社交不安障害

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監修医師:
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)

専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医

社交不安障害の概要

社交不安障害(Social Anxiety Disorder:SAD)は、対人場面での緊張や不安が著しく、その状態が6ヶ月以上続く精神疾患です。
かつては対人恐怖症と呼ばれていました。

社交不安障害は、他人に不快な思いをさせるのではないかという不安や、注目されて失敗したら恥ずかしいという強い恐れが根底にあることが特徴です。
主な症状には、動悸や発汗、手や身体の震え、腹痛などがあります。

人前に立つ機会、かしこまった場所での食事、目上の人と話す機会などがあると、恥をかくのではないかと過剰に恐れます。
これを「予期不安」と呼びます。
そして、このような苦手な場面を避けるようになります。

重症化すると、不登校や引きこもりになることもあり、社会生活にますます自信が持てなくなります。
うつ病を併発する場合も少なくありません。

日本では1930年代から森田正馬による「対人恐怖症」の研究が進み、「森田療法」として広く知られています。
一方、欧米では1980年代以降、徐々に独立した障害として認識されるようになり、1994年にDSM-IVで「社交不安障害」という名称が採用され、理解が深まりつつあります。

社交不安障害は慢性化しやすく、自然寛解率は15.1%にとどまります。
世界的にも決して珍しい病気ではなく、7人に1人が一生涯のうちにかかるといわれています。
また、平均発症年齢は13歳頃と若いことが特徴です。
そのため、多くの人が自分の症状を、単なる「あがり症な性格」や内気であると捉えてしまい、適切な治療を受けずにいることが多いのが現状です。

社交不安障害の原因

社交不安障害の原因は明確には分かっていませんが、さまざまな要素が関係しています。

生物学的要因

脳の扁桃体の過活動や神経伝達物質「セロトニン」のバランスの乱れがあります。

環境要因

幼少期の家庭環境や失敗を否定的に捉える社会経験が大きいようです。
また、家族に社交不安障害の人がいれば遺伝的要因のリスクも高いといわれています。

これらの要因が複雑に絡み合って、社交不安障害の発症に影響していると考えられています。

社交不安障害の前兆や初期症状について

社交不安障害の前兆や初期症状は、日常生活の中で徐々に現れてくることが多い傾向です。
対人場面では下記のような症状が代表的です。

人前で話すことが怖い(スピーチ恐怖)

人前で食事ができない(会食恐怖)

人前で文字を書くときに震える(書痙)

自分の行動が他人に注目されているのではと心配(視線恐怖)

公共のトイレで用を足すことができない

知らない人との会話が怖い

会議やプレゼンで発言するのが怖い

電話をかけるのに緊張する

目上の人とのコミュニケーションが怖い

身体症状としては、発汗、赤面、手や身体の震え、頭が真っ白になる、めまい、腹痛・下痢、吐き気、動悸、喉が詰まるような息苦しさ、口の渇きなどが挙げられます。
特に赤面や震え、発汗は他人からも緊張していると分かる症状なので、変だと思われていないかとますます不安が高まり、症状が強くなる傾向があります。
これらの症状が持続的に見られ、日常生活に支障をきたすようであれば、社交不安障害の可能性があります。

また、社交不安障害にはさまざまな合併症が見られることがあります。
主な合併症としては、パニック障害、全般性不安障害、うつ病、アルコール依存症、回避性パーソナリティ障害などです。
症状の程度や合併症の可能性を適切に診断するためにも、精神科または心療内科を受診することを検討しましょう。
適切な治療により、症状の改善が期待できます。

社交不安障害の検査・診断

社交不安障害の診断は、主に問診から始まります。
主な症状、持続期間、日常生活への影響、家族歴、治療歴、生活環境などを詳しく聞き取ります。
次に、DSM-5の診断基準に基づいて評価を行います。

基準基準は、恐怖や不安の過剰な症状と回避行動、6ヶ月以上の持続、日常生活への支障などです。
診断の補助として、リーボウィッツ社交不安尺度(LSAS)などの心理テストが用いられることもあります。
また、類似症状を引き起こす可能性のある身体疾患を除外するため、血液検査、心電図、脳波検査などが実施されることがあります。
最後に、パニック障害や自閉スペクトラム症、うつ病などのほかの精神疾患との鑑別診断を行います。
これらの総合的な評価により、社交不安障害の診断が行われます。

社交不安障害の治療

社交不安障害の主な治療法には、薬物療法と認知行動療法があります。
症状に応じて、両方を組み合わせて行う場合もあります。

薬物療法

薬物療法では主に3種類の薬剤が用いられます。

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
SSRIは社交不安障害の根治的な治療に最も効果的です。
脳内のセロトニンバランスを調整し、1日を通して不安や緊張を軽減します。
効果が現れるまでに約8~12週間かかりますが、継続的な服用により、恐怖を司る扁桃体の過敏さを徐々に改善します。

βブロッカー

主に緊張する場面の約30分~1時間前に服用し、動悸や震えなどの身体症状を軽減します。
特定の社会的場面でのレスキュー的役割を果たし、症状をやり過ごすのに役立ちます。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬

即効性があり、不安感そのものを軽減します。
頓服薬として服用しますが、依存性の問題があるため、過剰な使用には注意が必要です。

これらの薬物治療を進めることで、社交不安障害の症状の悪循環を断ち切り、患者さんが苦手な状況に挑戦する際の後押しを行います。

認知行動療法(CBT)

認知行動療法は、不安や緊張を引き起こす考えと、それに紐づく行動を調整する精神療法の一つです。社交不安障害の治療に効果があることが示されています。
主な手法には以下のようなものがあります。

1. 思考の同定

不安を引き起こす考え方のパターンを見つけ出します。

2. 認知の再構成

非合理的な思考パターンをより適応的な思考に置き換えます。

3. エクスポージャー(曝露療法)

恐れている社会的状況に段階的に直面し、不安に対処する能力を向上させます。

認知行動療法は通常、1セッション約45~50分で、16回以上のセッションを行います。
専門家の指導のもと、思考記録表などのツールを用いて自己の思考パターンを分析し、より適応的な考え方や行動を身につけていきます。

また、治療の一環として、通院すること自体が曝露療法になることも多いようです。電車に乗る、受付でお会計をするなど、社会生活も治療の一部となります。

社交不安障害になりやすい人・予防の方法

社交不安障害は誰にでも起こり得る精神疾患ですが、以下のような特徴を持つ人がなりやすいとされています。

内向的または神経質な性格の人

内向的または神経質な性格の人は、他人との交流に対して不安を感じやすい傾向があります。

内向的または神経質な性格の人

幼少期に過度に批判的または保護的な環境で育った人

社会的状況での否定的な経験(いじめや失敗など)がある人

家族に社交不安障害やほかの不安障害を持つ人がいる人

完璧主義の傾向がある人

自尊心が低い人

新しい環境や状況に適応するのが苦手な人

社交不安障害の予防には、健康的な生活習慣を心がけることや、自分にあったストレス解消法を見つけることが大切です。
思春期あたりから発症することが多いため、緊張することは当たり前という認識を持ち、段階的に苦手な場面に慣れることで症状の悪化を防ぎます。

また、周囲の理解とサポートも重要です。
社交不安障害は適切な治療で改善が可能な疾患です。
症状に気づいたら、一人で悩まずに医療機関に相談することが、回復への第一歩となります。

参考文献

https://www.hosp.hyo-med.ac.jp/disease_guide/detail/155

https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/disease34.html

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000113841.pdf

https://www.city.chiba.jp/shimin/shimin/jichi/documents/kouenshiryo.pdf

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsad/7/1/7_4/_article/-char/ja/

https://waseda.repo.nii.ac.jp/record/23791/files/Honbun-4367.pdf