米アラスカ州で、海洋調査船に積まれたズワイガニ=撮影日不明、米海洋大気局提供(AFP時事)

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 世界有数の豊かな漁場に異変が起きている。

 2021年、北極海に隣接するベーリング海で約100億匹のズワイガニが死滅したと判明。米海洋大気局(NOAA)は、海洋熱波と温暖化でベーリング海が「亜寒帯化」し、生態系が変化したことが大量死の要因と結論付けた。専門家は「世界で最も生産性の高い海洋生態系が、あらゆる予想よりも速く変貌しつつある」と警鐘を鳴らしている。

 ◇海洋熱波で餓死

 切り立った岩山に囲まれた湾には野生のラッコが浮かび、崖の上ではハクトウワシが羽を休める。北太平洋とベーリング海を隔てるアリューシャン列島の中ほどに位置する米アラスカ州ウナラスカ。日本の大手水産企業も加工工場を置く漁業の一大拠点だ。

 スケトウダラやマダラ、オヒョウ、タラバガニ、ズワイガニが主な漁獲物で、冷凍加工後に日本や米国、欧州、中国に輸送される。だが、22、23両年には大量死を受けてズワイガニ漁が禁止された。年2億2700万ドル(約340億円)規模だった水揚げ高はゼロになり、水産業は大きな打撃を受けた。

 NOAAアラスカ水産科学センターのコディ・ズワルスキー氏は「18年にはズワイガニが大量に捕れていたため、死滅をまったく予期していなかった」と振り返る。18、19年に海洋熱波がベーリング海を襲い、ズワイガニの代謝が上がったが、そのカロリー消費を賄うだけのエサが存在しなかったために餓死。さらに、海水温上昇でマダラが北上し、わずかに生き残ったズワイガニを食べ尽くしたという。

 ◇先住民の知恵

 ベーリング海は、海氷が所々存在する「極圏海域」とされてきた。だが、人為的な温暖化が進み、ベーリング海は亜寒帯海域に変わりつつある。NOAAはこの傾向が今後さらに加速すると予想する。

 「猛烈な嵐や異常気象が増え、この地域特有の鳥やアシカなどの海洋生物をあまり見掛けなくなった」。ウナラスカの先住民族行政機関トップのクリス・プライス氏は、この数年で環境変化がより顕著になったと指摘。アラスカ州南東部の漁業者組合のリンダ・ベンケン代表も「暖かい海に生息するマナガツオやマンボウ、ビンナガマグロがアラスカ湾やベーリング海で見られるようになった」と話す。

 アラスカ州政府は減少傾向にある魚の漁獲量を制限するなどの対策を講じている。だが、環境が急激に変わる中、将来予測は難しさを増している。「生態系を管理できると思うのは人間のおごりだ」とベンケン氏。「先住民は必要以上の魚や動物を捕らず、1万年以上も生態系を守りながら生きてきた。われわれもその知恵を学ぶべきだ」と訴えている。