田町〜高輪ゲートウェイ間でJR東海道線をまたぐ札の辻橋から「高輪ゲートウェイシティ」を遠望(左側2棟)。札の辻橋下部は東海道新幹線、東海道線などがひっきりなしに行き交います(筆者撮影)

JR東日本が2024年10月30日、東京都港区のグランドプリンスホテル高輪で開催した「TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)まちびらき150日前記者発表会」。喜勢陽一社長が自ら壇上に上がり、環境に配慮しながら企業を成長させる「地球益」という若干振りかぶった造語も交え、JR東日本のまちづくりへの意気込みを語りました。

喜勢JR東日本社長(右)と内田まほろJR東日本文化創造財団モンタカナワ開館準備室長(左)のフォトセッションではロボットが介添え役を務めました(筆者撮影)

山手線・京浜東北線高輪ゲートウェイ駅に直結する、高輪ゲートウェイシティのアウトラインは本サイトをはじめ多くのメディアで報じられますが、本コラムはもう一段の深読み。JR東日本がゲートウェイシティに託す思いを探りました。

(高輪ゲートウェイシティ関連では、文化創造棟と商業施設「ニュウマン高輪」を、それぞれ別稿ニュースで紹介します。ぜひご併読ください)

トップバッター「複合棟1」が2025年3月開業

最初に基本をおさらい。少し前まで山手線や京浜東北線の田町と品川の間に大きな車両基地が見えました。「田町電車区」で、開設は戦前の1930年です。

1987年の国鉄改革で、JR東日本に移管。車両基地を、都心一等地に置く必然性はない。基地を集約して、跡地を再開発する。それが高輪ゲートウェイシティの成り立ちです。JR東日本は2020年3月、田町〜品川間に新駅「高輪ゲートウェイ」を開業しました。

ゲートウェイシティに建設されるのは、複合棟1(NORTH、SOUTH)、複合棟2、文化創造棟、住宅棟の4棟(複合棟1はツインタワーで、5棟という見方もできます)。

ゲートウェイ最初の施設として、もっとも南側(品川寄り)で高輪ゲートウェイ駅に直結する、複合棟1「THE LINKPILLAR(ザ・リンクピラー)1」の開業日が2025年3月27日に決まりました。

リンクピラーは、「Link(つなぐ。リンクする)」と「Pillar(柱)」からの造語。「豊かな生活につながる支柱」を表します。

リンクピラー1は延べ床約46万平方メートルで、29階建て(NORTH)と30階建て(SOUTH)。オフィス、ホテル、ショップ、コンベンション・カンファレンス(ホール、会議場)などが入居します。

開業にあわせ、高輪ゲートウェイ駅は南側に新改札口が誕生。今後、JR線をまたいで駅東側への連絡通路が設けられます。リンクピラー2をはじめとする施設開業は、2026年春を予定します。

高輪ゲートウェイ駅周辺のスポットは「高輪ゲートウェイ駅」!?

鉄道会社の地域開発は多くの場合、ターミナル駅が対象。その点、ゲートウェイシティは異例。高輪ゲートウェイ駅に停車するのは、山手線と京浜東北線の各駅停車です(京浜東北線の日中時間帯は快速運転ですが)。近隣ターミナルの品川からは約900メートルあります。

余談ながら、「ゲートウェイシティ周辺スポット」をネット検索すると、最初にヒットするのが「高輪ゲートウェイ駅」という冗談のような本当の話。旧東海道沿いの高輪には、誰もが知る有名スポットはありません。

JR東日本の戦略。少々かみ砕いて表現すれば、スポット検索でゲートウェイシティのオフィス、ホテル、ショップなどが上位表示されるようにすることです。

お手本は大崎駅に

JR東日本の配布資料に、「(高輪ゲートウェイ駅は)街区完成時点で1日想定乗車人員13万人」の記述がありました。

JR東日本で乗車人員1日13万人の駅を探したら、「大崎(13万5000人。データはいずれも2023年度)」、「浜松町(12万7000人)」、「中野(12万6000人)」などが見付かりました。

先例になりそうなのが⼤崎駅。⼀昔前の⼤崎は、それほどにぎやかな駅ではありませんでしたが、2000年代に再開発が進み、地域住⺠やビジネスマンで活気あふれる駅に変⾝を遂げました。考えてみれば、大崎は品川にも、東京(駅)にも、渋谷にも、新宿にも、横浜にも、お台場にも乗り換えなしで行ける便利な駅です。

にぎわい生み出した「六本木ヒルズ」と「東京ミッドタウン」

さらに考えをめぐらせ、参考になりそうな東京のまちづくりを思い起こしました。

一つ目は「六本木ヒルズ」。江戸時代の毛利庭園跡には戦後、テレビ局本社などが置かれましたが、1990年代後半から再開発がスタート。2003年に54階建て「六本木ヒルズ森タワー」が開業して、年間来街者4000万人を数える人気スポットになりました。

六本木ヒルズの成功は、虎ノ門ヒルズ、麻布台ヒルズなどに引き継がれます。

もう一つは、同じ六本木で恐縮ですが「東京ミッドタウン」。こちらも江戸時代の毛利家下屋敷から防衛庁庁舎を経て、2007年にミッドタウンが開業。こちらは来街者数年間3000万人を数えます。

オフィス、ホテル、ショップ、コンベンション・コンファレンスによるまちづくりは、高輪ゲートウェイシティに共通します。

協業で実現する「地球益」

にぎわいあふれるまちへの成長は、JR東日本単独では不可能(ではないと思いますが、時間がかかります)。

マルハニチロ、明治安田生命保険、TOPPAN(旧社名・凸版印刷)、伊藤園(以上ビジネス創造)、東京大学(スタートアップ育成)、KDDI(モビリティ)……。

JR東日本は100社(者)を超す企業や研究機関との協業で、「イノベーション(社会変革)や文化を発信する場」(喜勢社長)としてゲートウェイシティを機能させます。

これらを総称するキーワードが「地球益」。高い負荷で成り立つ現代型の経済活動を再考、地球と人間を調和させながら企業の成長も実現します。

JR東日本が描く「地球益」のイメージ。環境、健康、モビリティといった現代社会が抱える課題解決をゲートウェイシティから目指します(資料:JR東日本)

高輪築堤を走る1号機関車をAR技術で再現

最後に、鉄道ファン目線でワンポイント。ゲートウェイシティーがあるのは、日本最初の鉄道が走った高輪築堤の跡地というのは、皆さまよくご存じでしょう。

明治の汽笛一声のにぎわいを感じさせる鉄道錦絵「東京品川海辺蒸気車鉄道之真景」(鉄道博物館所蔵。画像:JR東日本)

ゲートウェイシティーでは、AR(拡張現実)技術を駆使して、築堤が日本の鉄道史にもたらした効能を顕彰。2026年春に開業予定エリアでは、線路下を船が行き来した橋りょう部を復元して公開。鉄道開業のころを振り返るギャラリー開設も予告されます

バーチャルに迫る1号機関車。AR技術を駆使した鉄道車両の再現は2024年10月開催の「CEATEC(シーテック)」でも注目を集めました(画像はJR東日本のプロモーション動画から)

JR東日本は、もちろん鉄道ファンのゲートウェイシティ訪問も歓迎します。キャッチフレーズは「100年先の心豊かなくらしのための実験場」。JR東日本史上最大の複合開発は、5か月後に最初の扉を開けます。

高輪ゲートシティ駅周辺は高層ビル建設がラストスパート。駅前の道路から線路はほぼ見えません(筆者撮影)

記事:上里夏生