長安マツダ汽車有限公司が開発・製造を行う新型電動車「MAZDA EZ-6」(筆者撮影)

マツダは2024年10月26日、長安汽車と共同で開発した新型車「MAZDA EZ-6」を発売し、電気自動車(BEV)タイプとレンジエクステンダーEV(EREV)の2タイプをそろえた。

注目のひとつが価格で、EREVのベーシック版モデルは13.98万元(約300万円)と、地場ブランドと遜色ない水準となっている。


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「友達価格だ」と、長安マツダ販売会社の呉旭曦副総経理は、コスパの高い価格設定を強調。さらに、外資系EVの中でトップレベルの智能化(インテリジェント化)もアピールする。

今年に入ってやや減速しているものの、電動化シフトが進む中国でガソリン車ニーズが減少の一途を辿っていることは、周知のとおり。各社とも残存者利益を得るため、値下げ競争を繰り広げている。

そんな中、前述のマツダをはじめ、急進する中国地場メーカーと比べ電動化に出遅れた日本自動車メーカーは、ようやくBEV開発・生産体制の構築に踏み出した。各社とも、中国の合弁パートナーや大手テック企業との協業を通じて、段階的に電動化戦略を進めることで劣位挽回を目指している。

日系メーカーの「電動化シフト」が加速

マツダは2024年4月、中国事業の戦略機能を広島本社から上海市に移転した。2027年までに中国での新エネルギー車(NEV)開発に100億元(2100億円以上)を投入すると発表し、2030年までに現地での「電動車開発」「電池技術の開発」「電池の現地生産」を実現する計画を立てている。


「友達価格」として13.98万元の価格を強調する長安マツダ販売会社の呉旭曦副総経理(筆者撮影)

「長安マツダから2025年にも電動化モデルを投入し、中国戦略のスピードを一層加速させ、販売の9割をNEVにする」というのは、担当役員の中島徹氏だ。

ホンダは2024年10月、湖北省武漢市で東風ホンダのBEV専用工場を稼働し、中国市場に特化したBEV「霊悉(リンシー)L」や「菀(イエ)シリーズ」を生産する。

もうひとつの合弁会社、広汽ホンダのBEV専用工場が2025年に稼働すれば、両工場をあわせたBEV生産能力は、年間24万台の規模になる見込みだ。2022年に投入した「e:N」シリーズに加え、2027年までに10車種を投入し、BEVラインナップの拡充で巻き返しを図る。

トヨタも中国でBEVの投入を急いでいる。中国工業情報省が発表した第387回(2024年9月)、第388回(2024年10月)「道路機動車両生産企業及び製品公告」(車両生産許可リスト)には、それぞれ広汽トヨタ「bZ3X」、一汽トヨタ「bZ3C」が掲載された。


一汽トヨタ「bZ3C」の生産申告写真 (工業省ホームページより)

これまでの「bZシリーズ」と比べこの2モデルは、「ハンマーヘッド」のフロントデザインを採用し、スポーティな走りと個性的なスタイリングを備える。bZ3XとbZ3Cの2車は、2025年第1四半期に生産を開始する予定だ。

広汽トヨタで生産するbZ4Xは、中国車載電池で第3位の中創新航科技(CALB)製リン酸鉄リチウムイオン電池と、ニデック製の駆動システムを採用。一方、一汽トヨタで生産するbZ3Cは、BYD製リン酸鉄リチウムイオン電池「ブレードバッテリー」および駆動システム、天津アドヴィックス製ABSブレーキシステムなどを用いるという。

なお、2車ともに「TOYOTA PILOT」と名付けられたNOA (Navigation on Autopilot)をトヨタ車として初めて搭載する。自動運転レベルでは「レベル2」となるが、高度な機能を備えるシステムだ。

新車開発に中国勢のリソースを活用

近年中国では、デザインや乗り心地だけではなく、運転支援機能や乗車体験も車選びの重要な要素になっており、地場各社のBEVはNOAや自動音声を含む先進的な機能で、ガソリン車モデルとの差別化を図ろうとしている。

そうした中で、日系を含む外資系企業では、中国の合弁パートナーのBEVプラットフォームやリソースを活用して、新型車開発を加速させる事例が増えている。

先のMAZDA EZ-6は、マツダ「魂動」デザインと走行性能、長安汽車のEPAプラットフォームのコラボレーションで開発した新モデルであり、東風ホンダ霊悉Lは、現地採用のエンジニアが開発した合弁企業の独自ブランドだ。


「MAZDA EZ-6」は全長4921mm×全幅1890mm×全高1485mm、駆動方式はRWDとなる(筆者撮影)

日産も、合弁パートナーである東風汽車のリソースを活用し、GLOCAL(Global+Local)戦略で中国消費者の嗜好に合った電動車を開発する計画。豊富なハイブリッド車のラインナップを強みとし、他社とは一線を画してきたトヨタも、BYDの技術・部品を取り込みながら巻き返そうとしている。

ヨーロッパ勢も、昨年から自動運転・コネクテッドなどの分野で先行する、中国メーカーの技術を活用し、開発プロセスの短縮を図ろうとする動きが見られるようになってきた。

ドイツのフォルクスワーゲンは、新興BEVメーカーの小鵬汽車(シャオペン)に7億米ドルを出資し、そのプラットフォームと自動運転システムを活用した中型BEVを2026年に投入する予定だ。


フォルクスワーゲンが北京国際モーターショー2024で発表したコンセプトカー「ID.CODE」(写真:Volkswagen)

また、上海汽車との合弁である上汽フォルクスワーゲンは、主力モデルの「ティグアンL(ロング)」に、DJI Automotive(民生用ドローン最大手DJI傘下)が開発した自動運転機能「IQ.Pilot」、テンセントのSNS機能、iFLYTEK(アイフライテック)の自動音声機能を採用し、ガソリン車で既存のファンをキープしようとしている。

ステランティスは2023年、新興BEVメーカーの零跑汽車(リープモーター)に15億ユーロを出資した。両社は、オランダで合弁会社「零跑国際(リープモーター・インターナショナル)」を設立。ステランティスの製造力と販売網を生かし、グローバルでBEV事業の拡大を目指す。

技術を“与える側”から、“もらう側”への転換

中国国内での乗用車出荷台数を見ると、2024年1〜9月は前年同期比1.6%減。中国政府は、今年3月からNEVや排気量2.0リッター以下のガソリン車に対し、買い替え補助金政策を実施しているものの、新車需要の減速は続く。


BYDなど、中国勢の値下げ攻勢や電動化の進行は、ガソリン車販売を中心とするに日系メーカーの事業基盤を侵食している。日系メーカーは人員の削減、生産ラインの再編、調達戦略の見直しを通じて、生産能力の適正化を行う一方、中国工場の輸出拠点化にも取り組みはじめた。

現在の中国では、内燃機関技術が新車販売の差別化要因にならず、かつて中国勢の成長を引っ張ってきた日系車ブランドが技術を“与える側”から、“もらう側”へと立場を変えつつある。

中国製BEVの競争力が、グローバル市場でも無視できないレベルに到達している今、従来型のモノづくりと製品戦略では立ちいかない。中国のサプライチェーンとエコシステムを活用した、グローバルモデルの開発手法を“適用”する時代になりつつあるのだ。

日系メーカーは戦略的優先事項を見直し、中国戦略に絡む第三国ビジネスや異業種のパートナーとの協業体制を構築する必要があるだろう。

(湯 進 : みずほ銀行ビジネスソリューション部 上席主任研究員、上海工程技術大学客員教授)