ブロック注射にはどんな副作用や合併症がある? ペインクリニック専門医が解説
ペインクリニックでは、慢性的な痛みや神経痛を緩和するために「ブロック注射」という治療法がよく用いられます。ブロック注射とは、神経やその周囲に局所麻酔薬やステロイドを注入することで痛みの信号を遮断し、痛みを和らげる方法です。そこで、ペインクリニックで行われるブロック注射の具体的な内容やその効果、さらには知っておくべき副作用や合併症について「恵比寿いたみと内科のクリニック」の加藤類先生に解説してもらいました。
監修医師:
加藤 類(恵比寿いたみと内科のクリニック)
九州大学を卒業後、福岡赤十字病院、九州大学病院、北海道大学病院、砂川市立病院、北海道大学病院麻酔科助教、菊名記念病院麻酔科部長、東京医療センター、国立国際医療研究センター病院麻酔科医長、済生会中央病院麻酔科部長などで経験を積みながら、ペインクリニックの外来や緩和ケアや無痛分娩にも携わる。 2024年、東京都渋谷区に「恵比寿いたみと内科のクリニック」を開院、院長となる。 医学博士、日本ペインクリニック学会ペインクリニック専門医、日本麻酔科学会麻酔科専門医・指導医、日本心臓血管麻酔学会心臓血管麻酔専門医、JB-POT。
痛みの治療にはどんなものがある? 医師が解説
編集部
痛みに対する治療法について教えてください。
加藤先生
痛みの強さや原因によって用いる薬物や治療手段は異なりますが、通常はアセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)など一般的な鎮痛薬を治療の最初に使用することが多いですね。中等度以上の痛みがある場合は、もう少し強い鎮痛薬や漢方薬を追加します。薬物療法で痛みが抑えられない場合や、神経ブロックを行うメリットが明らかな場合には、治療の初期から神経ブロックを併用します。特に慢性痛の治療においては、薬物療法だけでは効果が不十分なことが多いため、神経ブロックだけでなく高周波パルス療法や低出力レーザー治療などを組み合わせる必要があります。
編集部
高周波パルス療法、低出力レーザー治療とはどんな治療ですか?
加藤先生
高周波パルス療法とは、特殊な針を用いて痛みの原因となっている神経の周囲に高周波電流を流し、痛みの伝達や神経の興奮性を抑えて鎮痛効果を発揮する治療法です。神経の炎症を抑え、細胞の機能を変化させることで通常の神経ブロックよりも長期間の効果が期待できます。低出力レーザー治療は、痛みのある筋肉や関節もしくは星状神経節に近赤外線レーザー光を照射する治療法です。近赤外線は可視光線よりも波長が長く、組織への浸透性が高いため、皮膚表層から数cmの深さまで治療効果が期待できます。近赤外線レーザー光の主な作用は鎮痛、抗炎症、組織修復の促進、血行改善など多岐にわたると考えられています。
ブロック注射について詳しく教えて!
編集部
では、ブロック注射についても教えてください。
加藤先生
ブロック注射は、痛みや温度などを伝える感覚神経をターゲットとしたものと、自律神経をターゲットにしたものに大別できます。どちらも目的の神経の近くに局所麻酔薬やステロイドを注入して痛みを緩和する治療法で、痛みの種類に応じて使い分けます。感覚神経ブロックは、神経の伝達を遮断することで痛みを緩和するだけでなく、痛みによって通常よりも過敏になっている神経を鎮静させ、痛みの悪循環を断つことができます。
編集部
自律神経をターゲットにしたものについてもお願いします。
加藤先生
自律神経は身体の状況に応じて、心拍数、呼吸、消化、体温、筋緊張などを自動的に調節している神経です。自律神経が興奮状態にあると、痛みがある部位の血流を低下させたり筋緊張を強めたりして、冷えやこわばりを生じさせ、結果として痛みが長引く原因になります。自律神経の中枢の一つである「星状神経節」の近くに局所麻酔を注射する星状神経節のブロックを行うと、自律神経の活動が抑制され血液循環や筋緊張が改善するので、痛みを抑えることができます。
編集部
ブロック注射はどこで、どのように行われるのですか?
加藤先生
ブロック注射は病院やクリニックなどの医療機関で、ペインクリニック科や整形外科などの医師が行います。事前に問診や診察、画像検査などを行って診断を確定し、ブロックの対象となる神経を同定します。次に患者さんにブロックの効果や副作用のリスクを説明し、同意を得た後に実施に移ります。最初に処置するエリアを消毒し、必要に応じて局所麻酔を行います。次に目的とする神経の近くにブロック針を穿刺(せんし/針を刺すこと)し、針が目標に達したら局所麻酔薬やステロイドを注入します。ブロックが終了したら針を抜いて、穿刺部位を圧迫止血します。ブロック後は効果を確認したり、麻酔からの回復を待ったりするため、一定の安静時間が必要となります。
編集部
ブロック注射の注意点や合併症を教えてください。
加藤先生
神経ブロックは神経やその近くに針を刺す繊細な医療行為ですので、しっかりと説明をしてくれる信頼できる医師のもとで治療を受けることをお勧めします。また、全てのブロックに共通して起こりうる合併症として、出血、感染、神経損傷、局所麻酔中毒などがあります。合併症を予防するため、ブロックを行う前に血液検査を行い血小板数や血液凝固機能に異常がないかチェックしたり、穿刺部位を消毒することで細菌感染を予防したり、エコーやレントゲン透視を用いて神経や血管の位置をよく確認する必要があります。
編集部
それぞれのブロック注射に特有の副作用もあるのですか?
加藤先生
はい。たとえば星状神経節ブロックでは、ホルネル徴候(縮瞳・眼球陥没・眼瞼下垂)や目の充血が出現します(ホルネル徴候はブロックが成功すると必ず起きますので、純粋な副作用とは言えない)。また、注入した局所麻酔が星状神経節周囲に広がって、近くにある神経をブロックすることで嗄声(声がかすれる)、喉の違和感、腕や手のしびれなどの副作用が起きることがあります。これらの副作用は局所麻酔が効いている1時間前後で必ず回復してきます。頻度は低いものの重大な合併症として頚部の動脈損傷があります。動脈を損傷すると大量に出血し、場合によっては命に係わることもありえますが、エコーガイド下にブロックを行うことで動脈損傷のリスクを下げることが出来ます。
編集部
そのほかだと?
加藤先生
硬膜外ブロックの場合は、硬膜外血腫、硬膜外膿瘍、硬膜穿破、脊髄損傷などが起こる可能性があります。硬膜外血腫・硬膜外膿瘍は発生する確率は低いものの、起きた場合は摘出手術が必要となることもあるため、リスクのある場合は硬膜外ブロックを施行しません。硬膜穿破を起こすと、穴から髄液が漏れて頭痛が起こることがあります。また、硬膜穿破に気づかずに薬液を注入すると、脳神経系全体が麻酔されてしまい、意識消失や呼吸停止など重篤な合併症を起こすことがあります。硬膜外ブロックは難易度が高く重篤な合併症を起こすこともあるため、熟練した医師が行う必要があります。末梢神経ブロックの場合は、ブロックする部位の近くにある臓器や血管を誤穿刺して損傷してしまう可能性があります。穿刺の際にエコーを用いることにより、臓器や血管損傷を避けるだけでなく、目的とする神経を正確にブロックすることが可能になります。
編集部
色々あるのですね。
加藤先生
そうですね。神経ブロックの合併症はいろいろありますが、適切な準備で避けることが出来るものも多く、しっかりと準備して必要な手順を踏めば過度に心配する必要はありません。合併症を心配しすぎるよりも、メリットとデメリットを慎重に評価したうえで、信頼できる医療機関で治療を受けることが重要だと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
加藤先生
神経ブロックは、適切に行われれば非常に有効な治療法となりますので、よく医師と相談し十分説明を受けた上で、選択する治療法だと思います。合併症はゼロではありませんが、ポイントを押さえれば、ほとんどの合併症は避けることができますので、過度に怖がらないでください。
編集部まとめ
ブロック注射には種類があり、それぞれの種類によって異なるリスクが伴うため、その点をしっかりと念頭に置くことが大切です。治療を受ける際は、信頼できる医療機関で、経験豊富な医師と十分に相談した上で進めるようにしましょう。
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