アジアの平和、安定は防衛力や抑止力だけでは維持できない。日本が外交力を発揮して、中国などとの対話を強化すべきだ。与野党を超えた共通認識としたい。

 石破茂首相は衆院を解散した直後、東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議に出席するためにラオスへ飛び、外交デビューした。

 中国の李強首相、韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領をはじめ初の首脳会談をこなした。

 アジア版NATO(北大西洋条約機構)の創設を持論とする石破首相だが、一連の首脳会談では言及していない。各国の強い警戒を考慮して控えたのだろう。

 首相は外交、安全保障政策に関し、日米同盟を基軸として「外交力と防衛力の両輪をバランスよく強化する」と所信表明演説や記者会見で述べている。言葉通りに実行してもらいたい。

 力や威圧による一方的な現状変更の試みを続ける中国はアジアの緊張を高めている。日本は米国と連携し、脅威に対応する必要がある。

 注意すべきことは、日米の防衛協力強化に中国が軍事力増強で対抗し、緊張が一層高まる「安全保障のジレンマ」に陥る恐れがあることだ。

 岸田文雄政権では「自由で開かれたインド太平洋」をスローガンに、日米にオーストラリア、インドを加えた4カ国の協力枠組み「クアッド」を推進した。中国はこれをアジア版NATOの試みとみて反発している。

 米中が対立を深めるとともに日中関係も厳しさを増す。沖縄県・尖閣諸島の領有権、日本産水産物の禁輸、邦人の拘束や殺害などの難題が山積している。中国軍の領海や領空への侵入も相次ぎ、不測の事態が懸念される状況だ。

 こうした緊張状態の中で、日中首脳の対話が極めて乏しいことを憂慮する。問題が多い時だからこそ、事態をエスカレートさせないように首脳同士が意思疎通を図っておくことが大切だ。

 首脳間の対話は北朝鮮との関係でも極めて重要である。日本人拉致、核・ミサイル開発の解決を目指す上で、長く停滞している対話と協議が欠かせない。

 金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記との会談を目指すと言っていた岸田政権は、実現しないまま退陣した。

 石破首相は拉致問題解決に向け、東京と平壌に双方の連絡事務所を開設する考えだ。従来の政府のやり方を続けても事態が進展する可能性は低いとの判断だろうが、解決への道筋は見えない。

 首相に面会した拉致被害者の家族は「時間稼ぎをして拉致問題を幕引きすることにしか寄与しない」と明確に反対している。

 北朝鮮問題にも米韓、中国の理解と協力が不可欠だ。日本は外交力でアジア諸国との信頼醸成に努めたい。