と言う。
山村さんに依頼がくる相談の多くは「時代」を反映している。同じような悩みを抱える方々への問題解決のヒントも多くあるはずだ。個人が特定されないように配慮をしながら、家族の問題を浮き上がらせる連載が「探偵が見た家族の肖像」だ。
今回山村さんのところに相談に来たのは、48歳の会社員・真穂さん(仮名)だ。「夫が先日、自転車事故で、大ケガしました。縁もゆかりもない場所で、事故るのは絶対におかしい」と山村さんに連絡をしてきた。一体何があっただろうか……。
山村佳子(やまむら・よしこ)私立探偵、夫婦カウンセラー。JADP認定 メンタル心理アドバイザー JADP認定 夫婦カウンセラー。神奈川県横浜市で生まれ育つ。フェリス女学院大学在学中から、探偵の仕事を開始。卒業後は化粧品メーカーなどに勤務。2013年に5年間の修行を経て、リッツ横浜探偵社を設立。豊富な調査とカウンセリング経験を持つ探偵として注目を集める。テレビやWEB連載など様々なメディアで活躍している。
離婚を前提とした調査依頼?
今回の依頼者・真穂さんから、「今、夫は浮気をしているみたいです。今、証拠を押さえれば、離婚の条件が良くなると思うんです」と電話で問い合わせがありました。すぐにカウンセリングルームに来られると言い、その日のうちに面談をすることに。
真穂さんは外資系企業に勤務するハイキャリア女性です。ショートカットで背が高く、すらっと背筋が伸びており、全身から自信があふれています。夫婦関係について伺うと「こんなはずじゃなかったんです」と表情が暗くなり沈黙。涙ながらに夫婦関係について語りはじめました。
「夫と私は大学の入学式で知り合ったので、18歳の頃からの付き合いです。ずっと友達だったのですが、お互いが27歳の時に交際が始まりました。すぐに私は妊娠し、授かり婚をしたのです。結婚の翌年に生まれた娘が、先日20歳になりました」
夫は新卒時から大手広告代理店に勤務していましたが、コロナ禍を機に「自分が本当にやりたいことで生きて行きたい」と退職。2年前に自宅から1キロのところに、飲食店を開業。開業資金は、医院を経営していた、夫の父親の遺産だそうです。
「夫は社交的で、才覚もある。計画的で賢いから店の経営はうまくいっているようです。ただ、店を始めるということは、地域に密着することでもある。他の店との付き合いなどで時間が取られることと、どこにいても“あの店のマスター”と思われるのは、想定外だったようです」
外面のいい反面、飲むと殴り合いの喧嘩に
夫は人当たりが良く、いつも礼儀正しく笑顔の好人物を演じているところがあるそう。会社員時代は「会社の看板」がある時だけ、優秀でいい人を演じていれば良かった。しかし、店を始めれば「自分が看板」になる。自宅の近くに店があるので、どこにいっても知り合いに遭遇し、他人の目があるストレスにさらされているそうです。
「私も夫もお酒が好きで、毎晩のように晩酌していました。酒が入ると夫婦関係が険悪になっていたのですが、管理職になった30代後半からそれがひどくなった。夫は外面がいいから、めっちゃストレスが溜まっているんでしょうね。私に飲みながら難癖をつけて、ケンカをふっかけるようになったんです」
家庭という密室の中では、自由奔放に振る舞える。タガが外れセーブがきか亡くなり、酒や暴力に走る人は少なくありません。
「そうなんです。仕事や政治についての議論に発展し、私に言い負かされると、私に暴力を振るう。私も負けないから返り討ちにし、その物音で通報されたことがあります」
夫婦で酒に酔い、議論した挙句、取っ組み合いのケンカをする……エネルギーが有り余っているようにも感じてしまいます。
「手を出してくるのは夫なんです。私の頭や顔を平手打ちして、私がキレて物を投げつけていました。ケンカに疲れて寝て起きると、リビングにものが散乱し、高価なワインを叩き割った跡がある。“なんでこんなことをしたんだ”と思うことも多々ありました」
「お父さんと別れてほしい」
娘は両親の喧嘩を見るのが嫌で、小中学生の頃は、近くにある真穂さんの実家に泊まりに行っていたそうです。高校は全寮制の学校を選び、現在は海外に留学中とのこと。
「娘からは、“お父さんと別れてほしい”と言われ続けています。娘から見ても、夫の方が悪いんですよ。中学時代、学校の先生に相談したのですが、“あんないいお父さんがそんなことするわけがない”と嘘つき呼ばわりされたと泣いて帰ってきました。夫って、本当に外面がいいんですよ」
そのとき、娘の涙を見て、離婚を考えたそうですが、それでも真穂さんが離婚しなかったのは、夫を愛しているから。
「あんな人の面倒を見られるのは私しかいませんし、私も働いているとはいえ、海外留学している娘の学費を全額賄うのは難しい。でもやっぱり、夫の離婚が考えられなかったのは、彼が浮気をしないから。一応、イケオジでモテるんですが、なんだかんだ言って、私をいちばん愛してくれている。でも、先日、縁もゆかりもない、うちから10キロ以上離れた場所で、自転車で事故に遭い救急搬送されたんです」
ありえない場所での「自転車事故」
事故は、単なる転倒で被害者はいません。ただ、腕を骨折し、運悪くあったガラスの破片で10針以上縫ったそう。処置が終わった明け方、タクシーで帰宅します。
「ウチの周りは総合病院が結構あるのに、あんなところの病院に運ばれるのはおかしい。そこで、なんとなく、女性の家に行っているんじゃないかなとピンときたんです」
その前から、電動自転車のバッテリーを頻繁に充電していることに気づいていたそうです。
「夫の店は、深夜1時に閉店になります。店は家から1キロの場所にあり、夫は客と酒を飲むことがあるので、半年前まで自転車には乗っていなかった。それなのに、最近は使っている形跡がある。それに、自転車を使い始めてから、機嫌が良くなって私にケンカを吹っかけてくることも減りました」
夫の写真を見せていただくと、48歳とは思えないほどの童顔で、スラリとした体型をしている。元々、サッカーをしており、体幹がしっかりしていることがわかります。
「英語もフランス語も話せるし、いろんなことに詳しくて、楽しい人なんです。まあ、そういう自分を演じているのかもしれませんが、いい人なんですよ。でも、他の女性を愛しているなら、離婚ですね。私への裏切りですから」
真穂さんの様子から、「本当は暴力を振るう人とは別れたい」という本音が見え隠れしました。DVの加害者・被害者にありがちな依存関係も垣間見える。真穂さんは浮気の証拠を取り、離婚の意思を固めたいのではないかと直感し、調査に入りました。
◇自転車は機動性が高い。事故によって何が明らかになるのだろうか。
調査の結果は後編「20歳の娘が離婚を勧める「対外的には理想の家族」自転車事故から暴かれた驚愕の真実」にて詳しくお届けする。