イマイチ自信が持てない人には「謙虚ぐせ」がついているという(写真:mits/PIXTA)

「自分の強みがわからない」「何の才能もない」と悩んでいる人は多いと思いますが、一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事の有山徹氏によれば、その人の強みや価値は、じつは「誰と働くか」によって変わってくるものだそうです。また有山氏は、自分自身を客観視できず、イマイチ自信が持てない人には共通する「クセ」があるとも指摘します。

自分の強みや価値を客観視できるようになるために治したい「クセ」とはどんなものなのでしょうか。有山氏の著書『なぜ働く? 誰と働く? いつまで働く? 限られた人生で後悔ない仕事をするための20の心得』から、一部を抜粋・編集して紹介します。

「客観的な価値」は自分では意外と気づかない

「自分の強みがわからない」

「何の才能もない」

そんなふうに悩む人はたくさんいますが、とても普通のことだと思います。

私だって同じです。すごく経営のセンスがあるとか、キャリア相談の圧倒的な才能があるとか、自分ではあまりそう思えるものではありません。でも、自分がやっていることや提供していることには「価値がある」と、信じています。

キャリアを考えるうえでは、突出した才能やセンスを持っていることよりも、あなたが少しずつ蓄積してきた知識やスキルを、「誰と働くか」という関係性の中で、価値化することのほうがよほど大事だと思います。

たとえば、会社に勤めている人だと、こんなことがありませんか?

ある営業職の人が外回りから帰ってきて、オフィスで働く事務職の人と話をしています。

「お願いしていたエクセルのリスト、できてます? あ、すごい! 私には絶対できないですよ。ありがとうございます」

「いや、誰だって時間があればできますよ」

「そうかもしれないですけど、それが私にはなかなかできないんですよね」

「確かにね。逆に私は毎日外で知らない人と話すなんて、とてもできないですから」

いわゆる向き不向きというやつで、ごく普通の関係だと思います。この営業職の人に強みを聞いたとしても、「いや、特にない」と答えるかもしれません。同じく事務職の人も「特別な才能はない」と言うかもしれません。でも客観的に見れば、それぞれがこの関係性の中で価値を提供しているとわかりますよね。

「誰と働くか」で変わるあなたの価値

なんだか当たり前の話に聞こえると思います。でも実は、キャリアとか人生を考える場面になると、意外と「誰と働くか」を見落としてしまいます。「自分は営業をずっとやってきたから営業はできるけど、営業として特別にすごいかというとそうでもない」というように、自分の能力や実績だけに着目してしまうのです。

そうではなくて、誰と働くかによって価値は変わると考えてみてください。一緒に働く人との関係性が価値を作るのです。

こんなケースを耳にしたことはありませんか? 「指示が明確な上司のもとだと、パフォーマンスが出せた社員が、配置換えで丸投げの上司の下に行ったら、パフォーマンスが出せなかった」というのです。仕事のパフォーマンスを発揮するのに、人との関係性が大きく影響していることがわかります。

スタジオジブリの宮崎駿監督と、プロデューサーの鈴木敏夫さんの関係を見ていると、まさに黄金コンビのように思えますよね。

職人気質で徹底的にクオリティを追求する宮崎監督と、その才能を十二分に発揮させながら、ビジネスとして成立させていく鈴木プロデューサー。どちらが欠けたとしても、世界的な名作を生み出し続けることはできなかったでしょう。

歴史上の例でいえば、新選組もタイプの違う2人が組んだことで、動乱の幕末を揺り動かす存在になっていったといえるかもしれません。

個人のキャラクターは小説などで脚色されているとはいえ、トップとして大きく構える局長近藤勇に対し、現実的かつ実務的な面は副長土方歳三が取り仕切っていきました。2人が異なる役割を果たすことで、激動の世の中において、寄せ集めの集団でしかなかった新選組の存在を、大きくしていったのでしょう。

創作の世界での名コンビといえば、名探偵シャーロック・ホームズと相棒のジョン・ワトソンでしょうか。

頭脳明晰でどんな難事件も見事に解決するホームズですが、性格面ではやや難のある人物。そのホームズをよく理解し、まわりとの関係を上手に取り持っているのがワトソンです。ホームズの勝手ぶりにいつも翻弄されるワトソンですが、2人のタッグがあってこその物語として描かれているところに魅力があります。

誰と働くか、特に上司は選べないことがほとんどです。しかし、自分がどういう環境になればパフォーマンスを発揮しやすいかがわかっていれば、「指示がほしい」「自由にやらせてほしい」などの方針を示すと理解してもらえるかもしれません。

自分の特性について伝えてみると、上司もやり方を変えてくれる可能性があります。そういう意味では、価値は自ら働きかけることによって高めることも可能です。

自信が持てない人に共通する「謙虚ぐせ」

もう1つ、イマイチ自信が持てない人に共通するのが、謙虚ぐせがついていることです。自信が持てていないときは、いくら人にほめられても、つい「いやいや、そんなに特別なことじゃない」とか「もっとすごい人はいくらでもいる」などと考えてしまいがちです。

私も「有山さんって話が上手ですね」などと言われることがあります。私は小さい頃から人前で話をすることが大の苦手で、小学校の学芸会では一番セリフが少ない役を選んでいたほどでしたから、とても意外でした。自分では低いレベルだと思っていますが、話が上手と言われたことで、「あ、自分ってそうなんだ」と再発見することができました。ただ、そんなふうに思えない人もかなり多いのではないでしょうか。

たとえ嬉しくても、真っ正直に「そうなんです、私はすごいんです!」とは言いにくいですし、そもそも本当に自分は大したことがないと思っているわけですね。

謙虚であることは美徳です。度が過ぎると嫌味に感じられることがありますが、基本的には、傲慢な人よりも謙虚な人のほうが人当たりは良いとされています。日本人の感性だと、なおさらでしょう。

ただ、一方で「もっと自信を持て」と言われることもあります。自信のなさはマイナスに捉えられてしまうこともあるからです。

ビジネスはもちろん、スポーツでもそれは顕著です。サッカーの本田圭佑選手はその独特のワードセンスが人気です。自信をみなぎらせた発言はときに「ビッグマウス」とも形容されましたが、本田選手ほど実力があり、有言実行する姿は、とても輝いて見えます。やはり自信がなければ、厳しい勝負の世界で勝つことは難しいのでしょう。

そう思うと自信がなさすぎるのも考えものですが、なかなかあのメンタルは真似できるものではありません。

自信を持とうとか、素直になろうとか、自分の心や感情を変えようとしてもうまくいきません。「自分はすごいんだと思え」と言われたって無理ですよね。ですからまずは、自分の「価値」というふうに客観視して、「誰と」という他者との関係性に目を向けてみましょう。

自分を素直に価値化できる人が返すひと言

謙虚なのはいいことでも、そればかりだと謙虚ぐせがついて、どんどん自分を過小評価してしまいがちです。かといって自信満々に振る舞うのは難しいし、他人に自信過剰と思われるのも嫌です。そんなときには、フラットに自分の価値を受け止める練習をしましょう。嫌味なくそれができている人は、ほめられたときにこう返します。

「ありがとうございます」

「嬉しいです」

私はこれを聞いたときに、自分を卑下するわけでもなく、かといって自慢げでもなく、とても健全な心の持ち方だと感じました。


自分に向けられた悪口は率直に受け入れなくてはなりませんが、ほめられたことを素直に受け止めることも、同じくらい大事なことです。

それがないと、ジョハリの窓(「自分から見た自分」と「他者から見た自分」の情報を切り分ける心理学モデルの1つ)でいう「盲点の窓(相手は知っているが、自分は気付いていない領域)」は開いていかないので、自己理解が止まってしまいます。そして自分の思い込みだけで、自分の可能性に蓋をしてしまうことにもなります。

日本人は空気を読むのが得意なので、日本の社会では波風を立てない対応が無難です。自分を下げておくというのは、まさに無難なコミュニケーションのコツです。でも、過剰に自分を下げなくても、「ありがとう」や「嬉しい」と表現することで、波風立てずに対応することができるのです。

ちょっとしたことかもしれませんが、自分に向けられた評価を頭から否定しない習慣というのはとても大事です。意識して素直に受け止める練習をしておくと、自然と自分の価値を信じられるようになるのではないでしょうか。

(有山 徹 : 一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事)