萩生田光一氏

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就任直後に「約束」をほごに

「君子豹変す」とは元来「優れた人間は過ちを直ちに改める」という肯定的な意味合いで使われていたが、昨今は「主義主張を捨てる」と悪く取られる向きがある。石破茂首相(67)の豹変ぶりはまさに後者。その背景には、最強の捜査機関の影がちらつくというのだ。【前後編の前編】

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「石破丸」は、のっけから波乱の船出になった。だがその先にはさらなる大波が待ち受ける。組閣直後の内閣支持率は5割前後と振るわず。そして近い将来、一層の落ち込みが避けられそうにないのである。

萩生田光一氏

 まずは政権の出だしを振り返ると、10月4日の所信表明で石破茂首相は、

「政治資金問題で失われた政治への信頼を取り戻すとともに、わが国が置かれている状況を国民の皆様に説明し、納得と共感をいただきながら安全安心で豊かな日本を再構築する」

 と訴えた。しかし、その声も「約束を守れ」などという野次でかき消される荒れ模様の展開に。もっとも、石破首相が就任直後に、「約束」をほごにしたのは事実である。

「総裁選中、石破氏は『アジア版NATOの創設』や『日米地位協定の改定』を主張していました。これに、アメリカやアジア各国からの強い反発があったため、所信表明にそうした政策は盛り込まれませんでした」(政治部デスク)

事態は急転

 極め付きが裏金議員の公認問題である。そもそも、石破首相は裏金議員に関して非公認の可能性を示唆していた。だが一方で、森山裕幹事長(79)の考えは異なった。

「森山氏はかつて郵政選挙の際に造反して、小泉純一郎元首相に刺客を立てられた苦い経験もあり、党内融和を優先すべしとの立場でした。その森山氏に押し切られる形で、石破首相も一時、地元の要請や再発防止の誓約書提出などを条件として、裏金議員の原則公認及び重複立候補の容認に傾いたのです」(同)

 ところが事態は急転する。

「石破首相は今月5日、6日と、連続して森山氏や小泉進次郎選対委員長(43)らと対応を協議。最終的に一部の裏金議員を非公認とする方針に再転換しました」

場当たり的な対応

 結果、1年間の党員資格停止中の下村博文氏(70)と西村康稔氏(62)のほか、半年間の党員資格停止処分が解除されたばかりの高木毅氏(68)、1年間の党役職停止中で、かつ政治倫理審査会での説明責任を果たしていない3名、すなわち萩生田光一氏(61)、平沢勝栄氏(79)、三ツ林裕巳氏(69)らが非公認になる見通しなのである。

 政治ジャーナリストの青山和弘氏が異例の判断に至った内幕を語る。

「小泉氏なども当初は重複立候補に関して再考の余地があるとしながら、公認は原則的に認める考えでした。しかし先日、自民党が独自に行った情勢調査の数字を見たところ、自・公で最悪過半数割れもあり得るという厳しい結果だった。これを受けて、小泉氏も強硬路線を主張するようになりました。最後は石破首相が決断したものの、場当たり的な対応と言われても仕方がない面があります」

「安倍派だけを血祭りに上げるというのはとんでもないこと」

 影響を受けるのは先の6名だけではない。

「首相は今後、地元の理解が進んでいないと判断した議員についても非公認にする構えです。また、すべての裏金議員の重複立候補を認めない方針で、その数は最大37名になる。今度の総選挙で相当数が落選の憂き目に遭うことは間違いありません」(前出・デスク)

 無論、大半は裏金問題の震源地である安倍派の議員だ。元幹部の下村氏が、

「党ですでに処分が終わっているのですから、あとは有権者に判断してもらうのが適切なあり方ではないでしょうか。本人が知らないうちに不記載にしていたケースだって相当ある。形式的な問題で、安倍派だけを血祭りに上げるというのはとんでもないことです」

 そう嘆息すれば、ある安倍派の選挙区支部長(元議員)も、

「本人はもとより、事務所の人間が誰も立件されていない場合まで、さらに罰を受けるのは納得いきません。だったら、小渕優子さんはどうなるんですか。彼女なんて東京地検特捜部から家宅捜索を受ける前に、PCのハードディスクにドリルで穴を開けていたんですよ。あの年の選挙で彼女は公認されているし、比例に重複立候補もしている。なぜ、われわればかりがこんな目に遭うのか。不公平ですよ」

「石破はまるで信用できない」

 総裁選で石破氏を支持した閣僚経験者も匿名を条件にこうぶちまける。

「そもそも私はあの人(石破首相)と総裁選が始まる直前に“この問題についてはしっかり応援してくださいよ”と話し、本人から『承諾』も得ていたのです。それなのに、いざふたを開けてみたら“はいはい”と、誰かの言いなりになって。今回の出来事は石破の人間性を知るのに役に立ちますよ。要するに、まるで信用できないんだ」

 石破首相の苛烈な決定は、かように党内に遺恨を生んだのである。だが驚くべきは、これで裏金問題に幕引きが図られたわけではないことだ。次なる大波が襲い来るのは必至の情勢なのである。

「派閥の裏金問題と全く同じ構造」

 社会部デスクが明かす。

「実は東京地検特捜部が、水面下で自民党東京都連を捜査中です。神戸学院大学の上脇博之教授が年始に都連の関係2団体、政党支部の『自由民主党東京都支部連合会』と政治団体の『都議会自由民主党』を東京地検に告発しています。特捜部はこの間、派閥の裏金問題に続き、都連の方を調べていたのです。すでに、都連事務局の幹部職員が任意で事情を聞かれています」

 上脇教授といえば、自民党派閥の裏金問題を告発したことで知られる。ご本人が解説する。

「今年1月に私が刑事告発した、自民党東京都連及び都議会自民党の不記載問題は、派閥の裏金問題と全く同じ構造を持っているといえます」

 どういうことか。

「私が2022年11月の『しんぶん赤旗』の報道をもとに、裏金問題で最初に告発したのは、派閥と各政治団体の収支報告書を突き合わせて判明した、20万円を超えるパーティー券の収入に関する不記載についてです。しかし例えば、18年から4年分の清和政策研究会(安倍派)の収支報告書に不記載だった政治団体からの収入は、4000万円に達していなかった。一方で、清和政策研究会の会計責任者が起訴されたときの虚偽記入額は、総額6億7000万円を超えていました」

「萩生田氏を捜査の本丸と位置付けている」

 収支報告書の作成・提出義務のある政治団体からの収入に関する不記載額は結局、はるかに巨額だったというわけである。企業側の支出はチェックしようがないために、

「企業から得た資金が、裏金の原資になっていた可能性が高いのです」

 この点、上脇氏の告発状によると、22年の自民党東京都連の収支報告書に翌年開催する予定のパーティー事業の収入として計上されたのは7646万円だったが、7団体分・合計380万円が不記載になっていた。同じく都議会自民党でも、19年は5団体分・174万円、22年は11団体分・274万円が不記載だったというのである。

「今のところ不記載額は多額ではありませんが、派閥同様、それは氷山の一角に過ぎないと考えるのが自然です。加えて、当時の自民党東京都連の代表はあの萩生田氏。言わずもがなですが、派閥の裏金問題では安倍派の幹部で2728万円と最も不記載額が多かった議員です」

 上脇氏はその萩生田氏をはじめ、都連の事務局長や都議などを政治資金規正法違反容疑で告発しており、

「特捜部は萩生田氏を捜査の本丸と位置付けています」(先のデスク)

 後編【「ノルマ超過分を裏金にしていた」と元議員が吐露 新たに特捜部が追う「自民党東京都連の闇」】では、実際に裏金を作っていた都連所属の元国会議員の証言をもとに、「都連の闇」に迫っている。

「週刊新潮」2024年10月17日号 掲載